復讐の始まり
「お、お前……リック!? 生きてたのか……!?」
「なんでキミがこんな所に……」
「死んだんじゃなかったのかよテメェ!」
まさに三者三様。
目の前にいる俺に向かってランドレース、ヨークシャー、デュロックはそれぞれ声を上げた。
唯一後ろに控えているメイリスだけが、目をまん丸くして口をあわあわと震わせていた。
「何でこんなところにいるかは意味が分かんねぇが、お前は死んでなきゃいけない人間だ。悪いが通してもらうぜ……ぁあっ!!」
気丈に振る舞おうとするものの、デュロックの体力が既に底を突いていることは知っている。
それを隠そうとしている辺り、まだ少しばかりの虚勢を張る元気があるようだ。
大剣を重苦しそうに持ち上げるデュロック。
地を蹴り上げて大剣を振るう。
目指すは俺とその後方に据えられた水晶玉だろう。
「うぉぉぉぉああああああああ!!!」
大きく振りかぶって襲いかかってきたデュロックに向けて、俺は闇魔法を放つ。
「闇魔法――影縫い」
「ふぐぉ!?」
瞬間、デュロックは自分自身の影に縛られた。
デュロックの影がうねうねと動き、体に巻き付いていく。
影の先は鋭利な刃物と化してデュロックの首に切っ先を突き立てる。
身体は拘束されている。俺が指示を出せばすぐさま頭と身体は真っ二つだ。
「デ、デュロック! リック、何をしたんだ!?」
「リック、てめぇぇぇ!!」
「一人ずつやるから待ってろよ。せっかちな奴等だな」
俺は待ちきれず襲いかかろうとしてくるヨークシャーとランドレースにも影縫いを施した。
一度に3つもの魔法を同時展開することは不可能だったはずだが、なぜか今それが出来ている。
俺の中にも多少は燻っていたものがあったのかもしれないな。
まずはデュロックだ。
体力バカの大男。頭のことには女しかない。
所属していた時からずっとそうだった。
誰にでも出来る簡単な仕事だと散々バカにされてきた。
「聞くところによれば、もうAランクすらも陥落寸前なんだってね。俺の保険金で買った豪勢な装備で乗り込んできたことを考えれば、相当焦ってるみたいだ」
「……っ! クッソ……! こんな……こんなクソ邪魔な影さえ解ければテメェなんざ――!」
「多分無理だよ。今のデュロックの体力じゃ、到底ね」
ギギギと、まるで伸縮力の高いゴムのように伸び縮みするその影を力尽くで振りほどこうとするデュロック。
解けるか、解けないか辺りで絶妙に加減してあるから余計悔しいだろう。
俺はデュロックの頭にコツンと指を充てた。
体力自慢から体力を奪ったら、後は何が残るだろうか。
「闇魔法――減気の誓約」
俺が呟くと、黒くて深い闇の塊がデュロックの身体の中にゆっくり、ゆっくりと吸い込まれていく。
まるで彼の身体の体表面から何かを奪い去っていくかのように。
「……!? 何をした……!」
「さぁ。帰って鑑でも見て確かめてみると良いんじゃないかな。もうデュロックに用はないから帰ってもらうよ。闇魔法、魔王の一撃」
ヴンと音を立てて、デュロックの前に黒い球が現れた。
万物を吸い込む黒い球。
別に俺はデュロックを殺そうとまでは思わない。
やることは、少しだけ。
「そうそう、俺の金で買った装備、返してもらうから」
かぱっと、黒い球にデュロックが吸い込まれる寸前。
俺が出した闇の影は器用にデュロックの身体を弄りだしてその装備一式と武器の全てを剥ぎ取った。
デュロックはパンツ一丁のまま外に放り投げられたのだ。
『……あの、リックさん』
ふと、通信でディーナさんが呟いた。
『デュロックさんがダンジョンの外に強制送還されたようなのですが……最大体力値、筋力値ともに3000から1000という表記になっていた上にずいぶん痩せ細っているように見えたのですが、あれは――』
「体力自慢のデュロックから、体力と筋力を無くしただけだよ。死んだわけじゃない」
俺の眼光に、残る二人もぞわり鳥肌を立てているようだった。
「次はヨークシャー。魔法力自慢のキミから魔法を取っ払ってしまったら、何が残るんだろうね」
俺の復讐はまだ、始まったばかりだった。




