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第412話 「フルールの素質」

「イネス! フルール!」


 凛とした声が背後から1年生の2人に響く。


「はっ、はいっ!」「…………」


 大きな返事をして振り返るイネスと対照的に、返事をしようとするのだが口篭って無言で振向いてしまうフルール……

 そこには咲き誇る大輪の薔薇のような笑顔をしたジゼルが、これまた微笑んだシモーヌと並んで立っていた。


「2人とも一緒に行こうか、……部室の風呂で汗を流したら、話がある」


「はい!」


「…………」


 ジゼルの言葉に大きな返事をしたイネスに対してフルールは未だ返事が出来ないでいた。

 彼女はジゼルの顔を見詰めながら思わず考え事をしていたのだ。

 それは他愛も無い事である。


 ジゼル部長の声って、入部当初から比べると変わったなぁ……

 やたら高飛車な感じから、張りがありつつ落ち着いた優しい声になったもの。

 それに最近、また強くなった事を感じるし……


「フルール!」


「え!?」


 強く脇腹を突かれながら名前を呼ばれたフルールが我に返ると渋い表情のイネスが彼女を見詰めていた。


「不味いよ、フルール……返事くらいしないと」


 イネスにそっと囁かれたフルールは慌てて居住まいを正すと直立不動となる。


「し、失礼しました! 部長!」


「ふふふ、大丈夫? じゃあ2人とも行きましょう」


 以前のジゼルならここでフルールを大きな声で叱責していた筈であった。

 しかしフルールの出す魔力波オーラが彼女の悪気の無さを告げている。

 まだまだ奥義の第一歩とはいえ、ジゼルが体得しつつある魔導拳の魔力波読みはこのような場合でも威力を発揮していたのであった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


魔法女子学園魔法武道部部室内部長室……


 魔法武道部の中には10畳程度の部長室が設けられている。

 当然、部屋の主はジゼルであり、今ここにはロドニア対抗戦で選ばれたメンバーが入浴の後、事前打合せの為に集められていたのだ。


 ジゼル・カルパンティエ、シモーヌ・カンテ、ミシェル・エストレ、オルガ・フラヴィニー、イネス・バイヤール、デジレ・バタイユ、フルール・アズナヴール


 以上の7名である。


 部長のジゼルは全員を見渡すと厳粛な表情で言い放つ。


「私達は魔法武道部の代表として選ばれたが、選ばれなかった者の事も考えなくてはならない」


 今回は3年生が2人、2年生が1人選抜から洩れている。

 今迄の年功序列の方針からすると彼女達の気持ちも慮っての事であろう。


「皆に改めて伝えておく。『驕り高ぶらず常に謙虚であれ』この言葉をいつも全員がこころに持とう! そして更なる高みを目指す努力を継続する事を心掛けて試合に勝利する事を目指すのだ」


