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40.元神童「あの絵のタイトルは――」

 その若い男の絵は、確かに大賞作と画風がとても似ていた。

 見た瞬間、ソルタージュは電撃が身体中に走るのを感じた。


 ついに、見つけた!


 だが、その感情は100%純粋なものではなかった。心の中に微妙な引っ掛かりのある嫌な感じがあった。

 じっと目を凝らしてソルタージュは違和感を探る。


 そして、ようやく気がついた。


 詳しいことまで言語化できないが――何かが混ざっている。美味な酒に混ぜられた、無粋な水のような。それゆえに完璧な世界が崩れている。

 ソルタージュはこう判断した。

 この男は、大賞受賞作の模倣をしているのだろう。それはそれなりにうまくできているが、後追いには何の価値もない。


(……こいつも違うか)


 その想いとともにため息がこぼれ――

 目の前に座る若い男が振り返った。


「……どうしました?」


 やる気のなさそうな――芸術への愛をかけらも持っていなさそうな男だった。そんな様子を見て、ソルタージュは己の判断の正しさを確信した。


「いえ。特に」


 ソルタージュは短く答えると、男に興味を失った様子で次の参加者の元へと向かった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「絵画体験コーナーにご参加いただきありがとうございます。お時間になりましたので、終了してください」


 ばたばたと参加者たちが帰る支度をする。

 そのとき、アリサが俺に言った。


「ごめんねー、お兄ちゃん。キャンバス変えてもらって!」


「別にどうでもいいさ」


 俺は、ふっと笑った。

 開始からしばらくして、アリサは盛大に絵をミスったのだ。その時点で、俺はまだ何も描いていなかった。俺自身は絵画に興味がなかったので、アリサの作業を眺めていたからだ。


 落ち込むアリサがかわいそうだったので、俺はアリサにキャンバスの入れ替えを提案した。

 よって、俺は『アリサがミスった絵の上に付け足す形』で俺の絵を描いた。


 ……まあ、絵には興味がないので、特に嫌な気持ちなどはない。むしろ、妙なお題を出された感じ――

 この失敗した絵を組み込んだ状態でいい感じに仕上げなさい!

 で楽しめすらした。


「じゃ、帰るか」


「うん!」


 そんなわけで俺とアリサは美術館を後にしたのだった。

 それから1ヶ月が経ち――


「ねえねえ、お兄ちゃん!」


 家でゴロゴロしていると、アリサが俺に話しかけてきた。


「あの大賞作品、オークションで売却されたんだって!」


「ほー」


 俺が描いた絵にとてもよく似た『おどろおどろしく描かれた柳の木に張り付けられたタコの惨殺死体』の絵がねえ。


「いくら?」


「いくらでしょう?」


 ニヤニヤしながらアリサが言ってくる。めんどくせーな。


「……そうだな……、300万ゴルドとか?」


「ぶっぶー」


 アリサが立てた人差し指を左右に振りながら値段を教えてくれた。


「2桁足りないです」


「は?」


「3億」


「は?」


「3億でしたー!」


「ええええええええええええええええええ!?」


 まじでびっくりした。たかだか絵にねえ。俺だったら、3億あったら絵なんて買わずにニートしちゃうね。


「あれにそんなに価値があるの?」


「やっぱり、大賞のはくなんじゃない? あと、帝都でも超有名なソルタージュさんが『芸術の奇跡』なんて評価しちゃったんだからね」


 芸術の奇跡ねえ……さすがに言いすぎじゃないかな。……まあ、『黒竜の牙』としては商品なわけだから、それくらい言わないとダメなのかもしれないが。


「誰が買ったの?」


「えーとね、帝王ゾロスさま」


「ぶふぉっ」


 帝王かよ。この国のトップじゃねーか。まさか、あの絵がそんなところまで届くなんてねー……。

 あの絵が帝王の居室に飾られるのか。俺的には悪くない絵とは思うのだが、主観を排して言わせてもらうと、さすがに呪われるんじゃないか?

 アリサがにやりと笑った。


「お兄ちゃん、冒険者なんて廃業してさ、画家になったらどう? 似ている絵が描けるんだからワンチャンあるかもよ?」


 うーん……どうなんだろうな。

 俺の画風が、受ける時代が来たんだろうか。ついに時代が俺に追い付いたんだろうか? であれば、これほど嬉しいことはないが。

 だけど、学生時代の苦い――己を偽った記憶が強いのであんまり気分は乗らないな……。

 考え事をしている俺に、さらにアリサが言葉を重ねてきた。


「似ている絵って言うかさ、やっぱりあの絵、お兄ちゃんのやつじゃないの?」


「ん? 応募してないから違うって話だったよな?」


「そうだけどさー……でも、あのキモい絵が偶然かぶるってない気がするんだよね。あんなの、どう考えてもオンリーワンだよ」


「今、キモいって言った?」


「あの日さ、同じ会場で審査をするって言ってたよね? 何かの拍子でお兄ちゃんの絵が審査会場に紛れ込んだ――って可能性はあるんじゃないかな?」


 ……何かの拍子ねえ……。

 まあ、偶然の存在を考慮していいのなら、なくはない気もするんだけど。

 さすがにご都合主義すぎる。


「どうだろう……でも、それだと大変なことになるぞ」


「え? どういう意味?」


 ぽかんとした表情のアリサに、俺はこう言った。


「あの絵のタイトルはさ、『空白』って言うんだよね」


 3億で帝王が落札した?

 かなり笑えない冗談になるんだけど――まあ、なんて言いつつも俺の絵じゃないってオチだろうから大丈夫かな。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 黒竜の牙の黒はブラック企業的な意味なのだろうか……
[良い点] 今回の話は、凡人では理解できない天才の展開ですな。 普通に絵を描いて、自分の絵とは気づかずにそれが、大賞になる。 天才を理解するのは難しい~。 [気になる点] 俺が描いた絵にとてもよく似た…
[良い点] そっかー。アリサちゃんの絵を書き直したら分からない感じになったのかー。それはやむ無し。 [気になる点] 帝王って、称号であって身分ではないのでは…?それともそう言う異名の人…? [一言] …
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