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とあるきしたちのひるやすみ

誰目線でもない、第二騎士団のいるの部下達のコソコソ話です。




「なあ、見たかよ団長のこれ」



とある日の食堂で、一人の青年が小指を突き出して見せると団子状に固まった男たちが一斉に頷いた。

やけに神妙な雰囲気の中で誰かがごくりと喉を鳴らす。



「尋常じゃないほどの美人だったな」

「いや、おまえ、ティアナ嬢が可愛いってこの前まで騒いでただろうが」

「バッカ、それはそれ! これはこれだ! あれは人間離れし過ぎだろうよ」

「そうだよ、ちょっと怖いくらいだよ。見たかあの髪の色。まるで神話の中の女神様だ」

「噂によると例の“ 精霊姫”らしいぜ」

「せ、精霊姫って、あの、マーデリック公爵家の?!」



ザワザワと騒がしくなる男たちがやがて「あれが……なるほど、納得」と頷き合う。

どこか抑えた声で話すのは、同じく昼休憩を取っているであろう彼らの上司と渦中の人物が、同じ建物の中にいるからだ。


聞こえるわけもないが、相手はあの“ 団長”と“ 精霊姫”である。用心に越したことはない。



「……いや、でも待てよ、精霊姫ってことはじゃあ」

「ユーリウス殿下の婚約者じゃないのか?」

「お、さすがは上級貴族だな、耳が早い」

「俺も小耳に挟んだだけだよ。今の状況でパーティやら夜会なんか行けるわけがないから、情報が入ってこない」

「はァ!? またユーリウス殿下かよぉ、やってらんねーぜ」

「おいおい、お前やっぱりティアナ嬢が好きなんじゃねーか」

「いや、そーゆんじゃないんだけどさあ……」

「まあ、あの面に、あの性格だし女が寄ってこないわけねえって、勝ち目無し」

「うおおおおぉっ」

「うるさい、お前の恋愛とか本気でどうでもいい」

「いやいや待て、え、じゃあ、なんだ? ……団長は弟の婚約者取ったのか?」





しん。




奇妙な小声の騒動は一斉に納まった。

誰かが生唾を飲み込む音がする。





「…………泥沼かよ」

「なんだって、こんな忙しい時に」

「仕方ないんじゃねえの? あれほどまでの美人なんだから」

「…………顔か」

「………………顔だな」

「ま、団長も男だったってことで」

「……いやいやいや、うちの団長はそんなんに流される人じゃない!」

「そ、そうだ!」

「第一、ユーリウス殿下にはティアナ嬢がいるだろう? あれこそ浮気っていうか、いや、浮気? あれ、でも婚約者がいるし、ていうか婚約者ができる前からティアナ嬢とイチャイチャしてたし」

「愛人だろ」

「かーー! やだやだ、これだから貴族は」

「はぁ? お前だって貴族だろーが!」



ガヤガヤと口論に発展しかけた食堂で誰かがため息をついた。この光景はほぼ毎日繰り広げられている。


イレネー殿下、もとい第二騎士団団長の意向により平民、貴族関係なく、実力と熱意により選別された第二騎士団は他の二つの王子の名を持つ騎士団とは一線を画していた。



その成り立ちや率いる人物もそうだが、その中身も構成している団員もだ。


上位貴族で固められた他二団とは明らかに違う血の気の多さと、距離感。団長の人柄を表すかのように真っ直ぐな団員ばかりが集まっているのは気の所為ではないだろう。



…………単純、とも馬鹿とも称されたりするけれど。




騒がしさをすっかり取り戻した中で、誰かがぽそり、とこぼした。




「……俺、精霊姫があの嫌がらせのガラクタ振り回してるの見た」

「え」

「…は?」

「んなわけ」

「はは、なんの冗談だよ」

「団長じゃないんだから……」





「……え、嘘だろ?」




あのどこかの偉い金持ち伯爵の文官かなにかが送り付けてきたガラクタはこの血の気と筋力、体力が自慢の団員達でさえ持つのがやっとなのだ。

振り回すだなんてとんでもない。そんなのは規格外の“ 団長”だけの話だ。


それを、あの華奢で女神のように美しくて触れれば倒れてしまいそうなご令嬢が?



………そんなことあるわけがないのだ。





けれど、またまや静まり返った中で一人の青年が頷いた。





「いや、まじで。あの子、多分普通じゃないよ」



そりゃ、精霊姫だし。



誰かがそう言った。その通りだと誰かが頷く。



いや、精霊ってもっとこう……他にあるだろう? と誰かが言った。そしてまた、誰かがうんうん、と頷いた。




「でも、聞いた話によると三騎士合同試合で、団長とあのガラクタ装備して演武するらしいぜ。だから最近ここに通ってるとか、なんとか」

「……そういや、うちの団服着てるよな」

「そういや、ここ何日かずっと来てるよな」

「そういや、あの団長が綺麗なだけの女を連れてくるわけがないよな……」

「まあ、……団長だし」

「うん、団長だからな」

「うん……」




しん、と再び静まり返った食堂は、直後、昼休憩の終わりを告げる鐘の音で別世界のように慌ただしくなったのだった。





いつもありがとうございます!

次回はイル視点か、ユーリ視点にするつもりです。


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