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223話 デートの始まり

223話 デートの始まり



「てってってって〜てってってってってってて〜ててててててててててててて〜」


「Let's go‼︎」


 陽気なBGMを車内に響かせながら、道路を進む。


 家を出ておよそ十五分ほど。朝メックのドライブスルーを受け取り、香ばしいポテトの匂いが充満していた。


 カサカサと隣でサキが紙袋の中身を取り出している音を聞いているだけでもう涎が垂れてきそうだ。食いしんぼがうつったのだろうか。

 

「えっと……私のがこれで、和人のがこれっと。ここ置いていい?」


「おー、ありがと。流石に片手運転はヤバいし信号待ちで食べるわ」


 ドリンクホルダーにはメロンジュースとコーラ。そしてサキの太ももの上には朝メック限定のハッシュドポテトとハンバーガーが一つずつ。俺の分は運転席と助手席の間だ。


 本当は今すぐかぶりつきたい。が、今は運転中。


 数秒よそ見運転をしただけで事故に繋がることもある。こんなしょうもない理由でサキを危険に晒すわけにもいくまい。


 ドライブスルーじゃなく店内で……とも思ったんだがな。やはりどうせ行くなら開店時間に間に合わせたい。そのためには、あまりゆっくりとはしていられなかったのだ。


「信号待ちでって、もうすぐ高速道路入っちゃうよ?」


「え? あ、やべ本当だ。もうそんなに進んでたのか……」


 まずい。そうこうしているうちに高速道路の入り口が見えてきた。


 信号待ちに食べるとは言ったものの、止まるのはせいぜいあと一回か二回。食べ切れる可能性は無くはないものの、大急ぎになってしまう。


 せっかくの朝メック。冷ましたくはないが……かといって、ろくに味わうこともなくかっ喰らうというのも……


「もぉ。仕方ないなぁ」


 だが、そんな悩みを解決すべく。サキは小さく呟いてから、再びカサカサと音を立て始める。


 運転中だから見れないが、ハンバーガーの包み紙を開けているのだろうか?


「はい、あ〜ん」


「あーん!?」


「あっ、こっち見ちゃダメだよ。ちゃんと前見ててね?」


「むぐ……」


 差し出されたハンバーガーが微かに視界に入り、口のすぐそばにスタンバイされたのを見て。一口、かぶりつく。


 ……美味い。キャベツとチキンが辛子マヨと絡まっていて、まさにジャンクといった感じの旨みがすぐに口内に広がった。


「ーーーーごくっ」


「どぉ?」


「めちゃくちゃ美味い。けど、あ〜んしてくれるサキの顔見れないの悔しい」


「えへへ、そんなこと思ってくれるんだ。でもダメなものはダメだからね? ちゃんと前見て運転しなきゃ。はい、次ポテト」


 ハンバーガー、ポテト、ジュース。


 器用にタイミングを調整し、自分が食べるのと並行してあ〜んを繰り返す。


 そうこうしてるうちにあっという間に高速道路の手前まで来て。そしてーーーー


「おっ」


 信号が、赤になった。


 この信号を越えればすぐに高速道路だ。一度入ってしまえばパーキングエリアなどに寄らない限り、車が止まることは無い。


 ラッキーだ。このまま、最後まで顔を見れないままあ〜んされ続けるのかと思ったが。


「……信号赤になったから、もう自分で食べられるよ?」


「サキに食べさせてほしいです」


「あ、改まって言われるとちょっと恥ずかしいよ……」


「まあまあそう言わず。ほら、一回だけだから」


「……」


「はむっ!」




 のんびりデートは、まだ始まったばかり。

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