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ざわつき





「フェリル・マーデリック……?」

「ユーリ?」




兜を取って現れた美しい水色の髪と見覚えのある繊細な顔立ちに、僕は思わず立ち上がった。



王族用に設けられた観覧席で、隣に座っていたジェラルド様がこちらを不思議そうにみているが、僕は全くもって冷静ではなかった。

あの特徴的すぎる容姿を見紛うわけが無い。

“ 精霊姫”と噂されるに値する人間離れした美しさの少女は彼女以外にはありえないはずだ。

けれど、何故、彼女があんなところで僕の兄と共にしかも演武をしているのか。



驚愕に目を見開いたままでいる僕を案じてかジェラルド様に何度か声をかけられてようやく、座った。

彼女は僕の婚約者という事になってはいるが僕は彼女と親しくないし親しくしたいとも思わないし、というか彼女の事がよくわからない。


数回会う機会がありはしたが、それでも依然として彼女の人柄は掴めたものでは無い。未知すぎる彼女が正直に言って僕は苦手だ。



「マーデリック……。ああ、ユーリの婚約者の。お前は気に入らなかったようだけれど、イレネーとはウマが合うらしいね」


ジェラルド様が顎に指を添えて楽しそうにそう言った。僕はといえばジェラルド様に視線すら向けずに眼下に広がる光景を凝視していた。



あの娘は本当にフェリル・マーデリックなのだろうか? 今まで僕に向けたどんな彼女とも違う。

自然に顔をほころばせ上気させた頬で照れたように笑う。

イレネー様に頭を乱暴に撫でられると口をとがらせて拗ねたような素振りを見せた。


イレネー様によってかき乱された特徴的な水を閉じ込めたような髪、美しい金の瞳と黄金の鎧が本当に戦女神のように見える。



今年の演武は誰がイレネー様の御相手を務めるのか本当に分からなかった。

何故ならいちばん有力だと言われていた第一騎士団のベルトランに声がかからなかったからだ。

ベルトランがジェラルド様やイレネー様に直訴してもお二人はなんだか難しい顔をされるばかりで、埒があかなかった。


だから、この度の演武はもしかしたら、史上初めての中止になるのでは、とすら噂されていたのだ。

それが、いよいよその当日になって、なんとイレネー様ともう一人の騎士は金の鎧で身を固め入場してきた。

重厚感のある音と、日を反射する美しい鎧。そして今までにないほどの跳躍と躍動感を魅せる二人に会場中が一時静まり返った。


イレネー様は毎年の事ながら実に見事だったけれど相手の騎士も相当な腕前で僕は恥ずかしながら釘付けになったのだ。

息をするのも忘れて魅入ってしまった。騎士は鎧を着ていても分かるくらいに小柄で華奢に見えるが、あんな男が果たして近衛の中にいただろうか?


