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21.~秋の訪れ~


「うぅ……ん……」


 目を開けると、部屋の中はまだ薄暗かった。

 ここ数日は天気が荒れていたのだが、今朝は静かだ。

 手で目をこすりつつ、カーテンを少しだけ開けて外を確認してみた。


「おぉ……」


 そこには想像通りの光景が広がっていた。

 赤、黄、緑、様々な色で彩られた森。一面の紅葉が視界に飛び込んできた。昨日までとはまるで違う景色に、何回見ていても感動する。さすがは異世界だ。

 数日前の勉強時間のときに、子供たちへ秋が来ることを教えておいたけど、実際に自分の目でみると随分違うだろう。


 ……これは、みんなが外を見た時の反応が楽しみだな。


 周囲で寝ている子供たちを起こさないようにソッと撫でてから寝台をでた。




 朝食の準備をしていると、パタパタと軽い足音がこちらへと近づいてきた。

 本日の食事当番のエアとジークだと思う。

 興奮しているのに他の子たちを起こさないように足音を小さくしようと頑張っているのが微笑ましい。


「レン! レン! 外見たっ!?」

「すごいよ外!」

「エア、ジーク、おはよう。……どうしたんだ?」


 言いたいことはわかっているが、“話したくて仕方ない”と顔に書いてある二人を見て、笑いながら尋ねる。


「あっ! おはようレン」

「レンおはよう」


 エアとジークは、興奮のあまり朝の挨拶を忘れてしまったことに気がついたようで、少し照れたように笑いながら挨拶を返してきた。


「よしよし、ありがとうなー。今日もお手伝いをしてくれるんだな」


 挨拶を忘れてしまったことは自分たちで思い出せたので、お手伝いをするために早起きしてくれたことを理由に二人の頭を撫でる。

 お手伝いは強制ではないので、子供たちの自主性に任せている。でも、最近では当番表を自分たちで作ったりして、積極的にお手伝いしてくれている。


 ……うちの子たちは本当に優しくて可愛いなぁ。


 じぃん、と胸の内側に温かな感情があふれてくる。

 ついついぎゅーっと二人を抱きしめてしまった。エアとジークは嬉しそうに抱きしめ返してくれたが、ハッとした表情で口を開いた。


「あっ! 忘れてた! レン外見た!?」

「すごく変わってたんだけど……あれが、秋なの?」


 子供たちが可愛くてすっかり忘れていた。

 あんなにどんな反応をするのか楽しみにしていたのに。

 俺は笑顔で答えた。


「そうだぞ。今日から秋だ」



***



 朝食のために起きてきた残りの子供たちも、窓から見える外の様子に驚き、エアやジークと同じように興奮していた。それを(なだ)めつつ朝食を終えた俺は、食後のお茶を淹れながら今日の予定を発表した。


「よーし、今日は初めての秋だからな。みんなで“秋の贈り物”を採りに行こう」

「“秋の贈り物”?」

「なにそれ?」


 俺の言葉にみんなが疑問の声をあげる。


「ふっふっふ。“秋の贈り物”は、秋の初日にしか実らない貴重な木の実だ」

「初日だけなのですか?」

「そう。理由は諸説あるんだが……秋軍の精霊が、一年ぶりに会うその地の生き物へと贈り物をするという説が俺は好きだな」

「ふふっ素敵ですね」


 黒い瞳を細めて穏やかに微笑むシエルに、俺も笑い返した。


「だろ? それで今日はみんなと“秋の贈り物”を探しに行きたいと思うんだ。どうかな?」

「賛成っ!」

「行こう行こう!」

「レン、その実って美味しいの?」

「もちろんだぞベル。すごく甘くて美味しいぞー?」

「みんなでたくさん探しましょう」

「よし、行こう」


 瞳をキラキラさせる子供たちに、“秋の贈り物”にもびっくりするだろうな~と内心思った。




「まずは出掛ける準備をして、ティノとフィオを誘いにいこう」

「はーい」

「でも今日はまだ寝てるんじゃないですか?」

「そうだなぁ……」


 カルマの言葉に少し考えこむ。

 ティノたちは昨日、先輩妖精たちと“夜蜜採り”へと出掛けていたので、夜遅くまで帰ってこなかった。確かに今はまだ寝ていると思う。誘いにいってまだ眠いようなら寝かせておこう。

 本当は夜が遅いのは心配だけど、夜型の先輩妖精に色々教えてもらっているそうなので、心配しつつも送り出している。というか、妖精はほとんどが夜型だそうだ。朝から起きてる方が珍しいらしい。


 ……それにしても、色々教えてもらってるって妖精に必要なものを、だよな? 悪戯の仕方とかじゃないよな?


