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デビル・ミーツ・ブルーハート ~ 悪魔の第二ボタン ~  作者: Otaku_Lowlife
第五話 神速の弾丸ミッドナイト
19/35

「ジェノサイドだってよ。」

なんかよくツイッターのトレンドとかと投稿した話が被るんだけど、わざとじゃないし普通にミラクルなだけ。

そして例に漏れずこの話もそうです。



「ただいま。」


「……。」


「セラ……?」


――平成二十八年、五月二十二日、日曜日。

午後六時、家に着く頃にはもうすっかり日も落ちていた。

そして俺がバイトから帰ると部屋の中から特に返事はなく、俺のいない間に珍しくセラが一人で出かけたのかと思ったが。


「にゃおぉ~ん♡♡♡ごろにゃぁ~ん♡♡♡」


「……。」


 どうやらセラは俺のノートパソコンを勝手に使用して、愛くるしいペット動画か何かに夢中になっているらしかった。

いやはや、悪魔にもこういう可愛らしいものを愛でる嗜好があったとはなんとも意外だが、部屋の真ん中で食い入るようにPCの画面と睨めっこしている真っ当なセラを見て少しだ気持ちが和んだ。

存外、悪魔なんていっても実際にはこんなものなのかもしれないな。

しかし容認できない事もある。


「にゃぁ~ん♡♡♡にゃんにゃにゃあ~ん♡♡♡」


なにしろ外付けのスピーカーからは甘えた猫なで声が結構な音量で流れているのだが、近隣住民からは俺がその動画を見ていると思われていそうでちょっと恥ずかしい。


「にゃお♡♡♡……ぎぃぃいぃいいいいニャぁぁぁああああああああッッッ!!!」


「――え。」


そしてそんな甘えた幻想は、直ぐに絶望の赤に塗り替えられるのだった。


「うおぉぉお……。メンタマを抉ったぞッ良いぞもっとやれ!!」


「ギニャァアアアぎにゃぁあああ”あ”あ”!!!」


「はっはっはっは!!! コイツの投稿してる虐殺動画は本当に最高だなぁ!!」


 訂正訂正訂正訂正。

セラはモザイク必須の血濡られた画面を指さし、まるでコント番組でも見た時のように手を叩いて大声で笑い始めた。

そう、恐ろしい事にセラが見ていたのは、子猫の虐待動画だったのだ。


「――ニャ……。」


「バカ野郎お前なんてもん見てんだ!!」


「ん? おぉ、おかえりハヤト君、意外に早かったんだねぇ。」


「ギニャ!! う”お”お”ぇ”――にゃ……。」


そして部屋中どころか、恐らく外にまでこの断末魔は響いている。


「いいからさっさとその動画閉じろ!!」


「??? うん。」


 慌ててスピーカーの音量のつまみをMINまで捻った俺を見て、セラはキョトンと首をかしげながら動画のブラウザを閉じた。

あまりにグロ過ぎて詳細は明かせないが、少なくとも人間が見ていい代物では到底なかったとだけ言っておこう……。


「どうしたんだい、そんなに慌てて。」


「あのなぁ、俺のパソコンでなんてもん見てんだ……。」


「……? あぁ、そういうことか。」


 一体どういうことだ……この悪魔め……。

セラは何かひとりで勝手に納得したらしく、腕を組みうんうんと頷いた。

まさかコイツ、普段俺が家にいない時はこんな動画ばっかり見てやがんのか……?


「ごめんごめん、言うなれば魔が差したってやつさ。」


「そんな次元じゃねぇだろが……。」


 そういえば以前、夜に警察が訪ねて来た事があった。

それも「ペットを飼ってないか」とか、結構しつこく色々聞かれたんだよな。

なんでも「この近所で動物虐待と思しき断末魔が聞こえる」とかなんとか言ってたが……。


「つまり全部お前のせいじゃねぇか!!」


「な、なんだい急に。まぁ落ち着きなよハヤト君、とりあえずサンマ缶食べよう。」


「あんなもん見た後に食えるか!! あと俺のパソコンをジェノサイドで汚すんじゃねぇよ!!」


「わーかったわーかったよぉ!! もう、ちょっと魔が差したくらいで五月の蠅みたいだなぁキミはー。」


「たく!!」


「だいたいなんでそんなに怒るんだい? キミだってエッチな動画をよく見てるじゃないか。」


――ギクッ!!


「フィーリングで言えばそれと一緒だよ。」


「い、一緒にするな……。そしてなぜそれを知っている……。」


 セラはあっけらかんとそう言ったが、そんなオープンに悪魔の性癖をひけらかされたくはない。

だがそんな事よりも今は、俺の性事情をどこまでコイツに知られてしまっているのかが気になって仕方なかった。


「履歴に残ってるぞ、ほら。」


そう言いながらセラはスピーカーのつまみをMAXまで捻り、履歴からエロ動画サイトのブラウザを起動した。


「ておい!!」


「あん♡♡♡あん♡♡♡」


「キミはやっぱり年上のお姉さんが好きなんだねー。」


「あーやめろやめろ!!」


 鳴り響く俺好みの喘ぎ声。

ってそんな場合じゃない――俺は慌ててノートの画面を閉じ、本体から電源を引っこ抜いた。


「ふふ、可愛いヤツだなぁキミはー。」


「てめぇ、男子の純情を弄びやがって……。」


「…ふ、悪魔だからねっ?」


「うるせぇ!」


 恥じらいを孕んだ俺の憤慨に、セラは例の如く悪戯に笑うのだった。

たく、つくづく胸糞悪りぃ野郎だ……。





「たく、二度と俺のパソコン勝手に使うなよ。」


「えー。それじゃあ私はこれから欲求不満になった時どうしたら良いんだい。」


「知らねーよ、その言い方やめろ。」


「なんだいなんだい、自分だってお気に入りの動画で性処理する癖に。」


「だから一緒にするな!! あと頼むから俺の性事情に触れるのももうやめてくれ……。」


「ふーんだ。」


「だいたいなんであんなもん見るんだよ……。」


「そりゃぁ退屈だからだよ。それにさっきも言ったろ、キミらで言うところの性処理と似たようなもんだって。」


「悪魔ってのは、つくづく正気じゃねぇな……。」


「何をいまさら。それにそんな事を言い始めたら、そもそもキミら基準の正気ってのが本当の意味で正しいのかがまず以って疑問じゃないのかい。」


「あーわかったわかった。とりあえず警察来るからあーゆーのは見ないでくれ。」


「解った。つまり警察が来なければ何してても良いってことだね。」


「そんな言い方されると不安しかねぇよ。」



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