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月並みな人生を歩んでいたおっさんがゲーム的な異世界に飛ばされて思慮深く生きつつやっぱり無双したりする話  作者: 次佐 駆人


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21章 聖地と聖女と  05

「ホントにクスノキさん来てくれないの?」


「リナシャ、無理を言っちゃダメよ」


脇腹をつつこうとするリナシャとそれを止めるソリーン、そして一歩後ろに立つカレンナル嬢と別れ、俺は少し大聖堂を見て回ることにした。


もちろん教会関係者でなく、なおかつ名の知れたハンターである俺がフラフラ歩いていると目立つことこの上ない。


朧霞(おぼろかすみ)』スキルと『隠密』スキルを全開にして、気配をできるだけ消しての調査である。


さて、今俺が探しているのは教会内部の腐敗分子……はっきり言ってしまえばギラギラオーラ持ちの人物だ。


いまだによく分からないオーラをあてにするのもちょっとアレな話ではあるが、それ以外に頼れるものがないのも確かなので仕方ない。


大聖堂の関係者以外立ち入り禁止ゾーンをあちこちを見て回っていると、とある通路の真ん中に、四角い背中の人物が立っているのが見えた。


ホスロウ枢機卿が神官と(おぼ)しき人間と話をしているようだ。


そのキツネ顔の男神官にはっきりとしたギラギラオーラを認めた俺は、すぐに通路の曲がり角に身を隠した。


枢機卿とギラギラ神官の二人は、そのまま近くの部屋に入っていく。


俺はその扉の近くまで行き、壁に寄りかかって聞き耳を立てる。超高レベル者の身体能力は聴覚にまで及んでおり、その気になれば微かな声も聞き逃さない。


「……では、(くだん)のハンターへの依頼は行わない方向で……?」


「うむ、私が数回釘を刺しておいた。大聖女様といえど無報酬で貴族位にあるハンターを動かすことはできまいよ」


「ならば良いのですが。しかし枢機卿閣下のお手を(わずら)わせることになるほどの話とは思っておりませんでした」


「いや、むしろよく知らせてくれた。此度(こたび)の『聖地』浄化に外部の者を入れるなどあってはならぬことよ。教会の権威にもかかわるというのに、大聖女様にも困ったものだ」


「少し焦っておいでなのかもしれません。なにしろ後がつかえておりますから」


「確かにな。しかしどうやら次の大聖女はロンネスクの二人のうちどちらかになりそうだ。さすがにあそこまで名をあげられては仕方あるまいが」


「それでよろしいので?枢機卿閣下が後ろ盾となれば、他の者も立てられるとは思いますが」


「さすがにそれは無理筋であろうよ。クネノ大司教……今はただのクネノか、あやつと同じ(てつ)を踏むのは愚かというもの」


「……左様ですな。ところで『聖地』浄化へはいつごろのご出立となるのでしょうか?」


「聖堂騎士団も戻ったばかりゆえすぐというわけにもいかぬが、『聖地』の瘴気(しょうき)は日に日に強くなっていると聞く。教皇猊下へは一週間を目途に出立するべき旨を伝えるつもりだ」


「それはまた急でございますね。その時は我々も後学のために同行の栄誉を(たまわ)りたいのですが……」


「ふむ。我々というのは、貴殿とギザロニ司教の二人か?」


「はい。わたくしコンコレノとギザロニ二名を是非とも」


「……まあ良いだろう、貴殿らは何かと私のために動いてくれているようだからな。『聖地』浄化の手柄を少しばかり手にしても罰はあたるまい。ただし聖堂騎士団に帯同するとはいえ、危険なことに変わりはない。そこは心得よ」


