第378話 「クロティルドとの約束」
魔法女子学園本校舎地下1階学生食堂、水曜日午後12時30分……
今は生徒にとっては午前の授業が終わってホッと一息つける昼休みの一時だ。
主に昼食を摂る為の時間であるが、今日のように天気が良い場合はキャンパスの芝生やベンチで、または教室で購買で買ったパンとミルクなどの軽食や自宅から持参した弁当を食べる生徒も居る。
片や魔法女子学園本校舎地下にある、学生食堂も日々変わるランチプレート式のメニューと平均小銀貨5枚※という手頃な価格で生徒達には人気が高い。
※約500円くらいです。
学生食堂は本来、名前通り生徒の為の食堂である。
昼食は勿論、朝と夜も寮生の為に食事を提供しているからだ。
但し教師達も食事を摂る専用の施設が学園内に無い為に、利用を認められており教師と生徒が混在して食事を摂る光景は日常茶飯事である。
午前10時からの魔法攻撃術B組の授業、そして午前11時からの魔法攻撃術C組の授業が終わったルウは副担当であるフラン、カサンドラの3人一緒で食事を摂っていた。
その傍らでオレリー、ジョゼフィーヌ、リーリャというルウの妻である2年C組の3人、そして魔法攻撃術C組の授業を受講したポレット・ビュケと、ルウを目敏く見つけたマノン・カルリエいう2年A組の2人もそれぞれのグループで話しながら食事を摂っている。
そんな中、ルウの食べ方がいつもより早い。
「どうしたのですか?」
思わず聞くフランに対してルウの答えは簡単明瞭であった。
「ああ、次の第4時限目は俺は『空き』だから、早めに顔を出してクロティルド先生へ彼女の担当する魔法防御術の授業の見学を頼もうと思ってな」
「うふふ、それって呼吸法と同じで基本に返るって事ね。ぜひ私も見習いたいわ。でも残念な事に次の時間は私は担当の授業が入っているから」
フランは苦笑して、カサンドラも残念そうに頷いた。
そんな教師達の会話を傍らで聞いていたポレット。
そういえば……
ルウが先日、自分が受講しているケルトゥリ教頭担当の錬金術の授業を見学していたのをポレットは思い出したのだ。
まず自分の事が気になって見に来たという、ルウが言った授業の見学理由が彼女にはとても嬉しかった。
またルウ自身が新米の教師なので他の先生の授業方法を学んで参考にしたいという2つ目の理由も聞いている。
今回は後者の理由で見学に行くというのだろう。
いつも前向きなルウ先生らしいな……
思わずポレットの顔が綻ぶ。
そして腹を空かした子供のように急いで食べる彼の姿を見て、年上の男性なのに、つい可愛いと思ってしまうのであった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
魔法女子学園実習棟、水曜日午後12時45分……
午後1時からは、この教室では魔法防御術B組の授業が行われる。
未だ教師も生徒も誰も居なかったがルウはまた最後方の席に座ってクロティルド達を待っていた。
まもなく担当のクロティルド・ボードリエと副担当のオルスタンス・アシャールが連れ立って教室に現れる。
「あら? どうしたの、ルウ先生」
クロティルドは意外そうな表情だ。
「いや、クロティルド先生の授業を見学させて貰いたいと思ったんだ、どうだろうか?」
「ふ~ん……私から見て貴方はとんでもない天才魔法使いだと思うのだけれど。そんな貴方が生徒達が受ける授業なんか見て一体役に立つの?」
半信半疑なクロティルドにルウは苦笑する。
そして先日ケルトゥリに返したのと同じ答えを伝えたのだ。
「いや、俺は天才なんかじゃない。先日もケルトゥリ教頭にも頼んで錬金術の授業を見学させて貰ったんだが、俺は教師になってたった3ヶ月だ。人に教えるなんて一体どうすれば良いのかという試行錯誤の繰り返しさ。今の所、アールヴの方法を取り入れたり、自己流で進めているけど諸先輩のやり方を見て良い所を見つけて取り入れて行きたいんだ」
ルウの答えを聞いたクロティルドは複雑な表情だ。
「ふふふ、優等生なのね……でも元神官の私がそんな嫌味な事は言えないし……貴方が前向きに学ぼうとする姿勢は素晴らしいと思う。まあ良いわ。その代わり貴方の魔法も私に手解きしてくれる?」
クロティルドは元々ルウが話した付呪の腕輪に端を発してその後のルウの様々な噂を聞き、興味津々だったらしく、最後は渡りに船といったような表情だ。
「良いですよ、俺でよければ」
「絶対約束よ。じゃあ思う存分見学していって! さあオルスタンス先生、授業の準備をしましょう」
「は、はい!」
2人の会話を聞いて後ろで呆気に取られていたオルスタンスはクロティルドに声を掛けられて慌てて返事をする。
やがて生徒達が教室に入って来ると、やはりルウが居る事に吃驚したが、クロティルドの説明で静かになった。
――午後1時
魔法防御術B組の授業が始まった。
ルウは錬金術の授業の時と同様にそのまま最後方の席に座っている。
そもそも魔法防御術とは文字通り防御・回復を中心としたの『防御魔法』の範疇に入る魔法の総称だ。
ヴァレンタイン魔法女子学園で教授する『防御魔法』はその性格上、特に創世神と創世神に仕える使徒達の加護の力を借り受けるものが中心となる。
その為に神と使徒達の偉大なる力を称える言霊を織り込んだ魔法式の習得が主なものだ。
様々な防御魔法を統合した魔法防御術は女性魔法使いが戦う前に身を守るという必要性と、大きな需要のある回復魔法が授業内容に含まれる為にいつも生徒達に安定した人気のある専門科目なのである。
また傷ついた人を癒すというイメージも自分が第三者から優しい女性に見られる事に繋がり、生徒達には大きなポイントだという。
今回の授業は2回目であり、まず1回目の授業のお浚いから入っていた。
教室にクロティルドの声が響き渡る。
「魔法防御術を大別する4種類の魔法は前回の授業で覚えましたね? では全て答えて下さい」
クロティルドが指名するとある生徒が立ち上がり、後ろを振り返ると一瞬ルウの方をじっと見た後にはきはきと答える。
「はい! 守護、回復、支援、そして対不死者の4つです」
答えた生徒に対してクロティルドは更に詳しい説明を求めた。
「はい! 守護は個人に対する身体強化、魔法障壁、魔法結界などです。回復は治癒と祝福、支援は複数から大多数の者を守護する魔法障壁、魔法結界、そして対不死者は解呪と葬送の魔法です」
「宜しい! 良く出来ました!」
クロティルドに褒められた生徒は得意そうな表情で再度ルウを見詰めるとゆっくりと着席した。
――――魔法防御術の授業は続いていたが、ルウはクロティルド等に会釈すると時間半ばで教室を退出した。
先程はきはきと答えた生徒が時折ルウを見るので自分が居ると彼女が授業に集中出来ないと判断した為である。
教室を出たルウは歩きながら彼女の名を思い出す。
確か彼女は……2年B組の委員長ステファニー・ブレヴァル。
ヴァレンタイン王国神務省の長、アンドレ・ブレヴァル枢機卿の孫娘である。
しかしステファニーは2年B組の生徒であり、ルウの専門科目も1つとして受講していない。
普段接点の無いルウには彼女が元気の良い前向きな娘というくらいしか印象はなかったのであった。
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