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60話 優子さんとお急ぎショッピング1

60話 優子さんとお急ぎショッピング1



「どう、落ち着いた?」


「はい。カラオケの空調、最高です……」


 俺と優子さん以外誰もいない、カラオケ店のカウンター。その隣に空き室待ちのお客さん専用の椅子があったので、とりあえずそこに座らせてもらい、受け取ったお茶を飲んで俺はホッコリしていた。


「もう、こんな暑い中走ってくるなんてよっぽどのことなの?」


「ん゛っ、そ、そうでした。実はこれから、サキの誕生日プレゼントを買いに行こうと思ってて」


「ほほうほほう、そういえばサキの誕生日、明日だったねぇ。……え? まだ買ってなかったの?」


「……」


 この口ぶりだと、既に優子さんはなにか用意した後なのだろう。まあ、前日にまだ用意できてないって遅すぎるもんなぁ。彼氏として不甲斐ない。


「買うものは決まっているんですが、どこのお店で買ったらいいのか全く分からなくて……。そういうのに詳しそうな優子さんに手を貸してもらえたら、と」


「なるほどねぇ。それで、この炎天下の中わざわざ私を求めて走ってきたの?」


「はい……」


「そっか、頼ってもらえて嬉しいよ。ただ、仕事中だからなぁ……」


 うーん、と一瞬悩んだ顔をしながら、優子さんは掛け時計を確認する。


 今の時刻は、昼の一時前。すでに家を出てから、十五分ほどが経過している。


「ふふっ、和人君運いいね。タイミング、バッチリだったみたいだよ」


「え?」


 と、優子さんがそう言った瞬間。カウンターの奥ののれんの向こうから、眼鏡をかけた男の人が出てきた。


「前川君、そろそろ退勤していいよ〜。お、その人は彼氏?」


「違いますよぉ。私の親友の彼氏君です。これから、その親友の誕生日プレゼントを一緒に買いに行ってきます」


「おー、そっかそっか。暑いから気をつけてね〜」


「は〜い」


 あ、あの人店長だったのか。その割には結構若いような……って、そうじゃない。なんかとんとん拍子で話が進んでいってるな?


「ふっふっふ。和人君、なんと私のシフトは一時まで。つまりもう、終わりなのですよぉ。時間無いんでしょ? これからダッシュで、一緒に買いに行くよ!」


「え? あ、はいっ!」


 タイミングバッチリと言ったのはこういう事だったのか。何はともあれ、この場でどのお店がいいかを口頭で聞くよりも、一緒に来てくれた方が助かる。


 そもそも優子さんとの連絡手段はこのカラオケ屋に来る以外に無いのだから、働いていてくれなかったら今日は会うことすらできなかった。本当に、俺は運がいい。


 と、一人そんなことを考えている間に優子さんは着替えを終え、水色ベースの私服になって戻ってきた。少し露出が多めなシャツも、短めのワンピースも。見ているだけで少しドキッとしてしまうほどによく似合っている。


「お待たせ、和人君。じゃあまずは、何を買うつもりなのか聞いてもいいかな?」


「はい。えっと……ネックレス、を」


「おー、いいねオシャレ! 言われてみればサキってネックレス付けてるところ見たことないし、絶対似合う!!」


「ですよね! どうです、いいお店、近くにありますか……?」


「任せてちょっ!」


 やはり、流石最終兵器と言うべきか。自信満々で答えてくれた優子さんはスマホを取り出し、音速の文字入力を繰り返して検索。ものの数分で、自身も行ったことがあるのだといういかにもオシャレな感じのお店の位置を、マップで示してくれた。


「ここ、高級感がある割には値段が安めに設定されてて、私のお気に入りのお店なの。徒歩でここから十分も歩けば着くから、早く行こっ!」


「流石です優子さん! ぜひっ!!」


「よし、レッツゴー!!」




 店長さんから温かい目で見守られながら、俺たちは早速、マップを頼りに涼しい天国を飛び出し、炎天下の地獄の中へと身を乗り出した。

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