55.【2章−2完】元神童、E級冒険者になる
「イルヴィスさん、本当の本当にありがとうございました! イルヴィスさんがいなければ100万回は死んでいたと思います! 助かりました!」
帝都に帰り着くと、ほっとした様子でフィオナが笑顔でそう言ってくれた。
護衛の任務を無事に果たすことができた。そして、喜んでくれる人がいる。俺は自分の責任が果たせたことにほっとしていた。
自分の力が誰かの役に立つ、それは素晴らしいことだ。
「ははは、お役に立てたようで嬉しいです」
「こちらが、依頼完了の紙です」
そう言って、フィオナが俺に一枚の紙を渡してくれる。これをギルドに持っていくと、ギルドが取り決められた報酬を支払ってくれるのだ。
「……なんだか、すみません……。報酬以上の働きをしてもらったと思うんですけど……」
「気にしないでください」
俺としてはかなり疲れた感じがするのは事実なのだけど、まあ、最初に決めたものだからね。
「イルヴィスさん、ありがとうございました」
一礼すると、フィオナは帝都の雑踏へと姿を消した。
俺は任務終了を伝えにギルドへと向かう。
ギルドの受付嬢に伝えようとすると、
「あ、イルヴィスさんは買取コーナーで承ります」
と言われて、いつもの買取嬢がいる場所で応対することになった。
「なんで俺はこっちなんだ?」
「えーと、ほら、イルヴィスさんって、その――」
少し考えてから買取嬢がこう続けた。
「個性的じゃないですか?」
「言葉を選んだよね、今?」
「慣れている人が応対した方がいいんじゃないかって話になりまして。わたしがイルヴィスさん専属になることになりました」
「いやいや……ただの下っ端冒険者だよ、俺?」
「何をおっしゃいますか! 神の手のくせに!」
「もうそのあだ名は消えないんだね」
俺はフィオナから渡された依頼完了の紙をカウンターに置いた。
「依頼をこなしたよ」
「おおおおおお! おめでとうございます!」
紙の中身を確認しながら、うんうんと買取嬢がうなずいてくれた。
「確か、イルヴィスさん、これって昇進クエストじゃなかったでしたっけ?」
そうだった。俺も半分忘れかけていたが――
「そうだな。Eランクへの昇格クエストだったはずだ」
「え、Sランク?」
「Eランクだって」
「引っかかりませんねー」
「引っかからないよ」
ランクが上がれば報酬も増えるらしいが、そのぶん、高難度でメンドくさいらしい。今回くらいのしょっぱいEランクでも、あんなに苦労しているんだから、無理に決まっている。
Eランクで隕石が落ちてくるなんて。
社会、厳しすぎだろ……。
「じゃあ、仕方がないですけど、Eランクで冒険者カードをお作りしますね」
そうして、俺の冒険者カードは更新された。
ランクの部分が『F』から『E』へと書き変わっている。
おおー! ついに! Eランク!
「おめでとうございます、イルヴィスさん!」
「ありがとう」
まあ、最低ランクが低ランクになっただけなので、それほど胸を張れるようなものではないのだけど、頑張りが認められたようで気分がいい。
買取嬢はにこにことした表情で俺にこう言った。
「じゃあ、次はBランク昇格クエストを用意してお待ちしております!」
「いや、普通にDランクで頼むよ……」
どうして、こう俺を働かせようとするんだろうか……。
ギルドでの用事が片付いた。
なので、俺は家へと戻った。
「ただいま、アリサ――いないか」
平日の昼すぎに帰ってきたのだから、いないのは当たり前か。
まあ、俺も旅で疲れているからな……風呂にでも入ってのんびりと休みつつ、部屋着に着替えてアリサの帰りを待つとしよう。
そんな感じで俺が家でくつろいでいると――
ドアを開けて仕事帰りのアリサが現れた。
「あれ、お兄ちゃん。帰ってたの?」
「ああ」
「いきなり、ゴロゴロしているね?」
アリサの言う通り、俺はゆるゆるの部屋着を見にまとい、ソファに座っていた。
「ふふふ、仕事が終わったからな」
「じゃあしょうがないねー」
うふふふと笑いながら、アリサがイスに座った。
「護衛の仕事はどうだった?」
「……うーん……喜んでもらえたのはよかったんだけどさ、なかなか大変だったね」
「気遣いとか?」
「いや、気さくな人だったから、それはないんだけどさ……なんか知らないが、手に入れた赤い宝石のせいで異界との門が開いて、白い化け物とアンデッドの大群が出てきてさ、白い化け物は死なないし、隕石は落ちてくるしで大変だったよ」
「お兄ちゃーん。面白い冗談言うね!」
「え!?」
「どうやったら、護衛任務でそんな状況になるわけ? 何かの小説の設定をパクったでしょ!?」
ううむ……本当なんだがな……。
だが、自分で話していて思ったな。嘘くさい。なんでそんな状況になってたんだろ、俺?
