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第168話 「風の従士」

 純白の鷹はその澄んだ瞳でじっとジョゼフィーヌを見詰めている。

 その時であった。


わらわはそなたと同じ風の者として馳せ参じた。さあ、仮初かりそめの名をつけるがよい』


 ジョゼフィーヌの魂に直接呼び掛ける女性の声が響いたのである。


 これは……念話?

 旦那様と話す時と同じ?


『ふふふ、そうじゃ。妾はそなた達がグリフォンと呼ぶ一族をかつて束ねた者……真の肉体はとうに滅びてはおるが、そなたの力でまた受肉し、この現世に召喚される事が出来るようになったのだ』


 え!?

 わ、私……


『案ずる事は無いぞ。妾はそなたには敵意も無く害を加える事は一切無い。そこにいらっしゃる、そなたの夫君である御方に忠誠を誓う意味でも馳せ参じたのだ。そなたは知らぬだろうが、因果があっての……』


 そこに2人の話題の主であるルウの声が響く。


『お前はジズ・・の一族か?』


『はい! 私は貴方様の奥方様にお仕えする為に参りました。ジズ様の主であれば我が主、どうぞお見知りおきを』


 ルウの声に白鷹が答える。

 白鷹は女性らしいが、やはり使い魔どころか、とてつもなく上位の存在なのは間違い無さそうだ。


『分った! ジョゼは俺の大事な妻、尽くしてくれよ』


 その上、ジョゼフィーヌはルウと白鷹の念話のやりとりを聞いて呆気に取られていた。

 話の内容と展開について行けないのである。

 そんなジョゼフィーヌに今度はルウの念話が聞こえて来た。


『大丈夫だ、ジョゼ。彼女はお前の従士だ。名付けてやるが良い』


『従士……名付ける……』


『そうだ、お前の魂に浮かんだ彼女の名をな』


 ジョゼフィーヌは白鷹を見詰めた。


 白金プラティナ……

 そう、貴女はプラティナよ……


『プラティナ……』


『プラティナか! 良い名だ。今後とも宜しくな』


 そこでジョゼフィーヌは我に返った。

 目の前には純白の鷹が力強い視線で彼女を見詰めていた。


帰還リターン!』


 ジョゼフィーヌが命じるとプラティナは煙のように消え失せたのである。


「ジョゼ、やったな」


 ジョゼフィーヌが振り向くとそこにはルウがいつもの穏やかな表情で彼女を見詰めていた。


「だ……い、いえ! ルウ先生! 私、やりました!」


 その瞬間、彼女の頭が温かい手で愛撫される。


「く、くう!」


 思わず声が洩れてしまう。

 整えた髪が乱れるのなんて構わない。

 ジョゼフィーヌはルウにこれをして欲しかったのだ。


「ジョゼ、お前は良い子だ、本当に良い子だ」


 その声はジョゼフィーヌにとって明日への活力になる彼女の1番大事な言霊である。


 これで私はまた頑張れる!


 ジョゼフィーヌは幸せな気分に浸るのと同時に前向きな気持ちになる事が出来たのであった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 魔法女子学園屋外闘技場、午後2時45分……


 午後の授業が終わった。

 結局、エステルとジョゼフィーヌの成功に引っ張られる形でクラスの半分が召喚魔法に成功していた。

 これはフランによれば他のクラスに比べると倍の成功率らしい。

 それもアンノウン召喚者が2人も居るといったレベルの高さだ。

 本当はジョゼフィーヌの召喚獣がダントツにレベルが高いのではあるが、それは『家族』だけの秘密になるであろう。


 生徒達は教室への移動を始めていた。

 一旦、教室で明日以降の連絡事項の確認をして今日の授業全てが終了となる。


「旦那様……」


 フランが他の生徒に聞こえないように小声で囁く。


「ジョゼのあの白い鷹って……『特別』……でしょう?」


 やはりフランにも分っていたらしい。


「ああ、また屋敷で話そう。こんな時は基本的に『共有』しないとな」


 皆の状況や情報を共有しようという事であろう。

 ルウの表情は穏やかなまま変わらなかった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 魔法女子学園職員室、午後3時15分……


 ルウが職員室に戻るといろいろな先生から声が掛かる。

 学科の相談らしい事は勿論、何か意味ありげな雰囲気の声もある。

 そんな中、ルウはシンディ・ライアンの席に近付いた。

 彼女はもう席についていて紅茶を飲んでいた。

 その表情には疲れが見えている。


 ルウはシンディの名を呼ぶと微笑んだが、その表情にはいつもの明るさはなかった。


「どうしました?」


「うん、いろいろね」


 声にもいつもの溌剌はつらつとした張りがない。


「回復魔法でも掛けましょうか?」


「…………」


 ルウが呼びかけても無言のシンディ。

 だいぶ思い詰めているようだ。


癒しコンフォート


 ルウが何気に魔法を発動するとシンディの顔に少し赤みが差した。


「あら……」


 シンディはいきなり気持ちが癒される魔法を施され吃驚したようである。

 それを見ていたクロティルド・ボードリエは我慢出来ずに立ち上がった。

 そしてつかつかとルウとシンディの元に近寄って来る。


「ル、ルウ先生、貴方……」


 クロティルドはごくりと唾を飲み込んだ。


「何気にその癒しの魔法……無詠唱で使っていない?」


「ああ、そうだけど」


「そうだけどって……どういう事?」


 ルウに軽く返されて少しいらつくクロティルドである。

 彼女にしてみれば先日、あの火蜥蜴サラマンダーを見せられて仰天していた所を、今度は軽く回復魔法を使われて吃驚してしまったのだ。


「貴方って人は……今度、時間を頂戴、ゆっくり話しましょう。今はシンディ先生に譲るけど」


 クロティルドは踵を返すと自分の席に戻って行く。

 

 それを見たルウとシンディは思わず顔を見合わせて苦笑したのであった。

ここまでお読みいただきありがとうございます!

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