2.~BL成分増量中~
俺が子供たちを預かってから、半年が経った。
そんなある日の出来事。
「おーい、レン。こっちこっち」
「すまん。待たせた」
がやがや賑わう酒場。
今日は陽の日で、ベビーシッターはお休みだ。
なので、久しぶりに友人たちと飲むことにした。
いつもの酒場に到着すると、友人たちはもう全員揃ってた。
四人掛けのテーブル席に三人共座っている。
どうやら俺が一番最後みたいだな。
空いていた通路側の席に座ると、ちょうどよく店員が飲み物を持ってきた。
……ん? 全員分ある。
「あれ? まだ俺頼んでないぞ?」
「あぁ、お前が好きな飲み物も頼んでおいたんだ」
「そうそう。カシの実ジュース好きでしょ?」
「……いつも一番に飲んでる」
おおぅ……。
流石腐れ縁の友人たち。
俺の好みはバッチリ把握してるか。
この三人とは学生時代によくつるんで遊んでいた。
お互い仕事に就いてもこうしてちょいちょい会っている。
そういえば、俺たちも種族バラバラだな。
あんまり気にしたことがなかったが。
まず、俺は人間。
中肉中背で、可もなく不可もなくって感じ。
俺の隣に座ってるのは鳥の獣人のアウィス。
背中に翼があるんだが、これがまた極彩色なんだ。
俺の貧困な想像力で、何となく極楽鳥って呼んでる。
んで、顔も翼に負けないハデな美形。
色気だだもれで、よく女子にきゃーきゃー騒がれている。
歩く猥褻物だな。……ごめんテキトーに言った。
その前に座っているのが、エルフのリエース。
流石エルフだな。顔がいい。
日の光りを浴びた森のような、清涼な美形だ。
極楽鳥とは正反対だな。
だけど、そんな顔なのに悪戯好きっていう残念なヤツだ。
んで、俺の正面に座ってるのが竜族のナハト。
俺に竜族の習性、その他を教えてくれたのはコイツだ。
夜色の髪に温かい月の光のような瞳。
声も穏やかでゆったりしていて、話しているだけで心が落ち着く。
竜体もめちゃくちゃ格好よかった。
また乗せて欲しいな。
……あれ?
こうしてみると、俺だけ浮いてね?
えーと、俺に隠された血筋とか……ないな。
美形かっていうと……それもないな。
見栄はっても平均よりちょっと上くらいだな。
「レン? どうしたんだ?」
「あぁ、いや。よくよく考えたら、俺たち種族バラバラだなって」
「え、今さら?」
む、悪いか。
だって考えたことなかったんだからしょうがないだろ。
いや、確かに最初は、ファンタジー種族だ!とか考えてた気がする。
だけど、話してみると、中身はそんなに変わらないんだなって気がついた。
それからはあんまり気にしてなかったな。
そんな感じに説明したら、三人共生ぬるい視線になった。
「なんだよ」
「いや……うん。レンってそうだよなぁって再確認してたとこ」
「? 意味わからん」
「いいよ。わからなくて」
むぅ。バカにされているのか?
「そういえば、ベビーシッターはどう? もう慣れた?」
「よくぞ聞いてくれた!」
ベビーシッターは前世で考えてたのとは少し違った。
俺のイメージでは、朝子供を預かって、夜に家族の元へ返すってパターンだった。
そういうのもあるが、俺の場合は少し特殊だった。
まず、この世界では一週間が七日ある。
陽の日、月の日、火の日、水の日、木の日、土の日、星の日だ。
この中の陽の日以外の六日間、子供たちを預かっている。
つまり朝から晩まで、さらにお泊まり。
なんか最近「もう俺の子供でよくね?」とか思う。
「いや、ダメだろ」
極楽鳥に突っ込まれる。
うるさい。
黙って俺の話を聞け。
「はいはい」ってため息を吐く姿も色っぽい。
あ、店員さんが真っ赤になってる。
……くそう。イケメン滅べ。
俺の念を感じたのか、ペシリと額を叩かれた。
「……で? 続きは?」
わかったわかった。
まず朝。
俺は夜明けくらいに目を覚まして、掃除と朝食の準備をする。
だが、目を開けた瞬間から、俺の天国は始まる。
最初は……同じ部屋で寝てても赤ん坊と俺のベッドをわけていた。
寝ている間に潰しちゃったらヤバいからな。
だけど……そんな配慮は、一日目から崩れた。
種族ごとのベビーベッドに寝かせて次の日を迎えたんだが、起きた時には全員俺のベッドで寝ていた。
他の子はともかく、ジークなんて、どうやって俺のベッドに来たんだ?
そして、その日から俺たちは毎日一緒に寝ている。
最初は頑張ってベビーベッドに戻していたが、数日で諦めた。
人間、諦めが肝心だ。
目が覚めた時、頭上には大抵ウィルとカルマとシエルがいる。
翼があると上の方に行きたくなるのかな?
