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95話 ちょろ酔いサキさん2

95話 ちょろ酔いサキさん2



「かじゅとしゃぁ〜んっ♪ お酒もっと持ってきてぇ〜」


「バカ、ダメに決まってるだろ! いいから一回水飲めって!」


「や〜ぁ〜だ〜ぁ〜」


 この酔っ払い、本当にどうしたものか。以前寝ぼけていた時にもすごい誘ってきたりとヤバかったのは記憶に新しいが、今回はまた別物。なんていうか、こう……壊れてる。


「う〜にゃ〜っ!」


「あ、おいっ!」


 机ちゃんに突っ伏していると思いきや、いきなり立ち上がったサキは背後のソファーに顔面ダイブをキメる。そのまま寝てくれればいい、なんて思っていたのだが、様子を伺っているとひょいひょいっと手招きをされてしまった。


 薄着のシャツはお腹の上までめくれ、チラリと覗く水色の下着。それを見せつける……いや、それが見えることなんて何も気にしていない様子でその場に転がるサキは、少し頭を浮かせてこちらに来いとまで訴えている。


「ひざまくら! ひざまくらして!!」


「えぇ……隣に枕あるだろ?」


「こんなのー、ぺぃーっ!」


 ぽいっ、ぽいぽいっ。三つある枕を全て放り投げ、これで邪魔者はいなくなったとばかりにむふーっ、と満足げな表情を浮かべられ、俺はため息を吐くしかなかった。本当、幼児退行したみたいだ。


 しかも、退行したのが精神だけだからまたタチが悪い。身体はいつも通りの魅力的な体型のままなのだから、こんなことをされてはドキッとしてしまっても仕方ないだろう。


「分かった、分かったよ。膝枕してやるからせめてめくれてるシャツは直してくれ。な?」


「……おっぱい、見たくないの?」


 見たいに決まってるだろうがッッ!!!!


 心の中で、声を大にして叫ぶ。


 だけどどうせ今のこの酔ってる間の記憶は、絶対サキの中には残らない。そんな時に見せてくれと頼むなんてそんな酷いこと、俺にはできない! いや、見たいけども!! 死ぬほど見たいけども!!!


 心の中で葛藤を繰り返していると、そんな俺の様子を楽しむように、サキはにんまりとした笑顔を浮かべる。


「ふへへぇっ。もぉ、和人しゃんは可愛いねぇ」


「うるせぇ。膝枕してやらないぞ」


「ダメッ! 早くしなしゃいッ!!」


 バンバンッ! とソファーを埃が飛びそうな勢いで叩いて駄々をこね始めたサキに折れ、俺は諦めて座ってから自分の膝の上に、サキの頭を置いた。


「にゃぉ。かじゅとぉ……」


 随分と大きく、可愛い猫だ。頭を撫でてやるとゴロゴロと喉を鳴らし、太ももに顔をグリグリと押しつけて甘えてくる。


 もっと撫でて、もっと撫でて、と無言でアピールされると逆らえなくて、つい甘やかしてしまう。普段も甘えん坊なところはあるが、ここまでなのは久しぶりだ。


「しゅき……かじゅと、しゅきぃ……」


「俺も好きだぞ。……今日は、最高の誕生日だったよ」


「ん、んぅ……すぅ……」


 朝から歩き回って疲れていたのか、サキはそのまま小さく寝息を立てて眠ってしまった。明日の準備もしないといけないし起こしたいところだが、こんなに気持ちよさそうな寝顔を見せられちゃ起こせないな。


「俺一人で、頑張るかぁ」




 サキを起こさないよう、ゆっくりとソファーから立ち上がって、放られた枕を拾ってきて頭の下にそっと敷いて。部屋から持ってきた布団をかけてやってから、俺は旅行準備の続きを、一人で行うのだった。

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