おうちにかえりたくない
「はーーーーーーーー」
わたしはかつてこれほどまでに長いため息を聞いたことがなかった。
目の前で頭を抱えるユーリウス殿下にビクつきながら、初めて入ったユーリウス殿下の自室で、もじもじしながら扉に向かって気づかれないように後退した。
「フェリル・マーデリック」
「は、はい!」
ビクゥっと多分飛び跳ねたわたしの姿をユーリウス殿下のいつもの張りつけた笑みが見ている。冷めきった瞳にはどこかメラメラと燃える何かが見えるような……見えないような……。
「つまり、こういうことですね。貴方はたまたま従者と城下町を散策していたところ、何者かに攫われ、売られそうになり、抵抗していたところを、たまたま通りかかったザイオンの王太子殿下に救われた、と」
「お、おっしゃる通りです」
「殿下は貴方が例の“女神”だと気がついていないどころか、ネリー・マーデリックを“女神”だと勘違いしている、と」
「は、はぃ……」
わたしの気の所為でなければ、“女神”のところを嫌に強調したユーリウス殿下が机をトントンと小刻みに指で叩いている。
その音のなんと恐ろしいことか……。
もしかしたらシーフーにも匹敵するかも……いや、やっぱシーフーのが怖いわ。
「はぁ……面倒なことになりましたね」
「おっしゃる通りで……」
わたしもそう思います……。
顔面蒼白なわたしにユーリウス殿下は素晴らしい笑顔を向け、わたしは更に縮こまって頭を下げた。
ユーリウス殿下には巻き込んでしまって本当に申し訳ない思いでいっぱいだ。
「まあ、とにかく、これ以上殿下を騙すような真似はできません。手筈通り、貴方と私は婚約者。貴方はまず殿下に謝罪し殿下の求婚をきちんとお断りして、丁重にお帰りいただくのを待つしかない」
「……へ、へい」
「……はぁ、まあ、貴方が暴漢と暴れている様を見たのなら、貴方がさぞ“女神”ではないと分かっていただけたでしょうから、それに関しては良かったのかもしれませんが……」
「そ、そうか!」
ぱっと顔を上げたわたしを待っていたのは、やはり絶対零度の冷たさを誇る冷笑で、わたしは再び青い顔で俯いた。
「ですが、貴方が飛龍を撃ち落としたことは絶対に、絶ッ対に隠し通してください。他国の王太子殿下を殺しかけただなんてそれこそ国際問題です」
「……はぃ、すみません」
「……どうして貴方はこうも面倒ばかり持ってくるのでしょうか……」
……それはわたしにもよく分からないんだ。すまんユーリウス殿下。
問題が解決した暁には本当に全力で殿下の恋を応援すると誓うから、本当に!
心の中でそう呟き拳を握ったわたしに何故だか殿下はうんざりした顔を向けて「嫌な予感がする」と呟いた。
いったいなんのことだろう。
「……私は今回の件について陛下やジェラルド様と話がありますので、これで」
「か、帰ってもいいのか、……ですか?」
再び顔を上げたわたしにユーリウス殿下はにっこり笑っていない目で微笑んでそれからゆっくり口を開く。
「貴方を野放しにするのは危険ですので、迎えを呼んであります。今後、絶対に1人にはならないように」
「む、迎え……?」
首を傾げたわたしにユーリウス殿下は何も答えず、その代わりに気がつけば後ろから、なぜだろう……妙な冷気を感じた。
「…………ひっ!」
「お迎えに上がりました。フェリルお嬢様」
ユーリウス殿下の比ではない冷たさにがくがくと全身が震えたところで無情にもユーリウス殿下は出ていき、わたしの肩に手袋に包まれた手が乗せられる。
大袈裟でなく飛び上がったわたしは、ぎぎぎ、と音が出るほどぎこちなく首を回した。
「し、ししし、し」
「はい、お嬢様。帰りましょうか」
まるで人間味のない美貌。完璧な笑みを携えた我が家の優秀な執事が頷く。
それに「嫌だ」と言える訳もなく、わたしは連行された…………。
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ようやくトラブルメーカーが家に収容されるようですね( ´ ` )
周囲の人々お疲れ様です……。




