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第440話 「対抗戦事前打合せ②」

 フランの司会で対抗戦の打ち合せは続いている。


「スケジュール表を見ながら当日の予定を良く確認して下さい。集合から解散まで時間厳守です。両チームと当学園の魔法武道部は王国で馬車を用意しましたのでそれで『狩場の森』まで移動します。護衛の騎士隊は騎馬でそれを警護します。続いて『狩場の森』について説明します」


 フランに促されて登場したのが『狩場の森』の管理人であるイベールだ。


「儂が『狩場の森』の管理人であるイベールじゃ。それでは『狩場の森』の概要と仕組みについて説明する。当日は簡単な話しかしないから、この説明で把握して欲しい」


 ルウはイベールの説明を聞いて、以前ジゼル達と戦った事を思い出す。

 あの件が無ければジゼルもナディアもルウの妻にはならなかったかもしれない。


「長く掛かるが、我慢するように……」とイベールは前置きした上で説明を始めた。


「この狩場の森は王都セントヘレナの近郊に位置し、生徒が魔法の発動及び効果を検証する為にヴァレンタイン王国騎士士官学校と同魔法男子、同女子両学園が共同所有で買い取り、建設した物である。中でも騎士志望者の実戦研修を行う為の場所と位置付けられている。森の大きさはこの屋内闘技場の約20個分近くなる広大な物じゃ」


 イベールはコホンと咳払いし、説明を続ける。


「森の周囲には高い外壁と強力な魔法障壁を巡らし、外に害が及ばないようにした上で中に王国軍や冒険者が生け捕りにした魔物を人為的に放っておる。森の中には高地、砂地、沼そして村や古代遺跡が配されており、魔物と戦う上で実戦に即したものとなり得る」


 イベールの説明で両チームともより戦闘モードに入って来たのであろう。

 全員から放射される魔法使い特有の魔力波で闘技場が息苦しくなるくらいだ。


「魔物の種類もインプ、ゴブリン、オーク、オーガなど様々で多士済々じゃ。最近は大狼が加わり、更にバラエティに富むようになった。これらの魔物は基本的には参加者が致命傷を受けないように爪と牙を抜き、個々の魔物に束縛の魔法を掛けて膂力もだいぶ抑えておる」


 普段魔物と戦い慣れているラウラやロドニアの女性騎士達はそれを聞いても余裕の表情である。


「しかし、たまにじゃがイレギュラーとして突然変異の上位種なども現れる事がある。こういったイレギュラーや森の中で自然繁殖した個体は自然のものと差が無く強力なので注意されたい」


 ここでイベールはひとつの腕輪を持ち出して上に掲げた。

 出場者の視線が集中する。


「試合の参加者は全員この『魔力の腕輪』を渡され、身に付ける事になる。ちなみに腕輪の能力じゃが、まず採点機能じゃ。先程話した魔物は強さによってそれぞれの獲得ポイントが決まっており、倒すとポイントが腕輪に記録される。不正が行われないようにこの腕輪は管理者以外には干渉出来ないし、特定の魔法以外では外せないようになっている。次に位置確認機能じゃ。索敵の魔法の応用でこの腕輪により参加者の位置確認も容易に出来るというわけじゃ――以上」


 イベールが一礼をして引っ込むと、改めてフランが登場して試合のルールを説明した。

 これも以前ルウとジゼルが競った時と殆ど同じである。


「競技は前半、後半制で昼を挟んで午後2時30分までとなります。このポイント制で高得点を上げたチームの勝ちとなりますが、ちなみに出場者全員のポイントを合わせた数字となります。注意して頂きたいのは魔力が尽きたり、負傷して競技の参加継続不可能となった場合はその場でリタイア扱いとなる事です。こうした判断は立会人が行なう事になっています」


 立会人が魔法武道部がシンディ・ライアン、ロドニア側がルウと発表された時にはロドニア側の一部の者からは失望の溜息が聞こえた。

 立会人が『リタイア』の権限を持って居るので、ヴァレンタイン側の人間であるルウであれば自国に有利な行為をされるのではと、疑ったのである。


 しかしラウラやマリアナは最早ルウという人間を良く理解していたし、リーリャが参加する事もあり、渡りに船だと考えていた。


 この場合の立会人とは参加者の安全を守ると共に不正を行なわない監視役も兼ねているのだが、ルウはそのような小賢しい事をしない事は分かっているし、彼の強さならば万が一の場合にこれほど心強い味方は居ないのだから。


