真骨頂
新型ダンジョンーアルテミスーの前に立っていたのは装備を心機一転した4人組のパーティー。
アーセナルリーダー、ランドレースは言う。
「最近できたばっかのこじんまりしたダンジョンしか宛がわれないようになった。だがオリハルコン級のSSランク装備を纏ってるなら心配もないだろう。さっさと攻略済ませて、Sランク昇格戦だ。行くぞ!」
リーダーに続いて、ヨークシャーとデュロックもダンジョンの入り口に足を踏み入れる。
「……メイリス! てめぇもさっさと来い。そのくらいの覚悟はしているだろう。お前はSSランク装備を唯一受け取らなかったんだからな。死んでも俺たちは責任取らねぇぞ」
頑丈な防具と屈強な武具に囲まれた3人をよそに、回復術師であり奴隷のメイリスだけは頑として新たな装備を受け取らなかった。
いつも通りの神杖と、いつも通りの聖職装で立ち向かった理由はただ一つだ。
メイリスはキッと目つきを鋭くしてランドレースをにらむ。
「リックさんを殺して出来たお金を使ってまで、強くなろうとは思いません……!」
反抗的な奴隷の態度に、ランドレースは舌打ちしながら手を広げた。
メイリスの首についた奴隷紋が光り輝く。
後はランドレースが魔法力を入れれば、身体に激しい電流が流れる仕組みだ。
だが、彼女の目に一切の怯みはない。
やるならやれ、そう決意を固めた彼女の瞳に、ランドレースは更なる苛立ちを覚えていた。
「……ちっ。こんな所で無駄な魔法力なんか使ってられっか。仕事はやってもらうぜ。お前が死んでも俺は知らんからな」
言い捨てるようにして、ランドレースはダンジョンへ続く道を向かう。
その後ろで、メイリスは少し悲しげな顔をしたままついていくのだった。
●●●
「リックさん。侵入者を確認しました。ダンジョンーアルテミスー、単純迷路を起動します」
このダンジョンの第一フロアは、単純な迷路である。
トラップもなければ隠しモンスターもない。
フロアボスであるディーナさんが、敵戦力の概要を完全に丸裸にするまでの時間稼ぎに過ぎないからだ。
半分が迷宮、半分がキッチンで埋め尽くされた第一フロアを器用に使いながらディーナさんは敵戦力の解析に取りかかり始めていた。
「……ディーナ・マリルーシャ。彼女のフロアボス適正は『超分析』だったわね。お手並み拝見ってところかしら」
第二フロアの中央で、水晶核に映し出された第一フロアの様子を見ながらアイシャは言う。
「フロアボスに付与される、ダンジョンからの特殊付与能力だったっけ。ディーナさんが相手の弱点を丸裸にして、2フロア前で俺たちが殲滅。こんな感じだな」
「弱点、ね。あやふやな項目だけど本当に役に立つのかしら……?」
俺とアイシャが水晶核を眺めると、ディーナさんからは次々と伝令が流れてくる。
『パーティー構成はご存じの通り、アーセナル4人組です。それぞれの装備状況とステータス数値を解析。モニターに出しますね』
そう言って水晶核の上に映し出された4人の顔とそれぞれのステータス。
「冒険者パーティー:アーセナル
ギルド登録ランク:A
リーダー:ランドレース
職業:魔剣士
階級:B+
体力:2300/2300
筋力:300/1800
魔法力:180/1400
装備:オリハルコン級《碧龍の鱗鎧》
オリハルコン級《不死鳥の翼魔剣》
所有物:4800ベル
ハイポーション×10
トラップブロッカー×8
メンバー:ヨークシャー
職業:魔法士
階級:B+
体力:1600/1600
筋力:1000/1000
魔法力:700/2600
装備:オリハルコン級《魔精霊の加護鎧》
オリハルコン級《ラバード精霊の魔法錫杖》
所有物:8000ベル
ハイポーション×10
MPポーション×18
メンバー:デュロック
職業:大剣士
階級:B+
体力:400/3000
筋力:3000/3000
魔法力:1000/1000
装備:オリハルコン級《邪龍の全身鎧》
オリハルコン級《邪龍牙剣》
所有物:無し
メンバー:メイリス
職業:回復術師
階級:B-
体力:1200/1200
魔法力:1500/1500
装備:中級《森精霊の聖服》
上中級《森精霊の加護神杖》
所有物:無し
備考:ランドレース所有奴隷
次々と送られてくる詳細なデータに付け加えて、ディーナさんは言う。
「気丈を装っていますが、デュロックさんは体力を、ヨークシャーさんは魔法力、ランドレースさんは筋力をそれぞれ喪失した状態でこのダンジョンに挑んできているようですね。デュロックさんは身体の付着物や意識状態からして寝不足、精力を落としていますから昨夜はお楽しみだったのでしょう。それも相当激しく。ヨークシャーさんは、鎧に魔法力を吸い取られ、ランドレースさんは過度の筋力トレーニングで消耗しているものと思われます。そちら側に行くまでにいくつか迷路拡張を施して各々の状態を極限まで下げておきます。弱った状態で叩けばすぐに殲滅出来るでしょう。アイシャちゃん、ダンジョンの状態変化を許可して下さい」
「分かったわ。第一フロア、あなたの好きなように使いなさい、ディーナ」
「ありがとうございます」
水晶核から消えたディーナさん。
彼女だけは絶対に敵にまわすまいと、深く心に刻んだ瞬間だった。




