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デビル・ミーツ・ブルーハート ~ 悪魔の第二ボタン ~  作者: Otaku_Lowlife
第六話 兎白サナエの事情
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「堕ち憑く。だってよ。」




 ハヤトさんの車の助手席に腰を下ろすと、私はなんだかカーレーサーにでもなった気分になりました。

私のお父さんが使っている車は室内が広く快適なのですが、ハヤトさんの車は、なんだか閉じ込められたみたいな窮屈な感じがしてワクワクします。

それに「助手」の席だなんて、なんだか恥ずかしくて、私はちょっと上がってしまいました。


 それから走り始めて今に至るまでの全てが新鮮で、この人はどうやら私の知らない世界を知っているんだなって思いました。

流石はハヤトさんです。


「冷房、寒くないか?」


「あ、大丈夫ですよ。」


「一応上げとくか。」


 ふとそんなやり取りの後、ハヤトさんは空調のダイヤルを軽く回しました。

私まだ何も言ってなかったのに、寒いってわかったんですね。

ウチのお父さん、そんな気遣いしてくれたことないかな……。

ハヤトさんは、些細な事に気がついてくれる、そーゆー臆病な人なんですね。


「ちょっとコンビニ寄るわ、この先なくなるから」


「え? あ、はい」


 はいはいはい、出ましたよ〜。

これこれこれこれ、モテる男の鉄則「気負わせない気遣い」ですねー。

これは今ここに座っているのが私じゃなくても気付いた瞬間悩殺ですねー。


 「コンビニよっても良い?」じゃないのが逆にいい。

ここで私に答えを委ねない自分都合な感じなのが良いんですよ、わかりますよね?

私がトッイーレを我慢している事にハヤトさんが気づいたかはさて置き、この先はもうコンビニなくなるよっていう、倒置法ッッ!!




最終警告の気遣いがッあざといッッ( °Д ° )ッッ!!




 ハヤトさん、気が利くだけじゃなくとても紳士なんですねー。

さっきからドライビングも穏やかでスムーズだし、思えば加速する時や減速する時はブレーキも優しく丁寧に掛けてくれています。

おまけに信号で止まる時なんかはブレーキで反動が来ません。

「え?今止まった?嘘でしょ?」ってなりますよ、神すぎて。

ウチのお父さんが同じ事をしようとしたら、ギュンッカップんッッなんですから。

ふぁー、まだ目的地にすら着いていないのに、私の心はもうテレッテレにモッテカレちゃいましたよー……。

とりあえず100点あげときますかー。




というか私、なんで今日はこんなに頭が回るんだろう。




 あぁそうか、ハヤトさんの側にいるから、落ち着かないんだ……。

そんな自分の気持ちに気付いた瞬間、突然起きた胸騒ぎが治まらず、私は急にハヤトさんの隣りに座っていることが恥ずかしくなってきました。

それは、窮屈さや息苦しさのような感情で……。


「あの……窓開けても良いですか?」


「ん? あぁ……。てか、上開けるか。」


「え?上?上って天井ですか?」


 言いながらハヤトさんは、まるで狙いすましたかのように現れた路肩の、車1台分ほどのスペースにハザードを焚きながら駐車しました。

またこれはとてもとても大事な事なのですが、天井を開く時、押さなければならないボタンがハヤトさん側と私の側と二箇所あり、変な意味じゃなく色々と近かったです。


 やがて、天井を切り取ったように覗く濃紺と銀の星空。

隣には、ハヤトさん。

辺りは真っ暗で、誰もいない。

夏の山の夜風は心地よくて。

こんな、私の大好きなものばかりここにあって。

あぁ、ハヤトさんの隣(ここ)が、私の居場所なんだって、心から思いました。




夜は、堕ち憑くんですよね、全てが。




「すごい……。なんか、プラネタリウムみたいですね……」


 ふと呟いたその時、見たこともない星空に私は少し興奮していて、だけどハヤトさんの見ている世界に、少しだけ近づけた感じがして嬉しくなりました。


「だよな。」


 けれど、何故だがハヤトさんは俯きがち目をそらし、少し寂しそうに笑うのでした。

何か嫌なことでも思い出したんでしょうか。

少し心配です。

この子おもしれー。

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