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第476話 「幕間 マノンとポレットの共同作戦」

 魔法女子学園研究棟図書室、火曜日午前11時……


 2年C組同様、2年A組も今週は進路相談を行っていた。

 場所はA組の担任であるクロティルド・ボードリエの研究室であり、クロティルドと副担任のアドリーヌ・コレットが対応している。


 やがて図書室で待っていたマノンの下にポレットが現れた。

 しかめっ面のマノンにポレットは軽く手を振る。

 たった今、ポレットの進路相談が終わったのだ。


 マノン・カルリエとポレット・ビュケは2年A組の親しい級友である。

 今日は2人続けて進路相談の予定を組んでいたのだ。


「どうでした、ポレットさん?」


 どうでした?とはクロティルド達のアドバイスに対してである。


「う~ん、残念ながら在り来りありきたりでしたね。予想通りと言うか……」


 肩をすくめたポレットは残念で堪らないという表情だ。


「私もですよ。これでは大事な将来を真剣に考えるなど出来ません」


 断言するマノンは辛そうに顔を歪める。

 そのマノンを見たポレットははたと手を叩いた。


「という事はやはり!」


「やはり言っていた通りですわ。私達にはルウ先生からのアドバイスが必要不可欠なのです」


 マノンはつい興奮して話していた事に気付いた。

 ゆっくりと左右を見渡して声を潜める。


 2人が話しているのは自分達の担任を軽視した発言だ。

 生徒が先生をないがしろにする、実際にこのような事を聞かれたら大変なのである。


「ポレットさん、ここは目立ちますわ。場所を変えましょう」


「はい」


 2人は人目を避けるように図書室を出たのであった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ――10分後