まあ、信じてもらえそうにない気がしたので、俺は話題を変えた。
「そうそう、俺さ、Eランク冒険者になったんだぜ?」
「え、ホント?」
「ホントホント。あとでカード見せてやるよ」
「わー、すごいね!」
そう言った後、少し落ち着いた声でアリサがこんなことを訊いてきた。
「ねえ、お兄ちゃん。働き始めてさ、どう思った?」
「うーん……」
少し考えてから俺は答えた。
「そうだな。やっぱり俺は家でゴロゴロしているのが好きだな。それが再認識できたよ」
「そこはね、お兄ちゃん、もうちょっと感動することを言う部分なんだよ?」
「そうだった」
そこで、アリサがごほんと咳払いした。
「はい、えーとね……お兄ちゃん。働き始めてさ、どう思った?」
「うーん……」
少し考えてから俺は答えた。
そうだな。やっぱり俺は家でゴロゴロしているのが好きだな。それが再認識できたよ。
と繰り返すのがセオリーだと思ったが、それをするとアリサに生殺与奪の権を奪われる気がしたのでやめることにした。
「人の役に立つってことはいいことだと思ったよ。ありがとうって言ってもらえるのは単純に嬉しい」
アリサが驚いた表情を作った。
「……え、意外とまともな答えで驚いているんだけど」
「ひどい」
「そうだね。それも働くことの理由かもね。誰かの役に立てるのは楽しいよね」
うんうんとアリサがうなずいた。
「続けられそう、冒険者?」
「そうだな……それなりに楽しさは見つけた感じはするな。もう少し続けてみたら……また楽しい何かを見つけられるかもしれない。ま、ぼちぼち続けてみるよ」
「ふふ、いいんじゃない、そんな感じでさ。頑張ってよね!」
「ああ。任せてくれ」
ここ数ヶ月、本当にいろいろなことがあった。
その前の2年間を思えば激動の日々だった。だけど、別に悪い気はしない。何度か危ない思いもしたが、未熟なりに努力して乗り越えることができた。感謝の言葉もたくさんもらった。俺は俺なりに貢献できている。俺がいたことで救いになった人が確かにいる。
その事実が――
俺には嬉しかった。必要とされる感じが。
別にあの2年間を悔いることはないけれど、再び歩き出すと決めてよかったと思っている。
せいぜい学生時代に優秀だったくらいの俺でも、役に立てることがあるのだ。
そうだな、少しずつ頑張って――
少しずつ、俺なりに誰かを助けていこう。
うん、とうなずいてから俺はアリサに言った。
「……まあ、ひと仕事も終わったし、1ヶ月は家でゴロゴロするんだけどな」
「ちょっと、お兄ちゃん!? さっきまでのいい感じの空気を返してよ!?」
というわけで、本エピソード(2章ー2)は終了です。評価していただけると嬉しいです!
【告知】本作の更新をしばらくお休みします。ブクマの更新をお待ちください。
単純にプロット切れですね。あと、私が書いている別の書籍化作品『シュレ猫』の次巻作業が始まるので、やや忙しく。
そう、シュレ猫の2巻が出ます! 応援してくれた方々、ありがとうございます! 【シュレ猫の2章2部は夏頃】に再開する予定ですので、もう少々お待ちください。
話を本作に戻すと――感想欄を眺めていると、ユーリへの注目が高い気がしています。そのわりにあんまり活躍させられなくて申し訳ないです。
実は彼女、プロット段階ではいなくてですね、執筆段階でいきなり出てきたんですよ。ただ、プロットの変更ができないので、今回は顔見せ止まりとなりました。
オルフレッドの娘であるユーリをどうイルヴィスに絡ませて『カオス』にしていくか――面白いところだよなーと思うので、次のエピソードはその辺を掘り下げていきたいです。ここは私の『宿題』でしょうね。
……なんて言いつつ、まったく違う話になる可能性もあるんですが!(笑)
また次回の更新でお会いしましょう。
【ぺもぺもさん】を今後ともよろしくお願いいたします!




