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ほんとうのじぶん

お久しぶりです。とんでもなく放置していて申し訳ありません! 

少し時間ができましたので短いですが更新させていただきます。

よろしくお願いいたします!



 フェリル・マーデリック。

 正直あの女のことを聞く気なんて無かったんだ。だから、多分目を見開いて僕を凝視するイレネー様より誰より僕が驚いていた。

 驚いたついでにしばらく棒のように突っ立って、それから慌てて笑みを張り付けると「すみません、なんでもないです」といつもみたいに口にして踵を返した。


「あ、おい! ユーリ! ユーリウス!」


 背中にイレネー様の焦ったような声を受けて本当に焦ったのはほかでもない僕の方だ。

 羞恥に赤くなる頬をどうにかしたくて、振り切る様に城に向かって走った。


 そもそも、どうして僕があの女のことを気にしなければいけないのだ。僕はあれに巻き込まれたというだけの被害者で、あんな馬鹿な奴どうだっていいはずだ。

 ……ただ、あの晩餐の前に言われた言葉が頭から離れなくて。物凄く苛立つのだ。

 ころころ変わる態度、繕うのかと思えば、馬鹿みたいにはしゃいで。僕に恋を教えろ、と言った。

 あんな意味の分からない人間に僕はあった事がない。こんなに心をかき乱されることは今までに無かった。


 だから、あの女の正体を見極めてやろうと思って、だから……あの女が、僕のことを何も知らないからどうも思いようがない、みたいなことを言うから。だから、僕が、わざわざ……。


 そこまで考えて、はた、と足を止めた。もう顔のほてりは消え失せているが、代わりに血の気が下がっていくような気がする。


「……わざわざ、なんだ」


 わざわざ、僕のことを知ってもらう必要があるのだろうか。知ってもらっていったいどうしようっていうんだ。まさか、僕はイレネー様とフェリル・マーデリックのようになりたいとでも思っているのだろうか。


 ……そんなわけがない。あんな態度のイレネー様には驚いたし、彼女があんな顔をイレネー様に向けていることにも衝撃は受けたが、だからなんだ。

 僕には関係ない。


「―――ウス殿下」


 ……そう、僕はただ、王族として東のザイオンと国交に問題が生じないよう、上手く円滑に王太子の求婚をどうにかできるように……そう、ただ、それが僕に与えられた“王子”としての使命だからそうするわけで。


「――リ―ス殿下」


 もう、その大役まで一月もないのだから、いやいや受けた役目だとはいえ失敗は許されないのだから、だから、僕は彼女のことを業務として、知る必要がどうしてもあったから、だから……。


「もう、ユーリウス殿下ったら」

「……ティアナ嬢」


 顔を上げると、そこには僕の愛しい人、ティアナ嬢が立っていた。

 美しい手入れの行き届いた赤色の髪に澄んだ青空の様な瞳。いつも浮かべている微笑みは儚げだ。

 今までフェリル・マーデリックにかき乱されていた心がスゥっと落ち着いていく。僕が、僕らしく振る舞える僕が戻ってくる感覚。普段の冷静な自分を自分でコントロールできる心地よさ。……ああ、これだ。フェリル・マーデリックに関わると本当に調子が狂うけれど、彼女のそばにいると落ち着くことができる。良かった。

 柔らかな風に撫でられているような、澄み切った心の内で僕は何故だか少しだけ罪悪感を感じていた。――誰に? 分からないけれど。


「どうされたのですか、随分お顔の色が悪いようでしたが」

「……いいえ、少し考え事をしていただけです」

「まあ、もしかしてわたくし邪魔をしてしまいました?」

「いえ、かえって声をかけていただいて助かったくらいです。貴方といると心が落ち着くので……」


 そういっていつものように笑みを浮かべると、彼女は大きな瞳をゆったりと細めて少しだけ頬を染める。

 ……こういうのを愛らしいというのであって、こういうのを淑女というのであって、フェリル・マーデリックはイレギュラーすぎて混乱しているだけだ、そうに違いない。

 だって、ほら、彼女の前であればいつも通り振る舞えるのだ。心をかき乱されることなく第三王子として求められている僕の完璧な姿でいることができる。

 だから、僕はティアナ嬢が……。


「まあ……わたくし、照れてしまいます。ユーリウス殿下は近頃なにか変わってしまわれたようで、心配しておりました」

「私が、ですか?」

「ええ、どこかぼんやりとしていたり……、何かを感情の削がれたような顔で見詰めていたり……。貴方様になにか良くないことがあったのでは……と」


 心配そうに眉を下げたティアナ嬢に僕はいつもの笑みを作って微笑む。その理由には大いに心当たりがあるわけだが、彼女に心配させてしまうほどに、というか、そんなひどい顔をしてしまっていたとは……。

 イレネー様にもここ最近お声をかけていただく機会があったのはそのせいかもしれない。


 ……僕としたことが、なんというありさまだ。この国の第三王子らしくきちんとしていなければ……。

 僕にあるのは“第三王子らしくある”という価値だけなのだから。


「心配させてしまって、申し訳ありません。ですが、もう大丈夫です。これからは気を付けますので」

「そう、ですか……。それなら良いのですが。無理されないでくださいね」


 僕は微笑みを浮かべたまま頷いた。心が乱されないというものは本当に気分がいいものだ。

 ここ数日見失っていた自分を取り戻せたような気がして僕はティアナ嬢への感謝と恋心を再確認した。


 だからこそ、あとひと月をどうにかして乗り切らねばならないが……。








この悩み多き青年が割と好きだったりします……。

もしよろしければご感想、ブクマお待ちしております!

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