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デビル・ミーツ・ブルーハート ~ 悪魔の第二ボタン ~  作者: Otaku_Lowlife
第四話 クソガキ大乱闘
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「黒幕だってよ。」

「えっと、どうしたんですか?」


 背後から突然現れたその子は、黒のボブヘア、子供っぽい顔つきに露出の少ないナチュラルで地味な服装の――高校生か? 身長は俺よりもっと低いけど、落ち着いた言動や雰囲気からか、俺より歳上にも思えた。


「おいサナ! こいつら密猟者だ! アタシ達の縄張りで勝手にザリガニ釣ってやがった!」


「え~? ブゥちゃん何があったの? ハヤトさんも、どうしてここに?」


「いやよく解らんが、そのガキがな――」


 どうやら少女の保護者らしい。

といっても髪の色とか人種とか、あらゆるものに置いて共通点がまるでない。

親戚か何かだろうか?

そしてそれと同時にハヤトさんと顔見知りでもあるらしく、いつの間にか事情聴取はその子を中心に進められ、俺の存在は一瞬で空気と化した。


「ジュルリ……。う、うまそう……。」


「は? お前今なんつった?」


 コイツ今、美味そうって言ったよな?

空気と化した俺が「タンクトップス・チルドレン」の面々とその光景を見つめていると、ふいにアルがその子を見つめてヨダレを拭いながら「美味そう」と言った。

見ればその目はギラつき、瞳孔が開いており、それは明らかに獣が「エモノ」を狙う時のそれであり――


「お、おいアル……。落ち着け、落ち着け。

 頼むから、絶対に食うなよ……。これ以上問題を起こさないでくれ……。」


「わ、解ってる、解ってるさ……。こっちで下手な事するとオヤジにドヤされるし、俺だってまだ帰りたくない。 

 ジュルリ……。でも、我慢できねえ……。頭から一気にカブリつきてぇ……。ジュルルゥ……。」


「おいおいまじか……。後で美味いもん食わせてやるから、頼むから我慢してくれ……。」


「お、おう……。うぅ……禁断症状が……。」


 信じたくはないが、どうやらまじだ……。

アルは薬中のようにゼェハァと苦しそうに身震いを起こした。禁断症状?


 まぁ確かに、見た目は可愛い。

子供っぽい顔つきなのに、その言動や雰囲気だけが嫌に落ち着いており、例えるなら「聖女」とか「天使」とか、いかにも悪魔が好みそうなタイプという感じがする。

アルの言う「美味そう」というのはつまり悪魔にとっての御馳走という事であり、更に解りやすく言うならそれは、飢えた肉食動物が獲物を前に狩猟本能を搔き立てられているようなものなのだろう。


「こら、ブゥちゃん。延髄斬りなんて人に使っちゃダメでしょ。」


「だって、折角サナが教えてくれたし、どんぐらい人に効くのか試してみたかったんだもん。」


 アンタか、このクソガキにそんなマイナーっぽい禁じ手教えた黒幕は。

ガキにはまだ早えぇよ、ちょっと考えれば解っぺがー。


「延髄斬りはダメ、あと目つぶしとかもダメだよ?

 やるならドロップキックとか、せいぜいフライング・ニールキック位にしてね。ほらもう行くよ。

 ――と、の前にちゃんとその子に謝ってね。」


そしてその黒幕さんがそういうとブゥ様は渋々とこちらに向き直り、さも不満げに口をとがらせてアルを見つめ――


「んー……。……ごめんね。」


 可愛いかよ。

けど本当に謝らなきゃいけないのは黒幕さんだけどな。


「まぁ、もういいよ。」


 お前は何様なんだ。

アルは腕を組み、なんだか上から目線で嫌な感じだった。

コイツは本当に我が「タンクトップス・チルドレン」の面汚しだな。


「おいアル、お前もちゃんと謝れよ。」


「え? なんでだよ?」


「え?」


 なんで? ってそりゃぁ――あれ?

考えてみれば確かに、いきなり蹴られたのはコイツだ。

謝る理由なんか、何もなくない?

そうだよ、だってコイツら、一方的に蹴りまわされてただけじゃん……。

たまには保護者らしく背中を押してやろうかと思ったんだが、なんだかなぁ。


「い、いいから……。ほら……。」


「……。ごめん。」


 なんだか雑だなぁ。

いかにも渋々って感じで、反省の色が微塵も見られん。

まぁいいやもう、実際コイツ多分何も悪くないし。

これ以上は謝るだけ損ってもんだべ。


「それじゃぁハヤトさん、また。」


「おう。」


「ブゥちゃん今日はビフテキにしよっか~。」


「ビフテキ!? 神か!!」


 その後、名前も知らないその子に連れられて、ブゥ様は楽しそうに去って行った。

後に残された「飽馬川厚切りビフテキッズ」と、我が「タンクトップス・チルドレン」の面々は「興冷めだな」とブツクサ言いながら自転車で去って行き、最後に残されたのは俺とアル、そしてハヤトさんの三人だけ。

そして結局あの子が俺と言葉を交えることは一度もなく、またハヤトさんとどういう知り合いなのかも謎のままだった。


「なんか、可愛い子でしたね。」


「そうか? 喧しくて生意気なクソガキだったろ。」


「あ、いや、そっちじゃなく……。」


 兎白サナエ――普通に年上だと思ったけど、どうやらあの子はまだ中学生らしい。

ハヤトさんもあまり詳しい事は教えてくれなかったが、この飽馬川で今みたいにタバコを吸ってる時によく話すんだとか。

セラさんという人がいながら、ハヤトさんはあんな若い子にまで……。

両手に花ってやつか? 知らんけど。


「んじゃ、俺ももう行くわ。」


「あ、はい。」


 ハヤトさんはタバコの火を消して、なんだか億劫そうに土手を上がっていった。

さてと、俺らも帰るかね。




「あ、灰崎~。」


「え? なんすか?」


「サンマ缶。奢れよー。」


あー、忘れてたわ。



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