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第409話 「優しい母娘」

 魔法女子学園実習棟、月曜日午後1時少し前……


 今日の午後1時からのルウの授業は魔道攻撃術B組だ。

 この時期の授業は夏季休暇の前で教師、生徒共に熱が入る時期でもある


 この長い休みを挟んで生徒達に有意義な課題を出し、成長を促して将来への土台を作ってやるのだ。

 生徒のやる気をどう起させるのかは勿論、課題の具体的な内容などで休み明けの結果は大きく左右されるので教師の手腕も大きく問われるのである。


 ここでルウが、まず継続して行うように伝えたのは地道だが呼吸法の継続だ。

 加えて無理のない体力アップの基礎訓練と身体強化の魔法をセットで、習得するのが不可欠だと強調する。

 そこまで出来て、やっとこの授業の主役である攻撃魔法の訓練に進める事が認められるのだ。

 ちなみに攻撃魔法は各自の属性を生かせるもののうち、いくつかの形態のバリエーションで習得するように指示が出た。

 2年生の課題で攻撃魔法をクリアしているものはクラスの約半分だが、さすがに身体強化の魔法を習得している者は居ないのでじっくりと課題をこなす事になるのだ。


 それ以外にもルウは防御魔法の重要性も説いている。

 ただこれらの課題をクリアした上で防御魔法もいうとそんなに余裕のある者は居ないのでここまで訓練をする者は稀だ。


 マノン・カルリエは相変わらず熱心にメモを取っている。

 彼女に触発されたのが理由だけでは無いだろうが、最近はオレリー、ジョゼフィーヌ、リーリャも学ぶ事に貪欲だ。

 以前より頻繁に質問をして来る事も多くなったのである。


 午後2時からは上級召喚術A組の授業だ。

 こちらもルウは方針を変えない。

 まずは呼吸法の継続をしっかりやる事を強調。

 そして出来るだけ、使い魔とコミュニケーションを取る事を勧めたのである。


 アンノウンを召喚したエステル・ルジュヌやルイーズ・ベルチェに対しては『仮初の人型』で徹底的に練習する事を指示した。

 だがここでちょっとした問題が起こる。

 夏季休暇が始まったら学園の備品は使用出来ない。

 2人には『仮初の人型』を個人的に購入する必要がある事を伝えたのである。

 ペンタグラムと同様に教材を買わなければならないが、自分の将来への投資としては仕方が無い事だ。

 エステルやルイーズ自身も異存は無い。

 

 ただ……


「先生! 近日中に王都で買い物に付き合って下さい」「わ、私も!」


 アンノウンの召喚者同士で最近、とても仲良くなったエステルとルイーズがほぼ同時に叫んだ。

 2人の買い物同行依頼の本音は『仮初の人型』を買う際のルウのアドバイスが欲しい事らしい。

 実は学園の購買に『仮初の人型』は販売していないのである。


 最近、エステルとルイーズは一緒に行動する事が多くなっている。

 以前、ルイーズと仲が良かったアンナは余り一緒に居ない。

 授業が終わると何故か直ぐに下校してしまうからだ。

 

「おう! 後で相談しよう」


 ただ、ルウは曖昧な返事をした。

 

 他の生徒との兼ね合いもあるし、今週は例の対抗戦の為、魔法武道部に注力しなければならないので直ぐに買い物に行く時間が取れないのだ。

 かと言って2人には間を置かず何としてやりたいという気持ちも強い。

 

 もし買い物に行くなら次の日曜日しかないのだが、それは2人にとっていくら何でも遅過ぎるであろう。

 ただ、買い物に関してルウは良い方法を思いついたので、一応アデライドとフランに相談するつもりにした。


 ところで……クラスの中でも必死なのが使い魔でさえ召喚していない生徒である。

 いわゆる2年生の課題をクリアしていない生徒だ。

 召喚魔法が全く駄目ともなると、単なる知識として召喚魔法を学ぶしかない。

 これは召喚魔法以外でも全く同じだ。

 単位自体は最低限の成績で取得出来るが、専門の魔法の発動が出来ない魔法使いは評価自体が下がってしまう。

 そうなると意味が無いので大抵の生徒は他の専門科目のクラスに特例措置で転籍をするか、既に受講している他の専門科目に付随する資格取得等へ切り替えて注力するのだ。

 

 魔法使いへの道とは才能ありきの、かくも厳しいものなのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 魔法女子学園校長室前、午後3時15分……


「お~い、フラン」


「ああ、ドアは開いているわ、入って!」


 夫であるルウの声を聞くと自分でも分かるくらい嬉しい声を出すとフランは自覚している。

 多分、他の人にもまる分かりだと思う時もあるが、さして気にもしていないので直ぐ忘れてしまうのだ。


 ルウはドアを開けて部屋に入るといつものように穏やかな表情を向けた。


「どうしたの?」


 フランが聞くとルウはゆっくりとドアを閉めてから話を切り出した。


「ああ、この学園の購買部ってどうかと思ってな。権利関係とか……」


「購買部? 権利関係?」


「単刀直入に言うと、購買で扱っていない商品の出張販売を大至急でキングスレー商会に頼みたいんだけど……」


「扱っていない商品?」


「ああ、実は『仮初の人型』なんだ」


 ルウがそこまで言うとフランも漸く話が見えてきたようだ。

 魔法女子学園の購買部で購入出来ない商品の手配が必要となったようである。

 彼が困った顔をしているのは多分、生徒から急ぎ買い物の同行を頼まれたのであろう。

 事情を知ったフランの表情も少し曇る。


「厳密に言えばキングスレー商会だけだと『癒着』とか言われて結構問題になるわね。あの商会は元々、ドゥメール家の御用達だし……どうしようかしらね」


「そうかぁ、困ったな」


 ルウが困った顔をするのは珍しいのでフランは少し可笑しくなる。

 実は方法はあるからだ。

 だから意地悪もここまにしようと思って、フランは直ぐに助け舟を出した。


「じゃあ私達と関係の無い、別の商会を入れれば良いのよ、確か決まりがある筈よ」


「別の商会か……助かるよ! どちらにしてもアデライド母さんに報告しがてら相談しよう」


「うふふ、そうね」


 悩みが解消し、ルウの顔が子供のように笑顔になったのでフランは笑いを堪えたのであった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 魔法女子学園理事長室、午後3時45分……


「あははは、私も見たかったわ。ルウの困った顔」


 破顔したアデライドに頭を掻いて苦笑するルウ。

 しかし次に出たアデライドの言葉にルウはほうと息を吐き、安堵したのである。


「大丈夫よ、そういう場合って結構あってね。フランの言う通りに、ちゃんと学園の規則で決まっているから」


「規則……あるんだ」


「そう、あるのよ」


 アデライドの話ではこのような場合は3つ以上、商会や店を呼んで様々な人の目がある学園のオープンな場所で販売を実施するのだという。

 3つのうち、ひとつに限っては気心の知れた店で構わないらしい。

 今回で言えばキングスレー商会である。


「まあ、キングスレー商会は参加って事で……了解したわよ。後の段取りは商業ギルドのマチルドへ丸投げなの。彼女、いつも問題が起きないようにしっかりとやってくれるから」


「ありがとう! アデライド母さん、そしてフラン」


「「どう致しまして!」」


 さすがは母娘であった。


 そっくりな声が同じタイミングでルウに返されるのをルウは微笑んで受け止めたのであった。

ここまでお読み頂きありがとうございます!

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