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自分が座ってた丸椅子に戻って、髪を、体を、丁寧に洗う。心の中でつっかえて言えなかった心が、出てこれるように。
ようやく、私も大人になった。そのはずなのに、……『愛してる』って言葉は、口に出せないまま。嘘じゃないはずなのに。まだ、伝えるには、その言葉は大きすぎるみたいだ。
「どうした、何かあったか?」
ちょっとへこんでしまってるのも、簡単に見透かされてる。いっぱい甘えたいけれど、心配させたいわけじゃないのに。……ため息が漏れそうになるのを、慌てて飲み込む。
「な、なんでもないですよ?」
「そうか?……前から言ってるだろ、困ってるなら、好きなだけ頼れって」
「その気持ちは嬉しいんですけど、私の問題ですから」
「……そうか」
なんだかその声は、寂しそうに聞こえる。また、邑さんのこと傷つけてしまったのだろうか。ぐるぐると悪いほうに思い詰めてしまってるのはわかってるけど、止まらない。
もうとっくに体なんて洗い終わってても、私が洗い終わるのを待ってくれてるのに。私は、何をお返しできてるんだろうか。
焦りにも似たような気持ちに突き動かされて、体を洗い終える。ちょっと適当になってる気もするけど、そんなのもどうでもよくなってしまう、抱えてしまった不安に比べたら。
「お、終わりました……」
「そうか、早く入らないと冷えるし、行くか」
「それなら、邑さんのほうが冷えちゃってるじゃないですか……」
「いや、私は大丈夫だ、心配するな」
そう言うことは分かってる。こういうときは大体なんとかなってることも。でも、そうじゃないの。一人で抱え込む、見たくない。それはきっと、邑さんだって同じで。……頼りがいがあるってわけじゃないけど、頼ってほしい。
「そうですか、それならいいんですけど……」
「大丈夫だ、これくらいなら」
ぎゅって繋がれた手の感触に、ドキリと高鳴る心。
どうしたって、嬉しいけど、少しひんやりとしていて、胸が痛くなる。あったまってきれたらいいなと、空いてたもう片方の手も重ねる。ちらりと私のほうを見た邑さんが、にこりと笑いかけてくれたように見える。
そのまま、私が転ばないようにか、ゆったりと歩いてくれる。その優しさに、何回ときめいたのかも、もうわからない。
「ちょっと、熱いかもしれないから」
「は、はい……」
大げさすぎるくらいこまやかで、でも、それだけ私のことを大事にしてくれてるってことなんだよね。
おずおずと足をつけると、思ったよりもぬるくて、いつも入ってるお風呂のほうが熱いくらい。
「大丈夫ですよ、これくらいなら」
「そうか、……それならいい」
何度も聞いたような言葉は、邑さんなりに安心したということなんだろうな。気を緩めた気配で、何となく気づく。
私のことを、邑さんはいっぱい愛してくれてる。でも、私は、邑さんをちゃんと愛せてるのかな。
量とかで比べるものじゃないのは分かってるけど、……ほんのちょっとだけ、怖くなってしまう。




