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88話 誕生日デート5

88話 誕生日デート5



 今にも鼻歌でも唄い始めそうなほどにルンルンなサキを連れてやってきたのは、二階の端。そこはイベントスペースとなっていて、季節限定の商品や何かとのコラボグッズなどを展開している場所である。


 ちなみに、今は……


「サキの水着を買うぞ〜」


「うんっ! ……うんっ!?」


 勢いで返事をしてから一拍置いて。サキは俺の発言をキチンと脳内再生しながら、それはそれは良いリアクションで目を見開いた。


 そう。今の時期は水着が大量に並べられ、売られているのである。


「どういうこと!? 聞いてない!!」


 だって言ってないもの。言ったらやれエッチだの変態だの言われそうだし。


「……和人のえっち」


 ほら言われた。酷いなぁ、俺はただ彼女の水着姿を見たいだけの紳士彼氏だというのに。というか、バスタオル一枚で一緒にお風呂に入ってる中なのに今更水着でそこまで恥ずかしがらなくても。


「変態じゃない。別に水着がいるならいいけど、確か高校の時の水着入らなくなったんだろ?」


「うっ。そ、それは……」


「一着くらい持っといた方がいいって。去年はまだ恥ずかしくて誘えなかったけど今年はプールとか海とか行きたいし」


 俺の心の内を語ると、サキは顔を赤らめて……そして小さく、頷いた。


「分かった、よ。その、私も和人とプールとか行ってみたいし……」


「よし来た。そうでなくちゃな」


 去年の夏。俺たちがまだ初々しくて、お互いに大学が休みで学校で会えない中トークアプリで誘いあってデートできたのはわずか二回。毎日サキのことを考えて、メッセージを送ろうとしては消して。そんな苦い夏休みを過ごした覚えがあるからこそ、今年は全力で楽しみたい。


 その中でやはり外せないのは、水着イベントだろう。プールでも海でもどちらでもいいが、水着姿の可愛いサキと遊んだり何かを食べたり……とにかくこう、恋人らしい事をいっぱいしたいのだ。


「じゃあ早速行こうぜ。サキの可愛い水着、じっくり選んでいっぱい買おう」


「……えっちな顔になってる。あと、いっぱいはいらないよぉ……」


 さっきまでは引かれるばかりだった腕を次は俺が引き、水着コーナーへと足を踏み入れる。


 お店とは違いオープンな感じで陳列されているこのコーナーに何かを聞いてきたり進めてきたりという店員さんはおらず、いるのは遠くのレジに一人。他にお客さんは何人がいるが、二人でじっくりと楽しんで見られそうだ。


 と、早速女性用水着のコーナーにサキを連れて行こうとした瞬間。俺の腕が小さく、か細い力で引き寄せられる。


「ちょっと、待ってよ。私ばっかりずるい……」


「え?」


「和人の水着も選ぶの! 私にえっちなの着せようとしたら……ブーメラン履かせる」


「……まじ?」


「マジだよ。だから真面目に選んでね? ……さっきチラッと見たあの紐みたいなやつ持ってきたら許さないから」


「は、はぃ……」


 まさかバレていたとは。何個か候補を持っていってその間にでもコッソリ挟んでおいてやろうと思っていたのに。


 さ、流石にブーメランを履かされるのはごめんだ。仕方ない、ネタ枠無しでキチンと選ぶとしよう。



 お灸を据えられたところで、少し頬を膨らませている隣の天使さんと共に、改めて俺は女性用水着のコーナーへと進んだ。

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