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月並みな人生を歩んでいたおっさんがゲーム的な異世界に飛ばされて思慮深く生きつつやっぱり無双したりする話  作者: 次佐 駆人


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26章  森の果て  06

 俺がゼロの前に立つと、ゼロのメカ的な部分に接続されていたコード類がすごい勢いで外れ始めた。


 あれ、なんか壊した? ……と内心焦っていると、ゼロがいきなり椅子から立ち上がり、そして俺の前でひざまずいた。


『ケイイチロウ・クスノキが当機のマスターに登録されました。なんなりとご命令を、マイマスター』


 いきなり言葉が流暢になってちょっと驚くが、声自体は抑揚のないままだ。


「ええと、色々と聞きたいことはあるんだけど……まず君はこの施設の機能にはアクセスできるのかな?」


『はい、可能です』


「ならば、まずこの施設の外にいる人間を中に入れてくれないか。できればこの場所まで誘導してほしい」


 とりあえずネイミリアたちをそのままにはしておけない。俺が操作することもできるんだろうけど、こういうのは得意な人間にやってもらうのが一番である。


『了解しました。音声にて誘導します』


 そう言うと、ゼロは立ち上がって制御盤を操作し始めた。


 しばらくすると部屋の扉が開いて勇者パーティ一行が入ってきた。全員がキョロキョロと周囲を見回しながらおっかなびっくり歩いている。


 まあそりゃそうだろう。俺はともかく彼女らから見たら、この遺跡は文明的にあまりにも隔絶しているはずだ。


「あっ、ご主人様っ!」


 ラトラが俺に気付き、全員がこちらに走ってくる。


「ご主人様すごいですっ。この遺跡のご主人様にもなられたのですねっ」


「あ~、まあそういう感じかな」


 皆嬉しそうに集まってくる中、俺の後ろに立つメカビキニ姿のアンドロイド少女に最初に気が付いたのはエイミだった。 


「クスノキ様、後ろの方はどなたでしょうか? 見たことのない格好をしていらっしゃいますが」


 皆がゼロを見て、それから俺のことを呆れたような目で見始める。


 いや、今回ばかりは完全に冤罪だからね。


「彼女はヴァルキュリアゼロ。イスマール魔導帝国が造り出したアンドロ……いや、何ていえばいいんだ? 人形?」


『試製戦闘支援システム ヴァルキュリアゼロです、マイマスター。人形ではありません』


「ああごめんよ。彼女は『厄災』と戦うために造られた存在なんだ。人間じゃない……と言っても信じられないか」


 まあ俺も信じられないけど。だってアンドロイドなんて前世のメディア作品中の存在であって、現実で見たことがあるわけでもないのである。


「その……おっしゃっていることは理解できませんが、彼女は味方ということでいいのでしょうか?」


「そうだね、それは間違いないと言っていいと思う。ともかく今回の探索の目的はこれで達成した感じかな」


 俺がそう言うと、ソリーンが不思議そうな顔をした。


「あの、クスノキ様はすごく落ち着いていらっしゃいますが、この遺跡を見つけただけでも大変なことだと思うのです。しかもその遺跡を掌握し、その上で人間にしか見えないのに人間ではない存在を当たり前のように受け入れていらっしゃいます。どうしてそのようなことがお出来になるのですか?」


