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第97話 「脆弱」

 ナディアが厨房に飛び込むと既に料理長についてフランとオレリーが料理の支度に奮闘していた。


「お、お早うございます! フラン姉、早いですね、オレリーも」


「ああ、ナディアお早う!」


「ナディア姉、お早う!」


 2人の手際を見ていた料理長が感心したように言う。


「オレリーさんはもうかなりの腕前ですね。後は色々なレパートリーをお覚えれば万全です」


「ね、ねぇ、私は?」


 フランが縋るような目で料理長を見詰めると、彼に向ってずいっと一歩踏み出した。

 その余りの迫力に思わず料理長が後退りする。


「フ、フランシスカ様もな、中々です。もう少し経験をお積みになれば……」


「そ、そう! 頑張れば良いのね!」


 その喜劇のような掛け合いに思わずナディアに笑いが込み上げた。

 しかし、決してナディアも人事ひとごとではないのだ。

 今更ながらそれに気付いた彼女も負けずに叫んだのである。


「す、済みませんっ! ボ、ボクにも教えてくださいっ!」


「わ、私もっ!」


 ナディアが思わず料理長の肩を掴み、フランも大きく叫ぶ。

 その2人の余りの迫力にとうとう料理長は涙目になっていたのであった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ドゥメール伯爵邸午前7時……


 今日は土曜日で学園の授業は休みだ。

 ただ業務が残っていたり、部活の担当である教師は出勤する。


 大広間に使用人達の手で朝食が運ばれて来た。

 オレリーが料理したスクランブルエッグが鮮やかな色をして目立つ。

 そして良く煮込んだ野菜スープ、焼きたての白パンが並べられて行く。

 ティーポットからは気持ちを落ち着かせる紅茶の良い香りが漂っていた。


 準備を手伝ったフラン、ナディア、オレリーは既に席についている。

 やがてアデライドとルウがやって来て座るが、その頃になってもジゼルは起きて来なかった。


「ジゼルったら、魔法武道部の鍛錬もあるのにしょうがないなぁ……でも彼女『寝起き』が悪いから」


 ナディアがしょうがないといった感じで呟く。

 それを聞いた雑役女中のロラが起しに行こうとして一瞬躊躇した。


「ああ、俺が行ってくるよ」


 ルウがそんなロラを見て助け舟を出した。

 

 以前もフランが寝坊した時に起した時もある。

 たまたま彼女の寝相が悪くてあられもない姿だった時もあったのだ。

 これがジゼルにとって縁もゆかりもない男だったら、許されないだろうがルウは婚約者である。

 アデライドの「お願い」のひと声でルウが起こしに行く事になったのだ。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 2階宿泊者用客間……


 とんとんとん!


 ルウはまずドアをノックした。

 返事は無い。


「お~い、ジゼル」


 ルウはドアのノブを回してみる。

 鍵は掛っておらずドアは静かに開いた。


「お~い、ジゼル」


 ルウはもう1回呼びかける。

 ジゼルはこちらに背中を向けて横になっている。

 しかしその背中が震えているのが見えた。


 彼女は起きている? 一体どうしたのであろうか?


 ルウは傍に行くとジゼルの頭を撫でた。

 美しい金髪が少し乱れた。


「ううう……」


 ジゼルはどうやら泣いているらしい。


「貴方のせいだ……」


 ジゼルはぽつりと呟いた。


「貴方を愛するようになってから……私はこんなに寂しがりになり、涙もろくなってしまった」


 ルウはそれに答える代わりにベッドに潜り込み、ジゼルを抱き締めてやった。

 ジゼルの髪を撫でながら「どうした」と聞くと彼女は昨夜の事を語り始めた。


「昨夜、ナディアが貴方の所に行った筈だ」


 ルウは素直に頷き「確かに来た」と囁いた。


「それは良い……私も気付いていたからな。彼女がもし『約束』を守らなかったとしても仕方が無いとフラン姉やオレリーとは話していた」


 『約束』とはルウに抱かれる順番という例の話であろう。

 しかしナディアの事を知っているフラン達は許容していたらしい。

 何せ、あんな体験をしたからなと、ジゼルはナディアの事を気遣っている。


「彼女はあれからとても『闇』に対して怯えるようになったのだ。その彼女の怯えを鎮めてやれるのは旦那様、貴方しか居ないからな」


 ジゼルは後ろからルウに抱き締められたまま、ふうと溜息を吐いた。


「だけど……昨夜、残された私もとても寂しく不安になったのだ。私も彼女程では無いにしろ悪魔に魅入られかけた女だと思ったらな。貴方が居なくて、とても怖かった」


 ジゼルは切々と訴える。

 しかし、ナディアがルウのもとに行っている時に自分が押しかける訳にはいかないと自制したようなのだ。


「済まない、旦那様。私は強がってはいるが、こんなに脆弱だ。情けなく弱い女なのだ。しかしお願いだ! これからは頑張るから嫌いにならないで貰えるか。私は旦那様に見捨てられたら、尼になって修道院に入るしかないと思っている……」


 ここでジゼルはルウの方を振り返った。

 彼女の目は泣き腫らして酷い事になっている。


「……オレリーから私だけ『あの事』を聞いた。私はオレリーが羨ましい……」


 ジゼルは寂しそうにぽつりと呟いた。

 そして勇気を振り絞るようにルウに迫ったのだ。


「わわわ、私の……む、胸もあの時……助けられた時、旦那様に揉みしだかれたのか? ど、どうだった、オレリーの胸と比べて?」


「ああ、お前の胸は柔らかかったぞ。だけどあの時はお前を助けようとして必死だったからな。心臓に魔力波オーラを送っただけで、揉みしだいたりなんかしていないさ」


 ルウはジゼルを安心させるように笑顔で返す。

 しかしその言葉は今のジゼルには逆効果であった。

 

「やだ!」


 ジゼルが先日、シンディと話した時に生徒会室でルウが出て行くのを止めたように……そう、子供のようにむずがる。


「わ、私もオ、オレリーのように……触ってくれ。お、お願いだ……」


 ルウは黙って頷くとオレリーにしたようにジゼルの乳房を優しく揉みしだく。


「あああ、本当だ! オ、オレリーの言う通りだ。愛する人に触られると、優しくされるとなんでこんなに気持ちが良いのだ」


 金色の綺麗な長い髪が大きくベッドの上に広がっている。

 ジゼルの目は閉じられ、彫の深い美しい造りの顔は快感にのけぞってルウに対して無防備に白い喉を見せていた。


「お前は俺の宝物だ、絶対に守ってやるからな」


 ルウの言葉を聞いたジゼルは「嬉しい!」と小さく叫ぶと確りと両手をルウの背中に回したのであった。

ここまでお読みいただきありがとうございます!

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