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87話 誕生日デート4

87話 誕生日デート4



「和人、ねえ和人っ! 早速二人でお揃いつけよ〜!!」


「おう、分かった分かった。だから落ち着け〜」


 レジでのお会計を済ましたサキのテンションはマックスで、店員さんから箱の包装を丁寧に開けてもらって中身を取り出すと早速と言わんばかりに二つ並んだ腕時計を手に取った。


「ほら腕出してっ。私がつけてあげる!」


「ん。頼む」


 そのうち片方、俺用の青色の物を差し出した俺の腕に通したサキは、手首よりちょっと上のところで金具を止める。サイズが合わなければこの場で調節してもらえるそうなのだが、どうやら問題はなくピッタリなようだ。腕に何かをつけるという違和感はあるが、ズレたりする様子もないしすぐに慣れるだろう。


「じゃあ次はサキだな。手、出してみ」


「……うんっ」


 元々していた腕時計を大事に扱いながら外してカバンに入れたサキは、言われた通り腕をこちらに差し出す。


 白くて細い、それでいて綺麗なその腕にピンク色のそれを嵌めてサキがやったのと同じように金具を止めてやると、どうやらこっちもちょうどのサイズだったようで。腕を軽く振ってもズレのないフィット感を見せながら、サキは幸せそうに笑った。


「えへへ……和人と、お揃い……」


 ニヤつきながら時計を摩り、眺め、また摩り。なんて分かりやすく喜んでくれるのだろう。これはサキが自分のお金で買った物だし俺があげたわけでもなんでも無いが、そんな事は全く気にしていないようだ。


 そして俺も。サキほどではないが頰が緩んでしまい、咄嗟に片手で顔の下半分を覆った。


(これが、お揃いの破壊力なのか……)


 好きな子と同じ物を身につけていられる。時間を確認するたびにお互いの存在を感じられる。これから先そんな幸せな心の動きが日常に追加されていくというだけで、幸福感が溢れ出して止まらない。


 そうして二人、お互いに人目も気にせずニヤけ続けること数十秒。ついにその空気感に痺れを切らした店員さんの声によって、俺たちは正気に戻った。


 振り返ると後ろではレジでの会計を待っている他のお客さんがいて、俺たちは時計の空箱を受け取って逃げるように退店。そのまま少しお店から離れたベンチにひとまず座り、一息をついた。


「ふふっ、和人似合ってるね。かっこいいよ」


「サキも似合ってるぞ。その、なんだ……めちゃくちゃかわいい」


 最高の誕生日だ。こうして今お揃いの腕時計をつけて、同じベンチに腰掛けて。もう何時間だってこうしていられるというほどに幸せに包まれている。


「私、ずっとこの時計の針眺めちゃいそうだよ。ただ回って動いてるだけなのに、ね」


「俺もだ。本当に最高の誕生日プレゼント、ありがとな」


「どーいたしまして。大切にしてよね」


「言われなくてもするさ。というか、サキの場合は逆にそっちばっかりつけてお母さんから貰った方つけなくなっちゃうんじゃないか? その気に入りようだと」


「……まあ、使い分けるよっ」


 本当かぁ? と返してやると、サキは目を泳がせながら勿論と答えて、立ち上がった。


「さて、いつまでも座ってても仕方ないしね! 和人、次のお店行こ〜!」


「よーし、そうだな。実はサキを連れて行きたい店があってな。そこに行こう」


「りょーかーい!!」


 手を繋ぎ、二人の間にある腕時計の存在を確かめ合いながら。俺たちは次の目的地へと向かった。




……サキには知らせていない、夢の詰まった目的地へと。

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