たのみごと
イルの頼み事は精霊絡みのこと、というよりも怪力絡みのことだった。
「おお、これはすごい」
「見た目は、な」
「実際手入れが全然されてないガラクタですが」
一番奥の塔の小部屋に通されたわたしはその光景に少々興奮していた。
キラキラというよりもギラりと鈍く輝く重そうな剣やら盾やら鎧やらに色とりどりの宝石がこれでもかとはめ込まれている。
それらがいったいいくつあるのかは全く検討もつかないがとにかく山積みにされていた。
「騎士団はこれで戦うのか?」
「そんなわけないでしょう。こんなん振り回せるのはイル様くらいですよ。そもそもなにもかも重すぎますし、剣先は潰れてます」
「これは装飾品だ」
ところどころにサビのあるそれをイルが軽く蹴る。どう考えても高そうなそれらを、偉くぞんざいに扱っているが王族にとってはそんなものなのだろうか。
「で、これがなんなんだ?」
「これの手入れをして、五日後の三騎士合同試合で演武をする」
「そう、でもこの鎧をつけて盾と剣を持ってまともに動けるひとがイル様以外に居ないんです」
「つまり、えーっと」
「君には俺と、演武をしてもらいたい」
「えん……」
「頭が痛い、幻聴が聞こえる、ああ転職しよう、そうしよう」
ガシャン、と派手な音を立ててまたしてもイルがその金ピカの山を蹴りあげた。
つまりはこの金ピカをきれいにして五日後にイルと戦えばいいとかいう話だ。
なんだ、簡単じゃないか。
「いいぞ」
「うむ、 よしじゃあ早速」
「いやいやいや、ちょっと待ってください、いやちょっと待ちなさいよ!」
頭を抑えたカーチスがドタドタと大股で歩きながらイルの前でふんぞりかえる。背の高いイルはそれを見下ろして片眉を上げた。
「精霊姫がなんだっていうんです。彼女は女性で、というか騎士でもないどころか、まず公爵令嬢ですよ?!
このガラクタの重量分かっているんですか?! イル様には分からないでしょうが、とても、持てたもんじゃないんですからね! 危険です」
「そんなに重いのか?」
「もちろんです! そもそもそれは随分昔に城の装飾用のインテリアとして飾られていたものです。古くなって下げられたものを、城の大臣のひとりがわざわざ嫌がらせに持ってきたんですよ!」
「嫌がらせ……なんだ、仲が悪いのか」
「そういう訳では無いんだが……」
首を傾げたわたしに何故だかイルが目を泳がせた。じろりとその様子を睨みつけるカーチスにさらに角度を深くする。
妙に歯切れが悪いのはどうしてだろう。イルがなにかやらかしたのかもしれない。
このなんでもできてしまいそうな王子様でもなにかをやらかすことがあるのだろうか。少し親近感が湧く。
「娘の求婚を断った腹いせですよ。よせばいいものをわざわざこの人は挑発に乗ってしまったんですよ」
「俺はどんな喧嘩でも売られたらきちんと買う主義だ。それが相手に対しての礼儀だとは思わないか? フェリル」
「それはそうだ」
うんうんと頷き合うわたしとイルにカーチスがよろめいた。
「しかも悪いことに手を回して予算をカットされますし」
「相当根に持っているんだな」
「ちなみにここに来る間の廊下の壁に空いた穴はイライラに任せて壁を叩いたイル様の仕業です。」
「あれは、すまん。ちょっと小突いただけだったのだが……」
「自分の馬鹿力をちゃんと考えて行動してください! ただでさえ逆恨みで予算を削られているのにどうするんですか!!」
「うむ、わかる。たまにある」
「え!?」
「だよなー」
売られた喧嘩は買うものだとわたしも思うけれど、どうやら相手が悪かったらしい。
「完璧に整備した武具でさぞ素晴らしい演武を見せてくれることでしょう。殿下ともあろうお方がそんじょそこらの武具をお使いになるはずもありますまい。僭越ながら用意させていただきました」
とかなんとかいって押し付けられたこのポンコツ……もとい金ピカ武具を整備する予算も与えられず騎士団員はそもそも合同試合に向けて大忙し。
おまけにイルは己の部下に「自分が勝つことだけを考えて己をひたすら磨くべき」と全ての手伝いを拒否したらしい。
ちなみにわたしはここらで胸が熱くなった。なににと言われればイルの熱さというか優しさにだ。
死んだ目をしているカーチスの横を通り過ぎて剣を持ち上げる。
確かにやたらと重い。けれど持てなくはない。
カーチスが口と目をがん開いてこちらを見ているのに気づいて笑みを返した。
カーチスの混乱した目とほんのり赤くなる頬を見て、イルは鼻で笑う。
「わたしに手伝えるなら是非手伝わせて欲しい」
「まっ……!、え??! うそ」
「ほら、だから策があるといったんだ」
イルはもう一度わたしの頭を撫ぜた。
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更新遅くなり申し訳ございません……。
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