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短編

婚約破棄も一つの余興です

作者: 媛乃 暁姫

「テンプレ」

ありきたり型通り・物事が決まりきっていて面白みに欠けることを指す場合もあります。



「あら?」

 ふと感じた既視感に思わず足を止めた。

 この光景を知っている。

 周囲の話す言葉さえも先に理解していた。

「あらあら⋯⋯成る程」

 確かに自分は知っている。

 初めて見る顔なのに、名前やその人のパーソナルデータが頭の中に弾き出される。

(これ私が読んでいた小説よね?)

 主人公である虐げられ下位貴族のヒロインが、イケメン高位貴族に見初められ、数々の困難を乗り越えて幸せになるお話。

 そして私は困難な壁その1。

 イケメン高位貴族の一応婚約者。

 ーーうん、テンプレね。

 つかもう、ありきたり過ぎてつまらない。

 別に政略に毛が生えたような婚約だし?

 お相手のことが死ぬほど好きかと聞かれたら「微妙」としか答えられないし?

 たまたまお父様のお友達の息子さんで、たまたま歳が近くて、たまたま家格も合っていたってだけ。

 何かするのも面倒くさいし、これは婚約者から徐々にフェードアウトするのが得策かしら?

 物語の悪役令嬢って、もの凄いパワー持ってると思うのよ。

 ヒロインとヒーローのストーカーかよ!って、いつも思ってたわ〜。

 生憎私にはそんな情熱も暇もない。

 そんなことしてるなら、ぬくぬくのお布団の中で本でも読んでいたい。

 超絶面倒だわ〜どうせ後々冤罪とかで断罪されるだけだし〜って、某玉子キャラみたいにやる気ないわ〜。

 つーか、勝手に人を障害物扱いしないで欲しいわ。

 こういう話って、なんで普通に話し合いで婚約破棄しないのかしらね?

 破棄でも白紙でも解消でもいいけど、わざわざ目立ってまで自分の浮気の主張する意味が分からない。

 好きな人が出来て、その人と添い遂げたいと思うならば、まずは親に相談した上で、相手に話を持って行くものじゃない?

 なに勝手に人巻き込んで悲劇の主人公気取ってやがんだ。

 やるなら二人だけでやれや⋯⋯。

 恋愛すると脳みそお花畑になって、頭悪くなるっておかしくない?

 たとえ短い期間でも、婚約者として接して、相手のこと大体理解できてるはずなのに、色々なことすっ飛ばすって⋯⋯もう愚かの極みでしょ?

 衆人観衆の前で堂々と浮気暴露した挙句に、冤罪をふっかけ、さも自分は婚約者に執着されていたかのような寝言をほざく。

 全く何様だテメェ⋯⋯阿呆なの?

 誠意もない相手に執着なんかしないわよ。

 時間の無駄だもの。

 ーーでもまぁ⋯⋯予防線だけはキッチリ張っておきましょうかね。



「パトリシア・アーヴィレント!」

 学園のプロムで、声高に私の名を叫ぶ阿呆⋯⋯もとい浮気男のヴリュークス公爵子息。

 つか、せっかく友人達と楽しくスイーツ食べてたのに、お前都合で呼ぶなよ。空気読めよ。

 しかも人のこと呼び捨てとか、マジで爆死しろ。

 友人達が白けた目で浮気男を見てるじゃん。

 他の方々はちょっとワクワクしてるみたいだけど。

 あー面倒⋯⋯このままシカトしててもいいかしら?

 私の視界に王太子殿下とその婚約者様が入る。

 ーーちょっ、二人共!笑いを堪えるのは止めて下さいよ。今バレたら面白くないでしょうよ。

 殿下は私に気付くと、視線で「早く行け」とおっしゃる⋯⋯。

 え〜アレの相手するの面倒〜。

 イヤ〜な顔をすると、二人共小さく吹き出してから私を促した。

 しぶしぶ私は前に出る。

「呼んだらすぐ来いパトリシア!」

 はぁぁぁン!?

 何偉そうに抜かしてんだ、このモラハラ浮気野郎。

「⋯⋯何か?」

 怒りを押さえ、なるべく平坦になるように問いかけた。

 静まり返る周囲に何とも思わないのか、モラハラクソ浮気野郎は偉そうに上から目線で告げた。

「貴様との婚約を破棄してやる!」

 はぁ、そうですか〜としか思わない。あ、枝毛発見!