 少々不安に思いつつも、俺は一旦部屋へと戻り、秋用の羽織れるものを衣装棚から出して持ってきた。

 秋の陽射しは暖かいが、外に出ると肌寒く感じるだろう。

 外へ出る前に、子供たち一人一人に渡す。しかし、ベルだけは猫の姿のままジーーッとこちらを見上げているので、抱っこしていくことにした。もふもふ湯たんぽ(?)だな。


「わぁ~庭にある木も森の色も変わってるね~」

「フフッ、これは凄いですね。赤に黄色に茶に……緑色のままの木もありますね」

「全部の木の色が変わるわけではないんだ。でも、緑色の木も夏の明るい緑から、落ち着いた緑になっているだろう?」


 はしゃいで近くにある庭の木へ駆け寄るウィルとカルマ。その後にエアとジークも続く。

 その様子を見ながらシエルと一緒に歩いていく。


「不思議な光景ですね。昨日とここまで世界が変わるなんて」

「あぁ、本当に。それに今日は秋の始めだからまだだけど、これから冬に備えて葉が落ちていくんだ」

「冬に備えるんですか?」

「そう。木は越冬のため、そして落ちた葉の一部は動物の冬籠りのために使われ、残りは大地に還る」


 止まって木を眺めていたウィルたちに追いついた。

 そこまで距離があったわけじゃないので、俺たちの会話は聞こえていたようだ。振り向いたウィルが相槌を打った。


「へぇ~、そうなんだね~」

「まぁこれは地上の話で、例外もいくつかあるけどな」

「例外?」


 ジークが首を傾げる。


「ウィルのところはコレに当てはまらないな」

「そうなの?」

「うーん、僕もそんなに詳しくないけど、生えている植物が結構違うね~」

「空の上だからなぁ。その環境で適応した植物は地上に生えているのとはあまり似ていないらしいな。俺も本で読んだだけで、実際に見たことはないが」

「へー、どんな植物があるのっ?」


 エアが瞳をキラキラさせてウィルを見上げた。

 ……やっぱエルフだから植物が気になるのか?

 そんなことを考えながら俺もウィルに視線を向ける。


「そうだなぁ、軽い植物が多いかも~?」

「えっ、軽いの?」

「うん。例えば咲いている花を摘んだとするでしょ~? それを空中で離すとふわふわ浮いたりするんだよね~」

「なにそれ面白い」


 思わずそう言ったら、カルマが対抗するように胡散臭く笑った。


「レン、ワタシの故郷に生えている植物も面白いですよ?」

「あぁ……カルマのところもスゴいらしいな。実際に見たことはないが」

「個性的な植物が多くて楽しいです」

「個性的?」

「薬になる草と全く同じ見た目の毒草とか、複数の甘い実がなるのに必ず一つだけすっぱい実があるとか、一口かじるごとに味が変わる果物とか」

「へぇ……面白そうだな」


 パーティーとかで出すと盛り上がりそうだ。すると、俺の言葉を聞いたカルマの瞳が輝いた。


「いつか故郷にレンを連れて行きたいです」

「え、いいのか?」


 人間の俺が行っても?

 言葉にしなかった部分も読み取ったのだろう。「はい。レンなら大丈夫です!」と、カルマが輝く笑みで答えた。


「あ、ずるーい。ボクも行ってみたいよっ」

「私も……というか、みんなの故郷を見てみたいです」

「それは俺も興味あるな。いつかみんなで行けるといいなぁ」

「はい。そうですね」


 各族長の許可がないと行けなさそうなところが多いな。手続きすれば行けると思うが……今度先輩に訊いてみるか。


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