ジェラルド様までもが「見事だね」と感嘆の息を漏らした騎士が、まさか己の婚約者だろうとは一体誰が思うだろうか。



そもそも、なぜ彼女があんなにイレネー様と親しげなのか。


釈然としないなにかをかかえながら、彼女とイレネー様から視線を外せずにいた僕にジェラルド様が「いやーー、あのイレネーがねえ」とつぶやく。



「イレネーがあんなに女性と接触を持つのは珍しいね」

「はい」

「それにしても精霊姫、噂に違わぬ美しさだね。それに、ほら、聞いていたような打算的な子には見えないし、なんでユーリが気に入らなかったのか私には分からないよ」

「いえ……ですから、それは。別に見た目とかそういうのではなくって」


僕といた時とは何もかも違うフェリル・マーデリックを複雑な気持ちで見続けながらやんわりとそう返すと、ジェラルド様は苦笑して目を逸らした。



「……まあ、わかっているけどね」

「すみません……」

「どうしてお前が謝るんだい?」

「ジェラルド様も、宰相や陛下と同じく、私がティアナ嬢に懸想していることを良く思っておられないでしょう」



光を浴びなければ一見、黒にすら見える濃い緑の瞳が鮮やかに輝いてこちらを見すえる。

終始浮かべてある柔和な笑みは、一瞬ため息とともに消えた。



「…………違うんだよ。前にも言ったとは思うけどね、私は可愛い弟の美しい恋心を応援したいんだよ」

「いいえ、わかっています。自分でも、王族として馬鹿なことをしていることは」


僕がへらりと笑って返した言葉に存外にも難しい顔をしてジェラルド様が押し黙った。


それから、しばらくして重々しく口を開く。


「私もイレネーもお前の幸せを願っているんだ、これは本当だよ。もちろん国と民には替えられないけど」

「承知しております」

「だからこそ、お前が傷ついてしまわないかと心配している」

「それはやはり、身分の……」

「身分の違いはまだいい。お前は幸い第三王子で上位貴族のやっかみは激しいだろうが自分達でどうにかしてくれるのならば問題は無い」

「そう、ですか……では、」



はっきりとしない物言いに、僕は少しだけ眉を寄せる。

ジェラルド様はしばらく考えた様子で、それから笑顔を作った。



「なぜ、この度の件でフェリル嬢の婚約者がイレネーではなくユーリだったか分かるか?」

「何故ですか?」

「ひとつはイレネーが女性に対して殆ど関心がないようだったからだ。歳も七つ離れているし、なにより、危険な前線にばかり立つイレネーにマーデリック公爵が難色を示した。

もし万が一、本当に恋仲になった時、父親として心配なのだろう」

「……そうだったのですか」

「そうだよ。しかし、当の本人同士が気が合うというのならばそちらの方が良いだろう。別に無理にユーリと定めておくことも無い。

私としては、二ヶ月半後に訪れるザイオンの王太子に諦めてもらえればどちらとも構わないし」


僕は頭を下げた。

ちらりと、会場に視線を落としてみるがそこにはもう彼女もイレネー様もおらず、いつの間にか騎士の試合が始まっていた。



「その代わり、お前が自分でフェリル嬢とイレネーに話をつけること。ことが決定したら早めに教えて欲しい」

「……それは本当ですか」

「勿論、なぜ嘘をつく必要があるのかな」


ジェラルド様は柔らかく微笑んで足を組みかえた。長い金髪が風に靡ききらきらと輝いている。

もし、もし彼の言う通りになれば、僕はあの掴みどころのない苦手な女性と関わらずに済む。

それどころかティアナ嬢に負い目なく気持ちを伝えることが出来るのだ。

突然に降って湧いた迷惑極まりない話だったが、まさかこんな早くに霧散しそうになるとは。


いったい、いつから、なぜあの二人が仲を深めていてどういう関係かなんて知らないがあの様子なら大丈夫だろう。


理解できないことも、自分の手に負えないことを任されるのも苦手だ。

だから、多分あの公爵家の娘とイレネー様が一緒にいるところを見てこんなに心がザワつくんだ。


僕とティアナ嬢のことを“協力する”と言った彼女は本当に何を考えているのか分からない。最後に会話をした時、あまりの公爵令嬢らしくない様子に、何を企んでいるのか分からなくて恐ろしくなった。


僕といる時の彼女はいつもよく分からなかったのに、イレネー様といる時の彼女は、とても楽しそうで幸せそうに笑って一心にイレネー様を見ていた。

そして、イレネー様も……、あんな顔をして女性の頭を撫でる兄を僕は見た事がない。


あれで、僕の婚約者だなんて誰が信じるだろう。


ああ、面倒だ。……心がざわつく。胃のあたりが重たい。



……はやく、何とかしないと。


拳を握った僕をジェラルド様はじっと見つめていた。












いつもありがとうございます!

久しぶりのユーリ視点です( ´ ` )彼は今空気ですが、今から徐々に出番が増えてくればいいと思います←

ご感想、評価、ブクマ等良かったらぜひお待ちしております!

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