まったく、しかたのない
「あ、連れてかれた」
「連れてかれたわね。メディ」
何を話していたのかは分からない。表情はかろうじて分かるくらいの位置から、弟メディと共になにかと問題を起こすお姉様を見守っていたのだけれど。
謝罪して来いと多少強引にユーリウス殿下の元へ送った自覚はあるが、あのたくましくぶっ飛んだお姉様のことだ。まあどうにかするだろうと楽観していた。従兄弟でもあるユーリウス殿下の性格を鑑みるに、シーフーがお姉様に入れ知恵した知識はなんていうかもう、最悪なものだった。ユーリウス殿下は多分ああいう態度の女が好きではないし、個人的にわたしも好きでない。正直殴りた……腹が立つ。まあ、そんなこんなでお姉様の印象は地に落ちまくっているし、これ以上下降することがあるとは思えない。
ユーリウス殿下は頭が固すぎる面白くない男だけれど、まあ常識人だしおかしなこともしないはず。
それにしても、あの執事は昔からそうだ。お姉様に偏りすぎていて、お姉様のことしか考えていない割に、お姉様を孤独にさせようとする。お父様は彼を信用しきっているけれどわたしはそれもどうかと思う。
まったく、相変わらず変なのばかりに懐かれるのはお姉様が同類だからなのだろうか。
……うん、まあそれは今は置いておいて、問題はユーリウス殿下に腕を引かれて消えたお姉様についてだ。
「どう思う? メディ」
「うん、ねえさんすごい顔引きつってたね」
「今までに見たことがない顔だったわね」
「ひどかったね」
折角精霊と瓜二つの神々しい美貌を持っているというのに。お姉様ほどその美しさを無駄にしている人間もいないだろう。そもそもお姉様は自分の見た目に興味がないし。彼女の関心はもっぱら、食べることだ。本当に野生動物かなにかのようだ。はあ、残念すぎる。ザイオンの王太子もかわいそうだしユーリウス殿下ももちろんかわいそうだ。
そんな残念なお姉様の良いところはとにかく素直なことだろう。だからひょいひょいどう考えてもおかしいシーフーに良い様にされるんだ。
というわけで、お姉様はわたしたちの言う通りユーリウス殿下に謝罪をしたはずだ。彼ならきっと面倒になって……というかそこまで関心もないだろうから「全然気にしてません」とか何とか、いつもの王子様らしい笑顔で言って、さっさと追い払うだろうと高をくくっていたのに。
それがなぜ、連れて行かれるの?
「殿下一瞬、真顔にならなかった?」
「メディもそう思う? わたしの見間違いじゃなかったのね」
いったいなにをどうしたら“あの”ユーリウス殿下の笑顔をはがせるというのだろう。どんなに威圧的な貴族の嫌味にもどんなに綺麗な女性の色目にも笑顔を崩さず接するあのユーリウス殿下にいったいなにを言ったのか。
「ねえ、メディ、どう思う?」
「うーん……。ねえさんはともかくユーリウス殿下は馬鹿じゃないし、僕らの意図にも気づいてたからまあ平気だとは思うけれど」
「そうよね、お姉様も阿呆だけれど、さすがに王族相手に滅多なことは……」
メディと顔を合わせて笑った。
「……いやお姉様なら、絶対何かやらかすわね」
「ねえさんなら絶対やらかすよ。ユーリウス殿下の胃に穴が開く」
「ストレスで禿げるかもしれないわ」
「それはまずい。数多の貴族子女の恨みを買うね」
「「かわいそうなユーリウス殿下……」」
はあ。ため息が同時に漏れて、顔を見合わせてもう一度ため息をついた。これからあの困った姉をどうすべきか。考えていることは同じだろう。双子だから、とかそんなことではなくて。
さっさと謝ってさっさと済む問題だと思っていたのに、さすがはお姉様。一筋縄ではいかない。ユーリウス殿下は悪い人ではないし、お姉様のことも当然わたしたちは愛している。だから、少しでも上手くやってほしかった。そしてあわよくばスムーズに、この馬鹿げた事態を解決してほしかっただけなのに。あまりにお姉様と接するのが久しぶりすぎて、少し舐めていた。お姉様のぶっ飛びようを。
「どうする? ネリー。お父様に報告する?」
「だめよ。お父様が咽び泣くわ。それにこのことを知ったあのバカ執事のむかつく勝ち誇った顔を見たくないわ」
「それもそうだね」
「ええ」
メディの青い澄んだ瞳を見つめて頷く。まったくなんて世話の焼ける姉なんだろう。メディも今そう思っているに違いない。
「「直接回収するしかない」」
あの世話の焼ける困った姉を。
ユーリウス殿下は話の分かる人だし、お父様やシーフーに言うよりは数倍マシだ。お姉様は論外だけれど。
あのユーリウス殿下がどうしようもなく怒り狂っていた場合は仕方がない。わたしたちが何とかしよう。本当は当人同士でどうにかしたほうが絶対に良いのだけれど。
一応は婚約者と言うくくりの二人の間に入ってああだこうだするのはとても面倒でややこしくなりそうだけれど、お姉様はどうやらそれ以前の問題らしいから。
仕方がないといえば仕方がない。
お姉様は昔からそういう人だった。そして、わたしたちはそういうお姉様が嫌いではない。
「まったく、世話が焼けるわ」
わたしのため息交じりの言葉に「本当にね」とメディが同意する。弟の顔は呆れながらそれでもどこか嬉しそうだった。きっとわたしも同じ顔をしているのだろう。
なんといってもわたしたちは双子なのだから。
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