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227話 のんびりデート4

227話 のんびりデート4



「サキ、ちょっと」


「なに〜? あ、見て見て! あの子こっち向いてる!!」


「……」


 ダメだ。この真実は伝えられそうにない。というかそもそも伝えちゃダメな気がする。


 サキは純粋だ。どれだけ男受けのいい体つきをしていてもその心の綺麗さは決して汚していいものではない。


 なら、ここで無理に今の状況を伝えるのは得策じゃない。なんのために俺が隣にいるんだって話にもなるしな。


 サキをいやらしい男たちの視線から守護るのは彼氏である俺の役目。なんとしても気づかせぬよう、それでいて注目されぬよう。俺が頑張らないと。


「お、おい。なんかあの可愛い子の隣に凄い形相でこっち見てる奴いないか?」


「まさか彼氏か? いやでもあんな可愛い子にあの冴えない奴が……あっ! もしかしたら兄弟とかじゃね? だったら俺たちもまだワンチャンあるだろ!!」


「……」


 冴えない奴、ね。言ってくれるな。


 確かにサキは死ぬほど可愛い。そんなコイツの彼氏として俺のビジュアルが役不足なことくらい、痛いほどよく分かってる。


 けどな。どこぞの馬の骨とも知らんやつにワンチャンだと? 


 んなもん……あるわけねえだろうが。


「むぅ。ペンギンさんたち行っちゃった。もっと見たかったなぁ」


「大丈夫だ。あとでイルカショーに続いてペンギンショーもあるから。その時また見れるぞ」


「ほんと!? えへへ、楽しみ〜♪」


 だから、分からせないと。


「なあサキ」


「?」


 タイミングは一瞬。ペンギンさんたちが飼育員さんたちと一緒に扉の先ーーーー即ち裏側へと姿を消す、その瞬間。


 子供、親、カップル。ペンギンさん目当てで来た全員の視線がそちらを向いたタイミングで、俺は……


「〜〜ッ!?」


「「!!?!!?」」


 準備も何もないサキの唇に、そっと口付けをした。


 本当に一瞬の出来事だ。ただでさえサキはしゃがんでいたし、きっとこの場にいる九十パーセント以上の人はその行為に気づいてもいない。


 でも、残り数パーセント。ペンギンそっちのけでうちの可愛い彼女さんに視線を送っていた男どもには、充分すぎるほどに効果を発揮できるはずだ。


「か、和人……?」


「ごめん、急に。なんかシたくなって」


「そ、そっか。……別に、いいよ」


 そしてみるみるうちにサキの頬は赤く染まっていき、嬉しそうな表情で俺を見つめる。


 急にこんなことをして。もしかしたら怒られるのでは? とも思ったが。優しい彼女さんの琴線には触れなかったようだ。


「で、でも次からはちゃんと言ってね? 何回もシておいて今更って思うかもしれないけど、ちゃんと心の準備をしてからシたいから」


「分かった。気をつけるよ」


「あっ! 言っておくけどシたくないってことじゃないからね? ほんとだよ……?」


「大丈夫だって。ちゃんと伝わってるから」


「……うん」


 ぽんぽんっ、とサキの頭を撫でてから、もう一度視線を送って男どもを威嚇する。


 だが既に効果覿面だったようで、俺と目を合わせることもなく二人はどこかへ去っていった。


 少しやり過ぎな気もしたけれど……うん。害虫駆除はできたしいいか。


「あ、あとね?」


「ん? 〜〜ッッ!?」


 そして安堵し、立ちあがろうとしたその時。


 俺の首周りに細い両腕が回され、柔らかい感触が唇をーーーー口内を襲う。


 何が何やら理解する間もなく、感じたのはふわりと鼻腔をくすぐる甘い匂いと、舌を這う心地の良い感触。


 それはほんの数秒の繋がりだったけれど、俺がシたのとは比べものにならないくらい濃厚で。それでいて気持ちいいものだった。




「あんなの急に一瞬だけなんてガマンできないよ。だからお返し……ね?」

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