 この後、ジゼルの話は対抗戦の日程の再確認と段取りと続き、そして『狩場の森』の地図と出現する魔物の資料が各自に配布されたのである。


 更に副部長のシモーヌがジゼルの話を簡単に補足する形で打ち合せは終わった。

 皆が退出する中でフルールが呼び止められる。


「フルール、悪いがお前だけ残ってくれないか?」


 呼び止めたのはジゼルであった。


「は、はい!」


 不安げな顔で返事をするフルールをイネスがちらっと見て出て行った。

 残ったのはジゼル、シモーヌとフルールの3人である。


「フルール、お前は何故自分が選ばれたか分からないという表情だな」


「は、はい」


「実を言うと私も最初は吃驚したが、よくよく考えれば今は納得の人選だと思っている。実はお前をぜひにと推したのはルウ先生なのさ」


 ジゼルの言葉に同意するようにシモーヌが頷いた。


「納得の人選? ルウ先生が……推薦して下さったのですか?」


 未だなお分からないといった言葉を返すフルールにジゼルはにっこりと笑った。


「そうだよ、フルール。お前の選ばれた理由を説明しようか。少し長くなるがな」


 ジゼルはコホンと咳払いをすると話を続けた。


「元々魔法使いというのは騎士とはまた違う意味で自己顕示欲の塊だ。自らの力をアピールする事により大きな喜びを感じるのだ」


「…………」


「かくいう私やシモーヌもそうだ。それにこの学園の生徒どころか、教師――いやこの世界の魔法使い殆どがそうだろう」


「…………」


「だがお前は違う」


「…………」


「お前は常に冷静で観察力、分析力に著しく優れている。いわば物事全体を客観的に見渡す事が出来るのさ。練習を見て来て分かったが、まず自分を含めたクランの戦力を良く知り、相手の弱点を知り、その上で1番ベストな戦い方をその都度クランリーダーに提言している」


 ジゼルは部長として部員各個の事もしっかりと把握しているらしい。

 それはフルールも例外ではなかったのだ。

 だがフルールはあくまでも控えめだ。


「そんな……私はただ思った事を言っているだけで……」


 しかしジゼルは恐るべき数字の裏付けを口にしたのである。


「謙遜するな……現に模擬練習とはいえお前が加入したクランの勝率は7割を楽に超える。これはとんでもない数字だ。毎回組む相手が違うのだからな」


「たまたまです」


「分かった、では質問を変えよう。部員達がこの私、ジゼルが変わったと噂しているようだが……お前はどう変わったと思う。遠慮無く言ってくれ。絶対に怒らないから」


「…………」


「大丈夫! ジゼルが怒ったら私が止めてやるし、責任も取るぞ」


 シモーヌもにっこりと笑って頷いたのでフルールはやっと重い口を開き始めた。

 ジゼルには褒められたが、だからといってフルールは元々雄弁なタイプではないのである。 


「ジゼル部長は以前に比べものにならないくらい身体の切れが増しています。捌きが抜群に良いのです。まるで相手の動きを予測しているようです」


「ほう!」


「逆に部長の次の動きが予測しにくくなっています。次にどのような攻撃を仕掛けて来るか予測がつかないのです……予備動作も小さくなっていますので」


 フルールの言葉にジゼルとシモーヌは感心したように頷いている。


「ええと……私の感覚的なものですが魔力の質も上がっているような気がします。今迄と同じ魔法でも威力が違うし、発動時間も早くなっていますね」


「成る程! 流石だな。ただ部員の言っている内容とはだいぶ違うようだ。そっちを言ってみてくれ」


「へ!? あ、あのう……」


 真面目に答えるフルールにジゼルは悪戯っぽく笑った。

 このような屈託の無い表情もフルールが入部当初のジゼルにはあまり無かったのだ。


「あううう……本当に言って良いのですか?」


「構わない!」


 ジゼルの力強い言葉に後押しされてフルールは話を再開する。


「部長は顔付きが優しくなり、所作が柔らかくなって来ました。戦う時の雄々しさは変わらないのですが、普段はたおやかな人というイメージです。だから部員は……」


「部員は?」


 思わず聞き直すジゼル。


「ルウ先生とお付き合いが凄く上手くいっているのか? それとも……ご結婚されたのかと」


「あははははは!」


 それを聞いたシモーヌが大声で笑い出した。

 ナディアより付き合いの長い彼女にはジゼルはルウと結婚した事を伝えていたのである。

 ここでジゼルもフルールを押す事を決めたようだ。


「ああ、お前の言う通りさ。未だ内緒にして欲しいが、私はルウ先生と結婚した。ふふふ、ただ私のプライベートの件はおまけみたいなものだが、その他の指摘は素晴らしいぞ。先生達同様に私とシモーヌもお前の選抜に文句が無い事を宣言しよう。フルール、自信を持て!」


「ははは、はいっ!」


 相変わらず緊張気味なフルールを励ましながらジゼルはルウの眼力と判断に対して尊敬の気持ちが湧き上がって来るのであった。

ここまでお読み頂きありがとうございます!


作者が体調不良の為、しばらく毎日更新が出来なくなりました。

よって不定期更新とさせて頂きます。 

読者様にはご迷惑をお掛けします。

誠に申し訳ありませんが、ご了解くださいませ。

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