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208話 スーツの女幹部さん

208話 スーツの女幹部さん



 それからしばらく経過して、夜。


「えと……ここでいいのか?」


 マップ頼りに電車に揺られ、三駅先で降りてから徒歩数分の所にそれらしき建物を見つけた。


 名前は一致してるし、どうやらここの二階で間違いなさそうだ。


 というか……うん。なんやかんやで知り合ってからそれなりに経ってるから慣れてはきたものの。


「相変わらず、俺らとは感覚違うんだろうなあ」


「ね。明らかに高そうだよ……」


 二階と言ったからナメてるかもしれないが、建物の一階まで高級感がダダ漏れのお店だ。


 どうやらジャンルとしては中華らしい。店の名前は読めない漢字の羅列だし、看板として置かれた簡易メニュー表にはチャーハンや酢豚の写真が貼ってある。もちろん値段は書いてない。


「てかこれ、あれじゃないか? ほらよくヤーさんとかマフィアさんが丸テーブル囲んで食べるアレ的な。どする、周りのお客さん全員イカつかったら」


「……泣きながら帰る」


「おい待て俺を置いてくな。その時は俺も容赦なく全力疾走するからな」


「大丈夫ですよ。今日貸切ですし。というか雰囲気あるだけで割と普通な値段のとこですし」


「ひゃあああっ!? ス、スーツの女幹部さん!?」


「誰がですか」


 な、なんだミーさんか。サキがすごい声あげてそんなこと言うもんだからマジで本物きたかと思ったじゃねえか。


「驚かせないでくださいよお……って、そのスーツ姿暑くないんですか?」


「なんか前に和人さんにも同じようなこと聞かれた気がしますが、正直死ぬほど暑いです。なので早く中に入りませんか?」


「あ、はい」


 ほんとだ、ミーさんすごい汗。そいでくたびれた顔してる。


 二階だし階段でいいか、と一瞬目をやりつつも。それですら苦に感じてしまいそうなほど疲弊し切った様子のミーさんのため、少し奥に進んだ所にあるエレベーターへと乗り込む。


「今日も朝から大忙しだった感じですか?」


「ええそれはもう。あの人が呑気にここを予約している間にも私は今度案件予定のゲーム会社の人と打ち合わせしてましたよ。それが終わってからは家に帰る暇もなく明日出す動画の編集してました。ほんっと、あの人が家でゴロゴロしてる間も!!」


「あっはは……お疲れ様です」


 相変わらず……ほんと、相変わらずだ。


 というかアカネさん、打ち合わせとかは本当にマネージャーのミーさんに一任してるんだな。


 案件って言ったらお金を貰ってゲームや商品を配信で宣伝する仕事のことだ。企業からもらえる額にはばらつきがあるものの、アカネさんが受けるものともなればかなりの額が動くだろうに、その打ち合わせを任せて自分はウキウキでご飯屋さんを予約、か。


 やっぱりあの人は肝の座り方が尋常じゃないな。言い換えればミーさんへの信頼が、とも。


「へへ、へへへ……今日はとことん爆食いするって決めてるんです。朝からゼリー飲料とコーヒーしか口にできてませんでしたからね。チャーハン……餃子……回鍋肉に杏仁豆腐……ふふっ。ふふふふふふふふふっ」


「か、かか和人さん? ミーしゃんがおかしくなってて怖いでしゅ……」


「泣くなサキ。俺も同じ気持ちだから」

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