「俺の愛するミレニアを虐げ、嫌がらせばかりしていたお前に愛想も尽きた!」

 髪先が少し傷んできたな〜ちょっとカットしないと⋯⋯あとで侍女に頼もうっと。

「聞いてるのか、パトリシア!」

 お前なんかの話より、枝毛の方が大事だわ。

「聞く意味ないんで聞いてませんけど、何か?」

「え?はぁ?」

「そもそも婚約なんて、とっくの前に白紙撤回されてますけど?」

「ーーはぁ?いつ!?」

「浮気クソ野郎がそこの尻軽寝取り女とイチャコラしだした時に?」

「う、浮気クソ野郎だと⋯⋯」

「え?わたしが尻軽寝取り女?」

「大体半年以上前くらいですかね〜証拠と証言を集めまくって、白紙撤回してもらいました」

 目撃情報過多でしたので、そりゃあもう余裕でしたよ。

「てか、この学園の9割の人が知ってますよ。純愛ぶってる浮気野郎と寝取り女の話」

 プッと何人かが吹き出した。

「な、何を⋯⋯」

「婚約者がいながら、他の女とイチャコラするのは浮気っつーんです。で、婚約者がいるのを知ってて近付いた女は、尻軽寝取り女と呼ばれて当たり前です」

「はぁ!?そんなの取られる方が悪いのよ!」

「うわ、態度悪!私に冤罪かけるくらいですもんね、性格ねじ曲がってますね」

「⋯⋯え、冤罪?」

「婚約白紙撤回してるんですよ。何で嫌がらせなんてしなきゃいけないんです?」

 そんな暇じゃねぇわ。

「こんな晴れの日に自分の浮気を声高に叫んで、恥の上塗りしまくって、二人の知能大丈夫ですの?」

 ブフッ!と盛大に吹いたのは王太子殿下だ。

 おいコラ。早く助けんかい!

 何のために協力者にしたのか。今日のためなんだから、ちゃんと仕事して欲しいわ。

 ジロリと睨むと、殿下は笑いながら片手を挙げた。

「ヴリュークス公爵子息、パトリシア嬢の言ってることは本当だ。我々も証言者の一人だしな」

「殿下!?」

「そもそも君達が、常識を守っていれば良かっただけの話なのだけれどな」

 殿下が片手を挙げると、ヴリュークス公爵様が会場に入って来られた。

「えっ⋯⋯ち、父上!?」

「まさかとは思ってたが、本当にこんな馬鹿なマネをするとは⋯⋯パトリシア嬢、疑って申し訳なかった」

「ご自分のご子息のことですものね、信じたくなるのは仕方ありませんわ」

「パトリシア嬢の言うように、暫くは謹慎させ、心根を入れ替えさせるようにしよう」

「お願いいたしますねヴリュークス公爵様」

「父上!?」

「喧しい!今すぐ帰るんだ!」

 公爵様は息子を引きずって会場を後にして、取り残された寝取り女は、慌てて追うように逃げて行った。

「やれやれ⋯⋯本当にパトリシア嬢の言う通りになったな」

 殿下が笑いながら肩を竦めた。

「ホントしょーもない⋯⋯」

「まぁね⋯⋯彼もちゃんと常識と順番を守っていたら、こんな見世物にもならなかったのにね」

 阿呆くさくて笑いにしかならなかったわ。

「ところで殿下」

「何かな?」

「賭けの結果はどうでした?」

「えーと⋯⋯」

 可愛らしく首傾げても、私には効果ございませんよ。

「あとで婚約者様に叱られて下さいませ」

「えっ?パトリシア嬢?」

 さて、友人達と楽しくスイーツの続きでも食べようっと♪

 元婚約者のことを頭から追い出し、私は浮かれた足取りで友人達の元へと戻るのだった。


 ホント思い出した時に色々やっといて良かったわ〜。

 やっぱり根回しって必要よね。

 たとえこんなつまらない余興でもね。



 


 




私が書く女子はどうしても気が強い⋯⋯

(;ŏ﹏ŏ)

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