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デビル・ミーツ・ブルーハート ~ 悪魔の第二ボタン ~  作者: Otaku_Lowlife
第五話 神速の弾丸ミッドナイト
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「キューショクだってよ。」


「ふふ。」


「??? 何がおかしいんだ?」


「別に、可愛いなと思って。」


「何が。」


「キミがだよ。」


「意味が解らん。」


「だから可愛いのさ。」


「なんだお前。」


「悪魔だよ。」


「あーはいはい、言いたいだけだろ。」






――平成二十八年、五月二十二日、日曜日。

時刻は午後の六時を回り、我が家ではそろそろ夕飯の時間です。

こうして日記をつけている傍から、早速カレーの良い香りが漂ってきました。


「いいないいなぁ~、キューショクいいなぁ~。」


 そんなこんなで相も変わらず自室でウェブ小説の執筆をしている私のすぐ後ろでは、ブゥちゃんがキラキラと目を輝かせてテレビに張り付いています。

どうやらエンタメ番組で色んな小学校の変わった給食メニューを特集してるみたいです。

因みにさっき「北海道の給食ではカニが出るーッ!!」という大袈裟なナレーションが聞こえてきましたが、多分それはカニカマか何かと勘違いしているんだと思います。

だって給食にカニなんて出たら親御さんの家計が傾いてしまいますもんね。


「サナ~、キューショクって美味しい?」


「え、給食?」


 テレビを見ているのにもちょっと飽きちゃったのか、ブゥちゃんがいつものように近づいてきました。

興味津々にパソコンの画面を覗き込んできて、今日も最強に可愛いです。


「う~ん、給食は毎日違うものが出るから、日に寄るかな? あ、でもココア揚げパンの日は嬉しかったよ~。」


「そっか、毎日違うんだっ。じゃぁいつかはビフテキも出るんだなっ。」


「え~? ビフテキは~……流石に出ないかな~。」


「えー……。じゃぁ意味ないねぇ……。」


 あらら……嘘をつくと結構ややこしい事になりそうだと思ったので正直に話しましたが、思った以上にブゥちゃんをしょんぼりさせてしまいました。

けどシュンとした表情と共に語尾がしぼんでいくのがとても可愛いので、これはこれで良しとします。


「あ、でもハンバーグとかトンカツは出たよ。あれもちょっと嬉しかったかな。」


「うん……。でもアイツらは天地がひっくり返ってもビフテキにはならないし……。」


「そっかぁ……。ごめんね。」


「ん~ん、サナは悪くないから大丈夫。」


 そして何故ブゥちゃんがこれほどビフテキに固執するのかは解りませんが、断固としてその地位は揺るぎません。

例えるならビフテキは「夏に海の家で食べるカレー」で、そしてそれ以外の食べ物は「冬に外で食べる流しソーメン」って感じでしょうか。


 お肉の質や部位、そして厚みに限らず、ブゥちゃんの中でのビフテキは、その四文字の語感と響きだけで他の追随を許さない絶対的な頂点に君臨しているのです。

例えば「ザリガニ」という文字列と「ビフテキ」では――え?「お前の例えは解りづらくて逆にややこしくなるから黙ってろ」ですか? そんなの百も承知の助です。


 それで、例えば「ザリガニ」という文字列と「ビフテキ」という文字列の語感では、「満天の星空を眺めている時に隣で黙々とモンハンをやり始める友達」と「満天の星空を眺めている時に聞いてもいないのに天体の名前を教えて来る彼氏」くらい違います。

え? どっちがどっちなんだって、そりゃぁ――


「サナが学校行かないのって、キューショクにビフテキが出ないからだったんだね。それじゃあ仕方ないよね。」


「えー? なんでー?」


――この子は何を言ってるんだろ~。


「よしよし。よしよし。」


「えー? どうして撫でるの〜?」


「よしよーし。」


 よく解りませんが、ブゥちゃんに頭を撫でられてしまいました。

勿論なにもかもが誤解の塊なのですが、まぁこれはこれで可愛いので良しとします。


「サナエ~、ブゥ様~、ご飯出来たぞぉ~。」


――あ、お父さんの声。


「ブゥちゃんご飯出来たって。行こ。」


「今日はビフテ――」


「普通にカレーだと思うよ~。」


「なんだぁ……。今日はカレーかぁ……。」


 正直、2階のこの部屋まで漂ってくるスパイスの香りで大体予想できると思うのですけどね。

因みに晩御飯がビフテキじゃなかった時のブゥちゃんは、会社をリストラされた日のお父さんの腕時計のように、目に見えてガッカリします。


「はぁ……ビフテキ食べたい……。」


案の定、晩御飯がカレーだと解るや否や、ドッと大きな溜息をつきながら居候の分際で生意気なことを言い、肩どころか背中の小さな羽もションボリと閉じてしまいました。


「市販のルーで作ったヤツは化学調味料の味がするから特に嫌だなぁ。」


そして何故だか無駄に舌が肥えていて、それは流石にちょっと怖いです。





「ブゥ様、カレー辛くないかい?」


「うへぇ、口の中で色んな味が別々に分裂するぅ……。」


「あらあら、試しに甘口にしてみたんだけど、もしかしてブゥ様にはまだ早かったのかしら。」


「お母さん気にしなくて大丈夫だよ。ブゥちゃんがグルメなだけだから~。」


「はっはっは、ブゥ様のお口には合わなかったか。」


「ねぇサナ、コーラ飲んでいい?」


「えー? コーラは良いの~?」


「うん。コーラはおいしい。」



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