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66話 初めての夜遊び2

66話 初めての夜遊び2



 一人でボックスの中に入り、バットを握ったサキは、やがてそれを構える。


「サキー、頑張れよー」


「よ、余裕だよ。七十キロなんて、思いっきり打って……」


 と、その時。ボールを投げる選手の電子版が動き出し、投げるモーションが始まり、そして野球ボールを、サキに向けて放った。


 やはり七十キロ設定なんて、遅すぎただろうか。そのボールは、俺の目にはかなりゆっくりに見えた。


 まあでも、初めから速い球にしても仕方がないしな。とりあえず、サキにはとっとと打ってもらって────


「────ふんッ!」


 ぽすっ。勢いよく振られた金属バットは空を切り、遅いボールはサキの隣を通り過ぎて、後ろのゴム板へと当たった。


「あ、あれ? サキさん?」


「っ、ふんッ! ふんんッッッ!!」


 ぽすっ。ぽすっ。ぽすっ。


 何度バットを振っても、掠った時の金属音すら鳴らない。ただ響くのは、ゴム板に衝撃を吸収されて床に落ちる、ボールの音だけ。


「……」


 あ、バット変えた。自分がバットを振り回す力が無いのを分かっててわざわざ一番短いやつを選んでたのに、次は一番長いやつ。


「ふんすッッッ!!!」


 わぁー、なんて清々しい空振り。凄いなぁ、振り方はそこまで悪くないのに、マジで当たらない。


 何なんだろうなぁ。こういうのって、もう天性のセンスなのか? 生まれつき絶対音感が備わってる人がいるみたいに、どの分野でもポンコツになるセンス的な。


「…………きょ、今日は調子悪いみたい」


 なんて、そんな事を考えながら空振り劇を見続けていると、ついに諦めたサキはそう言い訳をして。バットを元あった場所に置いてボックスを出ようと振り向いてきて、その何とも言えない表情と目があってしまい俺は────


「ぷふっ」


「あぁっ! 今和人笑った!? 違うから、本当に調子悪かったの!! いつもはもっと、ポンポンッて打ってるんだからッ!!!」


 思わず、吹き出してしまった。大体やった事ないって言ってたのに、いつもはって何だよいつもはって。いいんだよサキさん、あなたはそれで。可愛い。ポンなところが最高に可愛いですわよ。


「いやぁ、笑ってない笑ってない。良かったよ、サキっぽくて」


「どういう意味!? って、そんなに言うなら和人やってみてよ! これ簡単そうに見えてめちゃくちゃ難しいんだからね!!」


「えぇー……。七十キロとか遅すぎて逆に打てなさそうだから、百十キロあたりでやってもいいか?」


「むきぃぃぃっ!!」


 俺の煽りともとれる言葉を聞いて不満爆発な様子でボックスから出てきたサキは、俺の腕を引いてバッティングセンターから離れる。


「こうなったら、別ので和人を負かすんだからっ! ほら、次のところ行くよ!!」


「えぇ。俺には打たせてくれないのか?」


「どうせ和人のことだから、打てたら私のことバカにするもんっ!!」


 あらら、サキさん怒っちゃった。もう、ほっぺたぷくぷくにして可愛いなぁ。まあ、言ったらまた怒るだろうから言わないけど。


 にしても、他のところで勝つ、ねぇ。一応ほとんどの球技平均くらいにできる自信はあるし、少なくともサキに負けるとは思えないが。


 俺は心の中でそんな事を考えながら、それをそのまま要約して口にした。


「はぁ。真面目にやってサキが勝てそうなのってあるのかぁ……?」


「うるさいっ! いいから早く行くのーっ!!」


 やれやれ、仕方ないな全く。まあすぐに諦めるだろうし、一先ずは勝負してやるとするか。本当はそんなことせずに一緒にカップルらしく色んなことをエンジョイしたいのだが、これはこれで面白そうだ。


「ったく、仕方ないな」


「絶対、勝つんだからッッッ!!!」




 とりあえず、この負けず嫌いの気が済むまで付き合い続けてやるとしよう。

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