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86話 誕生日デート3

86話 誕生日デート3



「ねー、これなんてどう!? 絶対似合うよ和人に!!」


「お、どれどれ」


 少しお高そうな腕時計屋をスルーし、俺たちでも手が出そうな店で二人、商品を見てまわる。


 既にサキから五つほど候補を勧められ、試着もしてみたのだが。……中々、良いのものが見つからない。


 別に誰も悪いわけじゃない。ただ、これまで腕時計をつけてこなかったせいで選び方も分からなくなっているのか、どれもサキから勧められればかっこよく感じてしまって違いを感じない。


(うーん、どうしたもんか……)


 これまでの試着で、どういうものがつけ心地が良くて、どういうものが見た目として違和感がないかというのはなんとなく掴めた。あとは決定打が何か一つあればすぐに決断できそうなんだが……


 と、そんなことを考えながら俺もサキと同じように時計を探していると、一つの……いや、一セットの時計に目がいった。


「ペア腕時計……?」


 二つの箱が連結し、中には二つの腕時計。片方は青色で、もう片方はピンク色の色違い二種類セットといったところだろうか。


「お客様、そちらが気になりますか?」


「へっ!? あ、えと……はい」


 唐突に後ろから出てきた店員さんに驚きながらもそう答えると、軽くその商品の説明が始まった。


「こちらはカップルさんに今人気のペア腕時計になっております。一見しただけだとただの色違い二種類のセットなのですが、針のデザインなど細かいところに目をやると少しずつ違うんですよ」


「え、そうなんですか?」


 たしかに、よく見てみると……本当だ。針の形は青色の方はなんだか尖ってピンピンしているけれど、ピンク色の方は丸っこい。背面のデザインも色の明暗のつき方が違うし、青色には犬、ピンク色には猫が薄く印刷されている。


 サキのやつは今つけている腕時計をお母さんから合格祝いで貰ったものだと言って大事につけているが、それ一つばかりを毎日のようにつけていればすぐに傷みが出てきてしまうだろう。替えの腕時計を一つくらい用意してあげたいなと思ったことも何度もある。


「ありがとうございます、店員さん。ちょっと考えますね」


「はい。あちらの彼女さんもきっと喜んでくださると思いますので、ぜひご検討ください」


 ぺこり、と頭を下げて、サキがこちらに戻ってきそうなタイミングで店員さんは姿を消した。流石はプロだ。


「和人〜、何かいいのあった〜?」


「おう。これなんてどうだ?」


 ぬんっ、と箱を手に取って前に差し出し、サキに見せる。すると返ってきたのは、予想通りのはてなマークを浮かべた顔。


「二個あるよ?」


「ピンクはサキのだよ。ずっとその時計ばっかりつけてるし、替えも持っておいた方がいいぞ。あと、この二つは色違いのお揃いだ」


「お揃い……!!」


 サキの目が輝いた。だがすぐにハッとした様子で目線を逸らすと、少し指をいじいじしながらサキは言う。


「でも、今日は和人の誕生日プレゼントを選びに来たわけで……私まで貰っちゃうのは……」


「? サキはこのデザインあんまり好きじゃないか?」


「え? そ、それはその……好き、だけど。青い方も和人にすっごく似合いそうだし……」


「あー、サキとお揃いの腕時計付けたいなぁ。もしこんな良いもの買ってもらえたら、最高の誕生日プレゼントになるのになぁ……」


「買ってきます!!」


 俺が誘うようにそう言うと、サキは俺から箱を奪い取って速攻でレジへと走っていった。


 ちなみに値段はかなりリーズナブルなのでとてもお財布に優しい。この低めの値段設定も、カップルに今人気な理由の一つなんだとか。


(ありがとう、店員さん。おかげさまでサキから最高のプレゼントを貰えました)




 心の中で店員さんに深い感謝をしつつ、俺はサキの後を追ってレジへと向かうのだった。

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