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めいどとふぇりる





「フェリル様、なにかお困りのことはございませんか」



プラチナブロンドを美しく結い上げ、城のいかにも高級そうなお仕着せを見事に着こなしたレディ・ラフィーネは今日もそう言って腰を折る。


あの日から数えて今日で2日目。


私は危険だからと王城の一室に保護されている訳だが、体良く監視だ。

その証拠にユーリウス殿下とシーフーまで同じ状況らしい。



「レディ・ラフィーネ。だからイレオラ地方に行きたいのですけど」


「まあ、本日もお元気そうでようございました。では、また何かあればベルでお呼びくださいね」


「ちょ、ちょ、ちょっと待って! 全然会話になってませんけど!?」



私より2つ歳が下だというレーベル伯爵家の三女らしいラフィーネさんは、今日も今日とて優しげなタレ目を柔らかく緩ませてさっさと退散しようとする。


慌ててスカートの裾を鷲掴むと、メリメリという不穏な音が聞こえたので慌てて手を離した。



「フェリル様、もう私その台詞は聞き飽きましたわ。何度言われようとも答えは否です」


「わ、分かってます! 疑われてるんですよね!? そりゃ今この国があんまりいい状態じゃないのもわかってるんですけど……。陛下とお話を……いや、せめて、お父さ……マーデリック公爵と会わせて貰えないですか」



すがりついた体制からずるずる崩れて床に這い蹲るように頭を下げた私に、ラフィーネさんは眉を下げて「困りましたわ」と呟いた。



「イル、イレネー殿下のことが心配なのです」


「陛下とマーデリック公爵様は、重要な案件とやらで平素の何倍もお忙しくされているとか……。私共はその詳細については聞き及びませんが、例え秘書の方にお伝えしたとしても謁見はずっとずっと先になるかと思われますの」


「そう、ですよね……」



ラフィーネさんは行儀見習いとして働き出して一年になるメイドで「公爵家のご令嬢の侍女に抜擢されるなど夢のようですわ」と言っていた。夢を壊してごめんなさい私はそんな大層なものでは無いのです……。

そんな彼女に、もしかしたら間接的に、今のこの不安定な情勢にうちの執事や精霊がかかわっているかもしれない。とは言えない……。


あの後ティアナ・レイクに『礼とやら』をしたシーフーは、右腕に酷い火傷をおって帰ってきた。

慌ててそれを治療しながら「何があったんだ」と聞いたがシーフーは「アリエル様の代わりを果たしただけですよ」と言って笑うばかりだったし、ユーリウス殿下は何故かものすごく顔色が悪かった。

またシーフーがねちねち嫌味を言ったのかもしれないし、たまに見せる恐ろしい笑顔でユーリウス殿下を凝視していたのかもしれない。何故かは知らないが二人は仲があまり良好とはいえなさそうだからな。


本当はその後すぐにイレオラ地方に行く予定だったのだけれど、たちまち、突然現れた城の騎士達に囲まれて至極穏便にではあるが拘束されたのだ。

彼らは口々に「今までどこに」だとか「何故見つけられなかったのだ」だとか神妙な顔で囁いていたが、意味がわからなくて私とユーリウス殿下は顔を見合せた。



それから、もう既に2日が経ってしまった。



「けれど、フェリル様には最大限、おくつろぎいただくようにと仰せつかっています。外に出られるのはまだ難しいようですが……。希望があれば可能な限り出来るだけお答えするように、と」


淡いグリーンの瞳が楽しそうにキラキラと輝いた。


「このお城って王妃様以外に女性の王族の方が居られないので、侍女っていうのは夢のまた夢で! それにフェリル様ったらお噂とはちっとも違って嘘みたいにお美しくて、驚く程謙虚なのですもの! 私お友達みーんなに自慢してまわりたいくらいですわ」


うーん、完全に美化しすぎている。

マダムのしごきにより、そこそこの社交性と貴族子女らしきハリボテを取得してしまったのが、まさかこんな所で仇になるとは。良心が痛む……。


「……ちなみに噂って……」


「フェリル様にお聞かせするのが恥ずかしいくらいなのですよ。本当に社交界での噂って宛にならないですわね。大口を開けてガハガハ笑うだとか、食堂の食品が無くなる程の勢いで食事をするだとか、恥ずかしげもなく男に媚びを売るだとか、美女の仮面を被った猿だとか、気が触れているからマーデリック公爵家は今まで外に出さなかっただとか……」


「……」



……うーん、噂って的確ぅ。



「お気になさらないでくださいね。このラフィーネがきっと誤解を解いて差し上げますわ! こう見えて顔は広い方ですのよ。貴族に産まれた女子はどれだけ顔を売れるかですものね。特に私のような田舎貴族のそれも三女なんか……。ああ、フェリル様はそのお美しが故に今まで人目に出るのをはばかられていたのですよね。分かりますわ、世の男性方が大騒ぎになってしまいますから」



「あ、えっと、いや……その」


「謙遜なさらないで。私は分かっていますわ! 良くない噂を言っている人はきっとフェリル様の人知を超えた美貌に嫉妬なさったのね」


「え、うーーん、そうじゃないと思いま」


「とにかくどうしてフェリル様がイレオラにそんなに行きたいのかは分かりませんが……あ! イレネー殿下! そういえば今年の合同試合で演舞をされたと噂は聞きましたわ! それはそれは見事だったと……私も見たかったのですが頼まれ事がありまして……。それでイレネー殿下が心配でいらっしゃるのですね。ふふ、でもユーリウス殿下が嫉妬されますよ。殿下も今体調不良で休んでおられますが、しきりにフェリル様のことを気にかけていらっしゃるようですわ。まあ、遠出は望み薄ですが、せめてお庭にでも外出できないかお話は通してみますね」


愛らしく微笑んだラフィーネさんに釣られてにへら、と笑ったわたしに淑女の礼をして彼女は部屋を出ていった。


ご覧の通り、彼女は大変申し訳ない勘違いを多いにしていらっしゃる。


そして随分お喋りだった。












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