表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/28

23.~みんなで焼き芋~


 爽やかな秋晴れの一日。

 畑の中、風に揺れる葉を眺めながら一つ頷く。


「よーし、この芋を収穫したら、みんなで焼き芋をするぞ~!」

「焼き芋? なにそれ?」


 俺の言葉にジークが首を傾げる。

 今日の畑のお手伝いは、エアとジーク、ティノとフィオだ。そして今は水やりと雑草取りが終わったので木陰で休憩中。


 この世界の秋に収穫できるコロン芋。

 さつまいもっぽい味の芋で、名前の通りコロンとした見た目の、可愛い芋である。

 栽培しやすく食べやすいと庶民に人気のお芋だ。

 子供のころ、こっそり家の庭で落ち葉を集めて焼き芋をしたときは、火遊びをしていると勘違いされて父親に大量の水をぶっかけられた。俺ごと。全身びっしゃびしゃになって風邪を引いてしまった。

 きちんと誤解は解いたが、早とちりした父とこっそり火を扱った俺は母に叱られた。風邪が治った後で改めて両親にお願いし、一緒に作って食べた焼き芋はとても美味しかった。今ではいい思い出だ。


「芋を落ち葉で焼いて食べるんだ。ほんのり甘くてホクホクしていて美味しいぞー?」

「初めて食べるね。焼き芋かぁ……楽しみだねフィオ」

「そうだねティノ兄さん。ねぇ、レン。ほんのりってどのくらい甘いの?」


 フィオがわくわくした顔で訊いてきた。

 ティノとフィオは甘いものが好きだ。なので、どのくらい甘いのかが気になるようだ。俺は素朴な甘さが気に入っているが、妖精二人には物足りないかもしれない。


 ……甘さが足りない時用に砂糖と蜂蜜を用意しておくかな?


「少し甘さを感じるくらいだな~」

「少しなんだ? どんな味なのか楽しみだなっ♪」


 エアが緑の瞳をキラキラさせる。とても可愛いので頭を撫でた。スッと頭を差し出すジークも撫でる。もちろん妖精たちも撫でる。みんな可愛いので満足するまで撫でた。

 フィオが不思議そうに首を傾げる。


「ねぇねぇ、いっぱい甘いお芋っていうのはあるの?」

「いっぱい甘い芋かぁ……うーん、俺はまだ食べたことないなぁ」


 前世ではそれこそ甘すぎるくらい甘い芋や、食感が違うたくさんの種類の芋があったが、この世界では見かけない。いや、俺がまだ食べたことがないだけの可能性もあるので、これからも焼き芋に適した芋を探すけれども。

 フィオの言葉を聞いて、何か考えていた様子のエアがパッと顔を輝かせた。


「あ、そうだ! ボク良いこと考えた!!」

「ん? どうした?」

「この前帰った時にね、長老さまに植物の性質を変化させる方法を教えてもらったんだっ」

「性質を変化?」

「そう! 前から無意識に使っていたらしいんだけど、長老さまがね、意識的に使えるように教えてくれたの。そうすれば、いっぱい甘いお芋ができるかも! 見ててっ」


 弾けるような笑顔を見せたエアがコロン芋の前にしゃがみこむ。

 性質変化……名前からして凄そうだ。どんな方法でやるのか、気になる。

 俺、ジーク、ティノ、フィオは、どうやって芋を甘くするのかドキドキしながらエアを見つめた。


 エアの手から金色の光が(あふ)れ出す。

 ふわりと風に流れるように畑全体に金色の光が降り注ぐ。

 その幻想的な光景に魅入っていると、エアはコロン芋の葉を撫でながら────褒めだした。


「こんなに立派に育ってえらいね~。よしよし、えらいえらいっ」


 ……あ、やっぱりこういう感じですか。


 正直予想はついていた。



***



 パチパチと焚き火の音がする。

 コロン芋を収穫し、焼き芋の準備をした。


 用意したものはスライムジェル。前世でいうところの濡れた新聞紙とアルミホイル、二つの役割をいい感じにこなしてくれるものだ。


「レン、準備が終わりました」

「綺麗に包めたよ~」


 シエルがにこりと微笑みながらスライムジェルに包み終わったコロン芋を持ってくる。にこにこ笑いながらウィルもコロン芋の入ったカゴを持ってきた。

 焚き火係の俺と、助手のカルマとベルがコロン芋を受けとる。


「おぉ、たくさん包んだな」

「フフフ、焼くのは任せてください。得意です」

「レン入れていい?」

「いいぞ~」


 妖しく嗤うカルマにマイペースなベル。……まぁ、いつも通りだな。

 後は出来上がるのを待つだけだ。




「……よし、良さそうだな。出来たぞー!」


 俺の言葉に少し離れた場所でそわそわしながら待っていた子供たちが集まってくる。どの子も初めて食べる焼き芋に興味津々だ。


「わあ~いい匂い~」

「レン、早く食べようよっ」

「待て待て、熱いからまだ触るなよ」


 すぐにでもコロン芋を手に取りそうなウィルとエアを制止し、スライムジェルをパリパリ()いて落としていく。

 そして真ん中から割ると、ホクホクした黄色っぽい中身が見えた。ここだけ見れば前世のさつまいもと一緒だ。今回はエアによる性質変化があるからか、黄色というより、黄金と言いたくなる濃厚な色になっていた。とても甘そうなのでウチの甘党たちも満足するだろう。

 まずは半分に割ったコロン芋をみんなに渡していく。

 全員に配り終わったところで見渡すと、“早く食べたい”“甘そう!”と期待に満ちた視線がかえってくる。


「みんな持ってるなー? では、いただきます」

「「「「「「いただきます!」」」」」」

「「いただきます♪」」


 かじりついた瞬間に口の中にひろがる甘い焼き芋の味。

 しっとりとした食感も食べやすく、いくらでもいけそうだ。

 コロン芋(エア改良版)の焼き芋はとても美味しかった。この美味しさを知ってしまうと、以前のコロン芋の焼き芋には戻れないかもしれない。みんなも笑顔でぱくぱく食べている。


「なにこれ甘い!」

「美味しい~!」


 俺たちは、しばらく“甘い”と“美味しい”しか言葉が出なかった。




 次々と焼き芋を食べ、また新たに焼いていく。

 これ以上食べると夜にご飯が食べられなくなると思う。だけど、子供たちからウルウルした瞳で「もう一個だけ……」と言われると、つい焼いてしまう。


 ……このままいくと、今日の夕食は…………焼き芋、かな?


 そうなりそうな予感がした。

ここまで読んでいただきありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