 初夏のセントヘレナは薄着をして丁度良いくらいの気候である。

 空は快晴で雲ひとつない。


 マノンとポレット2人はキャンパスの青々した芝生の上に座っている。

 一陣の風が爽やかに吹き抜けた。

 周囲に他の生徒は居らず、ここなら2人の『密談』を聞かれる心配も無い。

 マノンは得意げに語る。


「私は美しさだけは充分だと思っていますの」


「…………」


「まあポレットさんも良い線は行っていますわ」


「…………」


 きっぱりと言い切るマノンに対してポレットは無言であった。

 何とも言えない微妙な表情をしている。


「そもそも私はルウ先生に比肩する美と魔法の才を兼ね備えた超一流の魔法使いを目指しています……そしてゆくゆくは胸を張ってあの方の妻にして頂きますわ」


 ここでマノンは「ふう」と溜息を吐いた。

 そしてポレットから視線を外すと遠い眼差しをする。

 憂いを帯びた表情は完全に自分の世界に入り込んでいた。


「しかし残念ながら私はまだまだ発展途上なのです。多分、この学園の在籍中に願いが叶うのは難しいでしょう」


「マノンさん、という事は?」


 意外に冷静なマノン。

 ポレットは思わず彼女の決意の続きを聞きたいと問い掛ける。


「当然、学園卒業後はヴァレンタイン魔法大学には進学します。更に卒業と同時にルウ先生の家に住み込んで本格的な弟子入りとさせて頂きます」


 とうとう出た弟子入り発言。

 だがポレットはマノンに立ちはだかる大きな壁を知っている。


「で、でも……ルウ先生にはフランシスカ先生が居るし、噂では他にも奥様が……」


「構いません! 茨の道を切り開いてこそ、私の美しさと気高さが映えるというものですわ」


 マノンの覚悟は相当なようだ。

 ポレットは思わず感動してしまった。


「凄い! 凄過ぎる……」


 しかし感動するポレットに対してマノンも冷静に切り返した。


「ポレットさん、私はこのようにしっかりと決めていますが、貴女は一体どうなのですか?」


 ポレットはルウに自分の将来の夢を語っている。

 それは今でも全く揺るがないものであった。


「私は自分の将来の為には勿論ですが……励まして応援して頂いたルウ先生の為にも1人前の錬金術師になるのです」


「錬金術師になるだけ? その後は一体どうされるのですか、ポレットさん」


 夢に向って頑張ると言い張るポレットに対してマノンは未だ不満があるようだ。

 肝心なのは『なりたい職業』になるだけではないとマノンは言う。

 しかしポレットはそこまでのビジョンは持っていなかった。


「そんな先の事は未だ考えていないのですよ」


「未だ考えていないって……いけませんね。魔法女子学園を卒業したら貴女とルウ先生の関係は断ち切られてお終いですよ」


 マノンの鋭い指摘が飛ぶ。

 確かに……学園を卒業したら……ルウとの師弟関係は終わるだろう。


「関係は……断ち切られて……お終い」


 ポレットは力なくマノンの言葉を繰り返した。

 すかさずマノンが問い質す。


「良いのですか? それでも?」


「……い、嫌です! 関係が終わるなんて! 私もルウ先生が大好きなんです」 


 ポレットはぶるりと震えると大きな声で叫んだ。

 毎日の張りのある生活が終わってしまうなど彼女には想像も出来なかった。

 そんなポレットに対してマノンは『作戦』を提示する。


「うふふ、ポレットさん。では話は決まりましたね。私達が今、やるべきなのはルウ先生への熱愛宣言と彼から将来の約束を取り付ける事……午後の授業終了後にフランシスカ先生と別れて魔法武道部の指導に行かれる直前がチャンスですよ」


「チャンス……ですか!」


「そうです! この私達のたぎる思いをしっかりと聞いて頂きましょう!」


 腕組みをしたマノンはふつふつと燃える思いをルウにぶつけようと決意していた。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 午後2時……


 2人にとっては残念な事実が告げられている。


「ルウ先生が外出しているのですか!?」


「はい! 私が手懐てなずけた2年C組の子から聞き出したから間違いありません」


「困りましたね……マノンさん」


 憂うポレットに対して「未だチャンスはある」とマノンは力付ける。

 そして彼女なりの計算を説明したのだ。


「絶対に魔法武道部の指導が始まる時間までには戻って来ますわ。例のロドニアとの対抗戦が迫っていますから……その対抗戦も私は見に行きたいのに、部外者は駄目とは何て学園の了見は狭いのでしょう!」


 最後に愚痴るマノンは思い出したくも無いというように口を尖らせた。


「ではポレットさん、正門の近くで魔導書でも読みながら先生をお待ちしましょうか」


「そうですね、待ちましょう!」


 ――30分後


「ああっ、あれは!?」


 マノンとポレットが目撃したのはルウがセリア・ビゴーと仲良く並んで戻って来た姿である。

 2人の意外な仲睦まじい?姿にマノンは苛立った。


「うむむむむ! よりによって、何故あの娘が!? 私は今この時ほど2年C組の生徒ではないのを後悔した事はありませんわ!」


「確か、あの子……セリア・ビゴーさん。ちょっと可愛いけど……所詮普通の子ですよね」


「そうですよ! あの好待遇は2年C組所属だからとしか思えませんわ! やはり父に頼んで今からでもC組への編入を頼んで貰いましょうかね」


「ああ、別れましたね。親しそうに手を振っています。ルウ先生は研究室の方に向っていますよ」


「今こそ! チャ、チャンスですよ。行きましょう、ポレットさん!」


「あ、待って下さい! マノンさん!」


 ――5分後

 

 マノンとポレットはルウの研究室の前に立っている。


 ごくり!

 2人のうち、どちらかの喉が音を立ててなった。

 マノンが声を潜めてポレットへそっと囁く。


「ここは反則ですが……ノックしないで開けますわよ。このイベントは私達からルウ先生へのサプライズですから」


 そして……マノンはいきなりドアを開けた!

  

「はいっ! え!?」


「あら、もう1度相談に乗って欲しいの? 将来の事を真剣に考えるのは大事な事です。でもノック無しはいけませんね」


 目の前には信じられない光景が広がっていた。

 マノンとポレットには、いつの間にかルウの魔法が発動していたらしい。


 2人を出迎えたのは2年A組担任のクロティルドであった。

ここまでお読み頂きありがとうございます!

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