で、右側にはジーク、左側にはエアが、そんで胸の上にはベルがいる。
寝返りがうてないので、止めてほしいが、聞き入れられることはないだろう。
それぞれの頭をひと撫でしてから行動開始。
十五年で鍛えに鍛えた『掃除』で、手早く部屋を綺麗にする。
それから朝食作りを始める。
六種族分なので、手間隙かかるが『料理』補正で効率よく素早く作る。
出来上がったら、子供たちを起こす。
ベル以外は寝起きがいい。
一度声をかけて、軽く揺すれば起きる。
「れん、おはよ」
「おはよー」
「カルマ、ウィル。おはよ」
最初に起きたのは魔族のカルマと天族のウィリエル。
世間では超絶仲の悪い種族だが、この子たちは仲が良い。
俺の教育のお陰だな。
二人は両側から、おはようのちゅーをする。
……言っておくが、コレは俺が教えたわけじゃない。
どうやら、二人の両親が日常的にやっているみたいなんだ。
らぶらぶだな。
羨ましくなんて、ないんだからな!
次はアルカンシエルとエアリシュ、ジークハルトが起きた。
「れーん、ちゅー」
「おっきした」
「あぅー」
シエルは最近人化出来るようになった。
まだ安定して人化は出来ないみたいで、寝る時は竜の姿に戻るが、起きたら訓練の一環で人化する。
初めてみたときは、超びびった。
いきなり虹色のグラデーションの髪に、黒い瞳の超絶可愛い幼子がいたのだ。
何事!?
と思ってしまった。
今では慣れたけどな。
頭を撫でると、嬉しそうに目を細めた。
エアとジークは、他の種族と比べると成長がゆっくりだ。
てか、他が早いのか。
エアは最近喋れるようになってきた。
ジークはまだだな。
まぁ、可愛さは変わらないが。
ウィルとカルマがおはようのちゅーをし出すと、他のみんなも真似し出した。
今では、全員にしないと拗ねる。
ぷくぷくのほっぺたにキスをすると、お返しにちゅっとされる。
さて、最後に起こすのがベルなのだが、はっきりいって起きない。
声をかけても「ニィー」って鳴くだけだ。
流石は猫。
よく寝るな。寝かせてあげたいが朝食が片付かない。
心を鬼にして起こす。
「ほら、ベル起きろ」
「ニィ」
「起きなさい」
「ニィー」
揺すっても撫でても起きない。
……しょうがない。最終手段だな。
「まったく……ほら。起きるおまじない」
両手で持ち上げて、ベルのまぶたにキスをする。
するとようやく目を開くのだ。
ポンと軽い音がすると、目の前には黒髪に猫耳を生やした幼子がいた。
「レン、おはよ」
そう。ベルも人化出来るようになったのだ。
しゃがむのを要求されたので、素直に膝をつく。
精一杯背伸びして唇近くにちゅっとされる。
満足そうに揺れるしっぽが可愛い。
「それからな……」
「ちょい待とうか。お前話長すぎだよ」
「なんだと!? 失礼な極楽鳥だな!」
「その極楽鳥ってのもヤメテ」
文句の多い鳥さんだ。
「わかったよ。巻けばいいんだろ?」
「……。どうぞ」
朝食が終わったあとは軽くお勉強。
勉強といっても簡単な、お遊び程度のやつだ。
一緒に数を数えたり、歌を歌ったり、絵本を読んであげる。
俺の周りをちょろちょろしてて超可愛い。
俺の癒しタイムだな。
ある程度勉強が終わったらお昼。
朝にある程度仕込んであるので、簡単に調理すれば出来上がる。
昼食を食べ終わったらお昼寝の時間。
固まって寝ているのを見るとほっこりする。
子供たちが寝ている間に、俺はオヤツの準備をするんだ。
「レンのお菓子か……。いいな」
「本当。羨ましいな。僕、レンのお菓子大好き」
「……僕も」
三人共羨ましそうにこちらを見る。
……物欲しそうな顔をするな。
「学生の頃いっぱい作ってやったろ」
「ああ、あの餌付けな」
「人聞き悪いな!?」
「あれは餌付けだよ。だって僕、あんなに美味しいお菓子初めて食べたし」
「……あれは餌付け」
口々に「餌付け」と言われる。
失礼な。
お前らがお菓子なんかで餌付けされるタマか?
まぁ、いい。
続き行くぞー。
オヤツを食べたあとは自由時間だ。
好きなことをしていい時間。
自主性とかも大事だからな。
まぁ、大抵全員で仲良く遊んで終わるが。
そんで夕方頃になったら、また少しおねんねの時間だ。
『子守唄』で寝てもらう。
俺はその間に夕食の準備。
準備が粗方出来たら子供たちを起こしてお風呂。
夕食を食べたら、絵本を読み聞かせる。
ねだられれば『子守唄』も歌う。
子供たちの寝顔を見ながら俺も寝る。
「とまあ、こんな感じにこの半年は過ぎたな」
「お疲れ様。やっぱりベビーシッターは大変だな」
まぁ、最初は慣れてなくて、大変だったのは否定しない。
だが違う!
俺の言いたいのはそこじゃないんだ!!
「どうだ!? 可愛いだろ!!?」
「……あぁ、可愛いな」
「うん。可愛い」
「……可愛い」
ふふん。どうだ!
ウチの子の可愛さがわかったようだな!
得意気に笑う俺。
コイツらは、優しい顔でそんな俺を見ていた。