「はっ、ありがとうございます。ギザロニもきっと喜びましょう。ではわたくしはこれで……」


俺が扉を離れて通路の角に身を隠すと、キツネ顔の神官……コンコレノが部屋から出てきた。


後をつけていくと、コンコレノはとある部屋に入っていった。『気配察知』によるとその部屋には別の人間がいる。恐らく先の話に出てきたギザロニ司教だろう。


俺はまた扉の脇に行き、聞き耳を立てた。


「ギザロニ、『聖地』浄化への同行が許されたぞ。枢機卿に恩を売っておいたかいがあったようだ」


「そいつはありがたいな。これでつまらん太鼓持ちともおさらばというわけか」


「ああそうだ。これで我らの悲願に一歩近づいた。お前の方はどうだ、封印球のありかにあたりはつけられたのか?」


「そっちは問題ない。地下祭壇の奥に隠された部屋があって、そこに運び込まれたようだ」


「持ち出せるのか?」


「そこは上手くやる、任せておけ。ところで話のあったハンターの件はどうなった?」


「それもうまく枢機卿が止めてくれた」


「ふん……しかしそのハンターをそこまで警戒する必要はあるのか。確かに名前はよく聞くが、ずいぶんな女たらしだというじゃないか」


「我らの後援者が気をつけろと言うんだ。排除しておいて間違いはあるまい」


「後援者ね。それもどこまで信用できるのか……。ま、我らの盟主が復活すれば、些細なことなど何も問題にはならんか」


「そういうことだ」


どこかのハンターに対する悪口以外はヒントになるキーワードが多く、大変に参考になる会話であった。


もう少し聞いていたいところだが、どうやらこちらに数名の人間が近づいてくる気配がある。


いくらスキルが高レベルといっても完全に姿を消せるわけではない。おそらくここで聞くことができる情報はここまでというイベントなのだろう。


いずれにしてもこれで物足りない感は解消できた。


俺はその場を後にし、一旦首都の宿へと戻ることにした。






俺は宿に戻ると部屋の中で転移魔法を発動、ロンネスクの自室へ転移した。


すぐにエイミを呼んで、ことのあらましを説明する。


「それでは、そのコンコレノ・ギザロニという人間を調べればいいのですね?」


「そうだね。特に彼らが大聖堂の外に出た時にどこに行くのか、誰と接触しているのかを中心に探って欲しい」


彼らの会話の内容を考えれば、ゆくゆくは女王陛下や大聖女様、もしかしたらまだ見ぬ教皇猊下に報告をし、対応をお願いしなければならない。


しかしそのために必要な情報がまだ足りない。あの両司教に関して、さらに調査が必要であった。


そして身辺調査ということになれば、スペシャリストの忍者少女エイミに頼むのが最善手である。


「承知いたしました。ところで今の情報から、クスノキ様は彼らがどのような人間だと考えていらっしゃるのですか?」


「アルテロン教とは異なる信仰を持った『異教徒』、かな。しかもその信仰は、かなり危険なもの、恐らく『邪教』とも言うべきものだろう」


「……それも経験からくる勘なのですね?」


「そうだね。さらに言えば、その『異教徒』は他にもいると思っている。だから彼らがどんな集団なのかを知りたいんだ。本拠地がどこにあるのかや人数、その構成員の社会的地位、種族とか色々とね」


と偉そうなことを言っているが、単にコンコレノ司教が言っていた「我らの悲願」という言葉、ギザロニ司教が言っていた「我らの盟主」という言葉、そして彼らが『封印球』を盗もうとしていたことから、メディア作品群にありがちな「邪教徒の暗躍」みたいなイベントだろうとあたりをつけただけである。


もちろんそんなゲーム脳な憶測で動く訳にはいかないので、こうして裏を取ろうというわけだ。


「となると、私一人では手に余るかもしれません。『影桜』の派遣を陛下にお願いしてよろしいでしょうか?」


「確かに一人じゃ無理だね。分かった、陛下には俺からもお願いをしよう。事が大きく動くのは大聖女様たちが『聖地』浄化に行く時だ。それは早ければ一週間後。だから5日間でできるだけ情報を集めて欲しい」


「承知しました。すぐに動きます」


「じゃあ準備ができしだい、転移魔法で陛下のところに行こうか」


さてさて、もし俺の予想通りだとしたら、コンコレノら『邪教徒』は、盟主と仰ぐ『穢れの君』を復活させようとか考えているはずだ。


ただ、もしそうだとして一体どう動くのが正解だろうか。


これは関係者に相談するしかないだろう。職務上のスタンドプレーが多く悲劇を生むことを俺は知っている。


ああそうだ、教皇猊下がギラギラオーラ持ちかどうかも見ておかないとならないよな。


教会トップが悪、みたいなのもメディア作品群では『お約束』だからなあ。

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