 なかでもルウが付き添ってくれると知ったリーリャの喜びようは半端ではない。

 さすがに歓喜の大声を出すのは我慢していたが、ずっと拳を握り締めて喜びに浸っていたのである。


「この対抗戦は怪我及びそれ以上のリスクを伴う為、立会人はそれなりの実力を持った魔法使いが立ち会います。ですので両名とも万が一の時には治癒の対応が可能な回復魔法が行使出来る者です。更に完璧を期す為に狩場の森担当の治癒専門の神官も待機して貰います――そしてここで当学園の教師ルウ・ブランデルからひとつ提案がありましたのでぜひお聞き下さい」


 ここでルウが出てきてフランの傍らに並んだ。


「この狩場の森は良く出来た施設だが――唯一興醒めする部分がある。それはポイント制だ。ポイント制自体は面白く分かり易いシステムだという事は万人が認めるが、どうしても倒す魔物が高得点のものに偏りがちだ。つまりオーガばっかりが狙われる事になる。これは自分が行った勝負でそうなったから尚更実感した」


 ルウの話には会場の皆が納得している。

 ジゼルも同意という表情で頷いた。


「そこでだ! シークレットポイントの魔物を前半、後半でそれぞれ1種ずつ設定する。通常は低得点の魔物に2倍もしくは3倍のポイントが付く事になる」


 ルウの提案に会場がどよめいた。


 これで勝負の大勢が最後まで読めなくなるからである。

 例えば1頭5ポイントのオークが該当すれば10~15ポイントとなり、オーガ1頭か、それ以上の得点となるし、比較的倒し易く大量に繁殖しているゴブリンでも数を倒す事で馬鹿にならない得点をあげられる可能性があるのだ。


「前半、後半分の抽選は試合開始前に各チームのキャプテンが行い、該当する魔物は試合中は発表されない。最後の集計の際に明かされて通常のポイントに加算される――以上だ」


 ルウが一礼して引き下がると、フランが説明を締めくくりに入る。


「午後3時に結果を発表して表彰式を行い、ヴァレンタイン王国から勝利チームと個人成績優秀者を表彰して賞品を授与します。なお昼食は軽食と飲み物を用意しておきますので持参の必要はありません。表彰式を手早く終了させ、午後3時30分には『狩場の森』を出発して午後5時に学園にて解散。ロドニア王国チームは騎士隊がホテルまで送ります。……説明は以上ですが、何か質問があればどうぞ」


 フランの問い掛けに数人が手を挙げ、質疑応答が行われた。

 質問したものは納得の行く回答を貰ったと見えて満足そうな表情で引き下がったのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 打ち合せが終わり、各チームは身支度を整えて訓練の準備をして行く。

 ロドニア王国チームは屋外闘技場、ヴァレンタイン王国の魔法武道部はそのまま屋内闘技場内にある部室に入る。

 だが相変わらずシモーヌは元気が無かった。

 いくら話し掛けても無反応なのである。

 幼馴染で親友でもあるジゼルは心配で堪らない。


「おい、シモーヌったら! これから大事な訓練だぞ」


 声を掛けてもシモーヌは反応しない。

 ジェロームと会ってからの彼女はまるで魂の抜け殻である。

 いつもの凛としたシモーヌとはまるっきり違うのだ。

 原因が分かっているだけにジゼルも、もどかしい。


「御免……ジゼル……でも自分でも、どうしようもないんだ」


 ぽつりと呟くシモーヌにジゼルはきっぱりと言い放つ。


「うむ! では兄上にお前の気持ちを伝えて来ようか?」


「え!?」


 ジゼルの提案にシモーヌの顔色が変わった。


「え? じゃない! 兄上にお前の気持ちを伝えて来ようかと、言ったのだ」


「ややや、やめてくれぇ!」


 シモーヌの大声に部室で着替えをしていた部員達が一斉に振り返った。

 近寄って心配そうに声を掛けて来たのはルウのクラスの2年C組の 生徒、ミシェル・エストレだ。


「部長? 副部長……どうかしたのですか?」


「いや……何でもない、内輪話だ」


 ジゼルの相手に有無を言わせない言い訳。

 怪訝そうな顔で去って行くミシェルを横目で見た後、ジゼルはそっとシモーヌに囁いた。


「シモーヌ、今夜は家へ来い……良いな?」


「えええ? カルパンティエ家へ……い、行くのか?」


「馬鹿! 私の実家じゃあない。旦那様と暮らしている家だ!」


「…………」


「約束だぞ……今夜、お前の悩みの相談に乗るから、まず訓練に集中しろ」


 ジゼルは真剣な顔でシモーヌを見詰めた後、ほうと溜息をはいたのであった。

ここまでお読み頂きありがとうございます!

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