「え!? ああ、それは……」


 言われてみれば俺の態度は第三者から見たら確かに不自然なものだろう。だからと言ってアニメとかゲームで見たから、とは間違っても言えないしなあ。


 と悩んでいると、リナシャが訳知り顔でソリーンをつっついた。


「ソリーン、そんなの当たり前じゃない。だってクスノキさんは預言者様なんだし」


「あ……っ。そうでした、私失礼なことをお聞きしてしまいました。クスノキ様にとってはすべてはお考えの内なのですね。私の考えが及ぶところではありませんでした」


 あ~そっちで理解しちゃったかあ。でもまあ下手な言い訳するよりはマシなのかもしれない。俺自身が認める発言してなければセーフだよね(汚い大人の思考)。


「とにかく、彼女がいれば『大厄災』への対策は進むはずだ。ヴァルキュリアゼロ、君はこの研究所を離れても行動は可能か?」


『はい、問題なく行動が可能です、マイマスター』


 そういうことなら戻って女王陛下や公爵閣下と共に情報を聞くのがいいだろう。さすがに『大厄災』の情報を皆の前で聞くのはマズい。


 じゃあ戻るか……と思っていると、ネイミリアがワクワク顔で俺の腕を取った。


「師匠、この遺跡はもっと調べないんですか? 案内されてまっすぐここに来てしまったので何も見てないんです」


「ああ、確かにもう少し調べた方がいいかもしれないね。約束したし、サーシリアさんたちも呼んでしまうか。ヴァルキュリアゼロ、この施設に危険なものはあるか?」


『兵器がありますので注意は必要です。ただし当機の方でロックは可能です』


「わかった、じゃあちょっと色々と見せてもらうよ。その前にあと3人連れてくるから待機していてくれ」


『了解しました、マイマスター』


 とやりとりをしていると、ネイミリアがまだ何か言いたそうにしている。


「どうした?」


「いえ、師匠って本当にどんな状況でも普通に対応できるんですね。やっぱりすごいです」


「それなりに経験は積んでるからね。ネイミリアだってその内慣れればこうなるよ」


「確かに師匠と一緒にいるといろんな経験ができますからね。師匠に置いて行かれないように頑張ります」


 なんでこの娘はそういう健気なことを言うのかなあ。


 無意識の内にその頭をなでてしまっている俺がそこにいたのだが……ふと目を向けると、羨ましそうにしている他のメンバーがそこにいた。


 しまった、この事態にならないように気を付けていたのに、と思ったが後の祭りである。


 はい、後で埋め合わせはさせていただきますよ。





 その後サーシリア嬢とセラフィ・シルフィ姉妹を連れて来て、遺跡の調査……という名の見学会を行った。


 なにしろゼロという専属の案内係がいて説明してくれるのだ。俺としては前世で家族を連れて科学館とか工場見学に行ったことを思い出してしまった。


 そこで分かったことなのだが、この研究所はやはり今でも『逢魔(おうま)の森』のモンスターを造り続けていた。


 その施設は地下にあったのだが、どうやら元は大気中の魔素を集めて魔結晶を造り出す実験をしていたらしい。


 しかし、魔素から直接魔結晶を生成することはできず、必ず間にモンスターとなる過程を挟まないとならなかった。そこで仕方なくモンスターを造り出しそれを討伐するというサイクルを構築したようだ。


 それがなぜ『逢魔の森』のような状況になったのかは不明だが、どうも雰囲気としては人造モンスター狩りがイスマール魔導帝国人の娯楽になっていた感じである。


 それとは別に銃やロケットランチャーのような武器、それと研究所前で戦った『インペリアルガーディアン』も何体か所蔵されているのが確認できた。


 いずれも多少調整すれば稼働可能とのことで、1万年以上経っていても劣化しない材料で物を作れる科学技術っておかしくない? とひとり驚嘆していた。


「あの、私たちがこんな重要そうな遺跡を真っ先に見ちゃって大丈夫なんですか?」


 一通り見て回った後、休憩所代わりに使うことにした食堂で一休みしていると、サ―シリア嬢がちょっと不安そうな顔で聞いてきた。


「遺跡の調査に関しては俺に一任されてるから大丈夫だよ。さすがに今知られるとマズい部分は隠すようにゼロには指示してるしね」


「え、そうなんですか? でもケイイチロウさんが言っていたヴァルキュリアゼロさんが人間じゃないっていうのが本当なら、それも結構重要なことですよね?」


「まあそれは隠しようがないからね。見た目的にもおかしな部分は色々あるし、それに彼女はこの後連れていくことになるから」


 見た目的にも様々な種族が混ざるこの世界なら、アンドロイド少女が一体いたところで目立つこともないだろう。もし彼女が特別な存在だと知られても、俺の肩書を考えれば彼女に手を出してくるのは余程の間抜けだけである。ただまあ、メカビキニ姿だけは何とかしたいんだが……。


「ところでゼロはやっぱり服は着てくれなかったよね?」


「ええ、勧めたんですけど、理由を聞いたら『センサーが妨害されるので』って言うんです」


「そうだよね。センサーがらみじゃしょうがないから俺も諦めたんだ」


 実は先だって俺もゼロに服を羽織るように勧めたのだが、同じ理由で断られてしまったのだ。どうも露出した肌の部分が『魔素感知装置』になっているらしいんだが……そんな設定いる?


 絶対に服を着せたくないという開発者の強い執念を感じる設計である。


「ケイイチロウさんは『センサー』って何のことか分かるんですか?」


「え? ああ、感覚器官のことだよ。たぶんゼロは肌に見える部分で外部からの情報を受け取っているんだろう」


「そういう知識ってどこで得ているんですか? 私も結構本とか読んでいるはずなんですけど」


 知識と言うか、前世の記憶が微妙にヒットするからそれを元に理解してるだけなんですけどね。まあSF的な知識があるだけでもこの研究所への理解が早まったのは確かではある。技術的なところはまったく理解できないけど。


「昔なにかの本で読んだんだよ。ところでサーシリアさん、『逢魔の森』のモンスターが減ったら困るよね?」


「えっ!? それは……どうなんでしょう。ロンネスクとしては困るかもしれませんね。『逢魔の森』のモンスターは商品みたいなものですし。っていうか、モンスターを減らせるんですか?」


「うん、実はこの遺跡でモンスターを造ってるみたいなんだ。ゼロに聞いたら減らすこともできるらしい」


「それって本当ならすごく大変な話だと思うんですけど……」


 確かに実際モンスターの出現数を増減させるっていうのは簡単な話ではない。政治的にも経済的にも生物学的にも、さまざまな方面に影響があるからだ。


「まあそうなんだけど。後で女王陛下や公爵閣下も交えて考えないといけないレベルだろうね」


「そうですよ。でもそう考えると、この遺跡を発見したのがケイイチロウさんで丁度よかったのかもしれませんね。だってケイイチロウさんは……あ、何でもありませんっ」


 慌てて口を手で押さえ、ごまかすようにニッコリ笑ってネイミリアの方に去っていくサーシリア嬢。


 いやちょっと、なんでそんな気になる言い方をするんでしょうか。実は女王陛下との結婚の件、エイミ経由で知られてたりとか……なんかありそうな気がしてきた。


 だからといっていまさら何が変わるわけでもないから気にしても仕方ないか。


 それよりも今は『大厄災』だ。すべてはそれが終わってからの話だし、まずはそちらを片付けてしまおう。


 ゼロの話によっては下手をすると国をまたいだ対応が必要になるはずだ。なにしろ相手は大陸全土に広がる文明を消し去った相手なのである。

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