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94話 ちょろ酔いサキさん1

94話 ちょろ酔いサキさん1



「さて、もうすっかり夜だな」


「夜だね〜」


「飲むか?」


「飲む!!」


 明日から始まる温泉旅行に向け、ミーさんとアカネさんと作ったトークルームでいるものをあらかじめ聞いてほとんど用意を済ませておいた俺たちは、夜ご飯を食べたりの諸々のやる事を全て終わらせて。時計の針が二十時を指そうかという頃、いよいよ本日の本題へと入った。


 机の上に並べられた、四種のお酒。少しだけお高めなぶどうワインに、アルコール度数高めのストロングなお酒。それと銀色の缶に入ったなんとも分かりやすいテンプレビール、アルコール度数わずか三%の初心者用お酒、ちょろ酔い。


 とりあえず幅広く買ってみたはいいものの、だ。最初に飲むお酒なんて初めから決まってる。


「やっぱりちょろ酔いだな。慣らしは大事だ」


「和人さん、慣らさないとすぐ潰れちゃいそうだもんねぇ」


「……そっくりそのまま返すわ」


 初めて飲むお酒はオシャレにワインを、なんてのも一瞬考えはしたのだが、もう十中八九サキはアルコール耐性が無い。ならまずは炭酸ジュースの延長線上とも呼ばれるちょろ酔いから飲むのが最適だろう。


 ちょろちょろ、ちょろちょろと一本の缶の中身を半分ずつグラスに分け、机の上に。そして俺たちは一つずつそれを持ち、グラスの口をそっと当て合って乾杯した。


(ん……これ、美味しいな)


 フルーツ味を選んでみたが、飲んでみると本当にこれは炭酸ジュースの延長だ。ちょっとシュワシュワ感を感じるだけで身体に何も変化は訪れないし……まあ、三%なんてこんなものか。


 あまりのアルコール度数の低さ。これにはサキも、拍子抜けのようで────


「ん、ふにゅ……? 身体ちょっと、熱い?」


「嘘ぉ」


 はなかった。少し目を離したうちにサキの顔はほんのりと紅潮し、ぽわぽわとした表情で手を仰ぐ。ちなみに見たところ、グラスの中身はほとんど減っていない。


「えへへ……ぽかぽかすりゅ。和人、お酒あっためておいてくれたのぉ?」


「バリバリに冷蔵庫で冷やしてましたが??」


「もぉ、照れちゃってぇ。そうやって隠れて私のために色々してくれる和人しゃん、わらひは好き……ううん、大好きらよ?」


「……」


 あ゛ぁっ!! 可愛いッッッ!!!!


「ふっふっふ〜ん♪ もうちょっと飲んじゃお〜」


「あ、ちょっ……」


 くぴ、くぴくぴくぴっ。グラスの中身が、小さな口に流し込まれていく。


 やがてあっという間に中身を全て飲み干してしまうと、サキは「ぷはぁ〜っ!」と牛乳を一気飲みした後のような声を出してから……


「……きゅぅ」


「サキさんっ!?」


 ばたんきゅーした。耳まで真っ赤にして机に突っ伏すと、おでこをグリグリと押しつけて。たまに「あひぇひぇっ」と酔っ払いと動物の鳴き声の中間地点のような奇声を呟きながら身を乗り出して、机を彼女のように抱きしめていた。


「机ちゃんはひんやりして、気持ちいいにぇぇ。しゅきっ。かじゅとの次に……しゅきぃ」


「おいおい、大丈夫か? あぁ、涎垂れてる……」


 ひとまず机ちゃんに勝てたことに若干の喜び(?)を感じながら、奇行に走るサキの肩を揺さぶる。すると一瞬目を合わせた彼女は俺の右手に握られていたグラスを強奪して……また中身を、全て飲み干した。


「おしゃけぇ、おいひぃ♡ これが噂の、強炭酸すとりょんぐっ……♡」


「違うんだ……それはただの、ちょろ酔いなんだよぉ……」


 いや、弱いとは分かってたんだ。サキがお酒強いなんて事、万に一つもないってことくらい、分かってたはずなんだが。


 それでもまさか、ここまでとは思わないだろう。アルコール度数三%を一口で酔いが始まり、缶一個分飲み干すともうぐでんぐでん。流石にここまでとは、想定していなかった。


「えへへ、えへへへへへへへっ」




…………どうしよう。

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