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第364話 「カサンドラの挑戦」

「授業が終わったばかりなのに……この僅かな時間で生徒達の適性を見極めてもう班分けをしたのか?」


 ルウの話にカサンドラは驚きを隠せない。

 それに加えてフランとアドリーヌの話もカサンドラを更に驚かせた。


「うふふ、それも本日彼が行った他の2つの授業の班分けも一気にやったみたいよ」


「私達も今来て、吃驚した所です」


 2人が少し呆れたような感じで笑うとカサンドラはますます焦ったのだ。


「う、嘘だ!? 信じられん! 良く見せてくれ!」


 ルウが差し出す上級召喚術A組の生徒の資料をカサンドラはひったくるようにして受け取ると食い入るように目を通し始める。

 その姉の姿をルネも、じっと見詰めていた。


 それから20分も経っただろうか?

 どうやら確認は済んだようだ。

 

「ううう、か、完璧だ! 私が文句をつける所が無いっ!」


 カサンドラは唸りながら、資料をルウに返そうとする。


「別に後でゆっくり見ても良い。明日までに意見を伝えてくれれば検討するぞ」


 ルウは立ち上がると皆で外に出ようというジェスチャーをした。

 これから魔法武道部の指導があるからだ。

 カサンドラも早速それに反応した。

 アデライドに命じられたコーチの仕事をしなくてはならない。


「魔法武道部の指導に行くのか?」

 

「ああ、ちょっと遅れてしまいそうだがな」


 部屋の中の時計を見るともう既に魔法武道部の練習開始時間である午後3時を過ぎていたのだ。

 それを見たカサンドラの顔から血の気が引いた。

 アデライドから指示が出て即遅刻とは……これは厳罰を喰らうのは必死であろう。


「不味い! 初日から遅刻とは!」


 思わず口に出し、焦るカサンドラではあったが、ルウは穏やかな表情のまま言う。

 どうやらシンディに口利きをしてくれる様子である。


「カサンドラ先生は俺の授業の手伝いをして遅れたとシンディ先生には伝えるから大丈夫さ。但し今回だけはな」


「おお、ありがとう! 恩に着る」


 思わず両手を合わせて礼を言うカサンドラにルウは革鎧に着替えて来るように促した。


「ははっ、良いさ。俺はロッカールームに行く。カサンドラ先生も着替えて来いよ」


「了解!」


「たまには私も魔法武道部の練習を見学したいけど良いかしら?」


「わ、私も!」


 フランが笑顔で見学を頼んだのでルウは問題無いと了解する。

 そしてアドリーヌもルウと一緒に行きたいようなのでこれもOKを出す。

 以前と違ってその辺の権限も与えられ、顧問のシンディ・ライアンはルウに様々な魔法武道部の案件を判断する事を許可していた。

 ここで意外だったのはアドリーヌに続いてルネも同行を申し出た事である。


「私も出来れば同行したい。ルウ先生がどのような指導をするのか興味がある」


「じゃあ、3人共屋内闘技場に行って先に見学していてくれ。ジゼル達はもう練習を始めている筈さ」


「分った……」


 こうして魔法武道部の指導陣にカサンドラがコーチとして加わり、今日はフラン達見学者も居て、魔法女子学園の屋内闘技場はいつもと違う雰囲気になりそうであった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 魔法女子学園屋内闘技場、月曜日午後3時20分……


 革鎧に着替えたルウとカサンドラがこのタイミングで屋内闘技場に現れる。

 既にシンディの指導の下、部員達は準備体操をしたり、使用可能な者は身体強化の魔法を発動する為に言霊を詠唱している最中である。

 ルウが顔を出した事に気付いた何人もの部員達が挨拶して来る。


「ルウ先生! お疲れ様!」「お待ちしていました、ルウ先生!」


 声を掛けられたルウは穏やかな笑顔を返して遅れた事を謝罪した。


「皆、遅れて済まない。専門科目の事務をしていて遅くなった。カサンドラ先生も一緒だ」


 生徒達はカサンドラが来ると聞いても驚いた様子が無い。

 シンディから事前に説明が為されているのであろう。


 暫しの間を経て部員達は整列する。

 整列し終わった部員を見てシンディの声が響き渡った。


「今日からコーチとして魔法武道部の指導をして下さるカサンドラ・ボワデフル先生です。カサンドラ先生は魔法攻撃術の上級指導官ですから、色々と教えを受けて皆さんが更に強くなる事を期待します。ではカサンドラ先生、ご挨拶を」


 ルウと一緒に居たカサンドラが一歩前に出る。


「ただいま、シンディ先生からご紹介頂いたカサンドラだ。シンディ先生やルウ先生と共に皆を鍛える事になるが宜しくな」


 カサンドラが軽く一礼するとまばらに拍手が起こった。

 部員の様子を見たカサンドラは苦笑する。

 これは仕方がないであろう。

 未だカサンドラと部員の間には絆という信頼関係が無いからである。

 『絆』はこれから創って行くしかないのだ。


 そんな雰囲気を振り払うかのように今度はルウの声が響く。


「よしっ! いつもの通りにクランに分かれて実戦練習だ」


「「「「はいっ!」」」」


 今度はルウの声に応えて部員達は大きな声で返事をしたのであった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 魔法女子学園屋内闘技場、月曜日午後4時15分……


 先程本日の魔法武道部の訓練が終わり、シンディは所用により既に退出していた。

 部長のジゼルを除いて部員達もこの場には残っていない。

 

 だが闘技場の真ん中にはルウとカサンドラが何故か対峙している。


 2人はこれから模擬試合を行うのだ。

 どうして、このような事になったのか?

 それは訓練終了直後のカサンドラのひと言にあった。


「ルウ先生って……皆が言うほど本当に強いのか? 確かに噂では良く聞くが、私は自分で見た事しか信じないのでな」


 シモーヌ以下、殆どの部員達は幸い部室に移動しており、万が一彼女達がカサンドラの言葉を聞いたら大騒ぎになるのは間違いなかった。


 カサンドラの言葉に敏感に反応したのが残った人間の中で、唯一の魔法武道部の部員であるジゼルであった。


「ではカサンドラ先生。そんなに言うならルウ先生の強さを身を持って体感したら良いではないか? ここに居る者が全員見届け人になるぞ」


 ジゼルに煽られてカサンドラのこころは火がついてしまう。


「というわけでルウ先生! 勝負だ! どうせ貴方が赴任して来た時に約束していた事だからな」


 カサンドラはこのような展開になるのを望んでいたのであろう。

 舌なめずりしながら、ルウに見せ付けるように指の関節を鳴らしているのだ。


 カサンドラの計算は見え見えだ。

 

 これからクランを組むルウとフランを立てながらも、ルウの実力を見極めた上で実は主導権を握りたいのである。

 カサンドラ自身は空手に近い流派の拳法の達人であり、剣技に関してもジゼルに負けずとも劣らずの技量を誇っていた。

 彼女の自信はそれに加えて火の高位魔法を発動出来る事で絶対のものとなって裏打ちされていたのだ。


 だが……この対決を機にカサンドラにとっては価値観が全く変わる事になってしまうとは……

 

 今の彼女は未だそれを知る由も無かったのだ。

ここまでお読み頂きありがとうございます!

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