おべんきょうのじかん
「ザイオンとは東にある大陸の大国で、君主制です。現国王はシュウ・セイラン。王太子の名前はシュウ・ジェンシー、お歳は22。希少種である飛龍の扱いに長けており、戦場にも度々飛龍使いとして姿を現すようです。政よりは軍事がお得意のようで、……ってフェリル様、聞いてますか」
「うん」
「……覚えましたか?」
「…………うん」
「本当に?」
「………………いや、」
カツカツとわたしの机を爪で弾くシーフーが頭を抱えて項垂れた。
対するわたしはと言うと、机に積まれた大量の分厚すぎる本とも言えないような資料にここ数日囲まれて暮らしている。
貴族名鑑とザイオンの歴史書、トルヴァンとザイオンの関係のあれやこれ。
それはそれは膨大な量をこの執事は覚えきれと言って聞かないのだ。
無茶だ、無茶すぎる。
延々と続くページをめくる音とシーフーの説明。それに文字文字文字……。
たまにやってくるマナーや社交のレッスンがこれ程嬉しかったことは無い。
演舞云々が終わってしまえばわたしの日常は以前のものにすっかり戻ってしまった。
外に出して貰えたのは一体いつが最後だっただろう。
とにかく、ここ数日はシーフーの顔しか見ていない。
「とにかく、外に出たい……」
「フェリル様、あなたがこれらを全部覚えてさっさと外交の席に立ちザイオンの王太子を追い払えばそれで済むことです」
「これ、全部って……無理だろう」
「無理でもなんでもやるんですよ。そしたらまた森で好き放題出来るんですから」
「森、かあ…………」
かつて、森で自由気ままに野山を駆け巡っていたのが遠い昔のように感じる。
わたしの世界はあそこだけだったのに今では城の第二騎士団のみんなとかイルとか、今頃何してるんだろうと思う人だって出来た。
わたしは本当に戻りたいのだろうか? 一人きりのあの森に。
近頃わたしはあの森に帰るということを忘れがちだ。それどころか寂しく思ってしまってすらいる。
気付かぬうちに難しい顔をしていたのか、黙り込んだわたしにシーフーが深いため息をつく。
「……分かりました。では、このザイオンの歴史とザイオン王家についてのこの二冊を覚えていただけたら、外に出ても良いですよ」
「本当か!?」
椅子を蹴り飛ばしてガタガタと立ち上がったわたしの椅子を器用に受け止めたシーフーがいつもの笑みを作り頷いた。
「私が貴方に嘘をついたことが?」
「ない! じゃあ、城にっ」
「城はダメです」
シーフーを見上げて食い気味に言った言葉は笑顔で一蹴された。
わたしが何を言うのか分かっていたかのように動かない笑顔にぐっと息を飲み込んだ。
「なんで」
「城は今忙しいのですよ。来月にはもうザイオンの王太子を筆頭に外交官と使者一行がやって来るんですから。誰かさんのせいでね」
「ぐぅっ、だってイルが……」
「だってもクソもありません。それからイレネー殿下とお呼びしてください」
「でも、」
「でももクソもありません」
「うーー」
「……城はダメですが、城下にお連れしますよ」
「え!!」
机にめり込むレベルで項垂れたわたしにシーフーが呆れたようにそう言った。
何を言われたのかよく分からなかったが、とんでもなく衝撃なことを言われた気がしてばっと顔を上げると、シーフーは相変わらず人間離れした美しい笑みを湛えていた。
「なんて言ったんだ?」
「城下に連れていく、と」
「じょ、城下ってあの……」
震える声で聞き返すと彼はにんまりと笑って頷いた。
城下って……あの、城下街って、あの……?!
行ったことがない、人がたくさんいる場所だと噂の、あの……!??
「……よし、シーフー、今日中に覚えてやる……!」
「はい、フェリル様その意気です」
わたしは多分生まれて初めての集中力を見せ、さすがに1日では無理だったが、10日でザイオンの歴史、王家について、それから産業と文化についてという恐ろしく分厚い書物を暗記した。
余談だが体重が激減したらしく久しぶりに会った双子に絶叫された。
いつもありがとうございます。お久しぶりです!長らく放置していて申し訳ございません……。
お優しいお言葉とご感想ありがとうございました(;_;)
ようやく更新出来ました……!
これからもできる時にちょこちょこ更新しますので、よろしければお願いします!
この辺りからようやくフェリルの生活に展開が訪れます……(*´-`*)




