第9話 エンカウントバトル
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本日は12時、18時の2回更新です。
セレンティア・サ・ガの世界では様々なマップが用意されており、全体マップを移動するとシナリオバトル以外にもランダムでエンカウントバトルが発生する。
時には人間や亜人の集団であったり、また時には魔物の群れと戦うことになる。
今回の戦いはそのようなものだとレクスは考えた。
スターナ村から王都までのマップから考えられるのはエルメム平原だ。
魔物の群れは北東の森から姿を現した。
「敵はフォレストウルフ6体、ゴブリン2体、ゴブリンメイジ1体だッ! フォレストウルフに連携させるなッ! 戦士たちは前へ。後衛は下がれッ!」
事態を素早く把握したガルガンダの迅速な命令が飛ぶ。
傭兵団のメンバーも指示に従い配置についていく。
流石に高ランクの傭兵団なだけあってその動きは洗練されていた。
「(ゲームだと勝利条件は護衛対象を護れ……ってとこか?)」
レクスの隣ではミレアが取り乱している。
学園でも魔物と触れる機会は限られているので実戦経験がほぼないと言ってもよい彼女が怯えるのも無理はない話だ。
「わわッ……魔物が多過ぎるよッ!」
「落ち着けミレア。全部Eランクの魔物だ。歴戦の傭兵が負けるはずないだろ?」
実際は王都周辺の魔物は常に間引き対象のため、強い魔物は出現しない。
そのため、ガルガンダはこの任務には入団したばかりの新人を多く連れて来ていた。とは言え、団長と副団長が率いているのだから苦戦する要素はない。
誰もがそう信じていた。
フォレストウルフが傭兵の1人に狙いを定めて包囲しようとするが、別の傭兵数人が邪魔に入る。後列からはパックアップとして弓使いが矢を番えて攻撃の準備をしているが、射線に仲間が入るので中々撃てずにいた。
ガルガンダは一応、剣は抜いているものの魔物が弱いと言うこともあって指揮に専念しており、大声を張り上げていた。副団長のレスタも同様だ。
ゴブリンには1対1で対応していたが、相対した新人の実力不足のせいか互角の戦いを繰り広げていた。
そこへ後方からゴブリンメイジが傭兵の1人に杖を向けて魔法を発動する。
「1stマジック【火炎矢】」
蛇のような火炎が傭兵に向かって伸びる。
魔法の発動を聞いてその傭兵と戦っていたゴブリンが右へ跳んだ。
世間では堕ちた妖精とは言われるものの、妖精の端くれなだけあって連携する頭脳は持っているのだ。新人が油断してもよい相手ではない。
その傭兵はまともに魔法を喰らい体が火に包まれる。
「うわぁぁぁ! 熱い! 熱いよぉぉぉ!」
「阿呆! そんな見え見えの連携に引っ掛かるなッ! 【アクアソード】!」
ガルガンダは叱咤と共に火だるまになりつつある仲間を助けるため魔法剣を発動する。ここには消火のために必要な大量の水などない。
魔法剣による遠距離発動で剣に込められた魔法を熱さで転げまわる傭兵に向けて発射し火を消すつもりなのだ。
虚空に大きな水球が出現し、重力に従って落ちる。
もちろん下にいるのは魔法をくらった傭兵だ。
ジュワッという音を残してまとわりついていた火が消える。
「回復させろッ!」
すかさずガルガンダの命令が飛ぶが、様子を見ていたゴブリンも好機とばかりに倒れ込んでいる傭兵の腹に剣を突き立てた。
「1stマジック【治癒】!」
傭兵とゴブリンの体が同時に光に包まれる。
レクスはそれを見て確信する。
「(効果範囲はゲームと同じ感じだな。敵にもちゃんとかかってる)」
それを見ていたガルガンダは流石にマズいと判断して助けに入るべくダッシュをかけた。
「チッ……」
一気に間合いを詰めると倒れる傭兵をいたぶるのに夢中になっていたゴブリンの首を一刀の元に斬って捨てた。
ゴブリンの頭が転がり、首からは噴水の如く鮮血がほとばしった。
そしてその勢いのままゴブリンメイジに迫る。
疾走するガルガンダの後ろでは倒れている傭兵に再び【治癒】がかけられてる。
「破ッ!!」
ゴブリンメイジとすれ違う瞬間、気合一閃、剣を横薙ぎに払うガルガンダ。
そこには首のなくなったゴブリンメイジの姿のみ。
「まったく……Eランクのゴブリン相手に苦戦するようじゃ先が思いやられるぜ」
血塗られた剣を肩にかけてガルガンダは不満げな表情でそう独り言ちる。
振り返った彼の目には、もう1人の傭兵がようやくゴブリンを倒す様子が映っていた。
一方、フォレストウルフを相手にしていた傭兵たちも鋭い牙や爪による噛み付きや引っ掻き攻撃を受けて苦戦していた。
しかも一撃離脱の波状攻撃である。
今度はレスタが舌打ちをする番であった。
すぐに混乱している傭兵たちとフォレストウルフとの間に乱入したレスタが剣を振るう。
「騎士剣技を使うまでもないッ!」
そう叫ぶと俊敏な動きであっと言う間に2体を葬り去った。
そこへ弓使いから放たれた矢が上手くフォレストウルフの心臓付近に突き刺さると、その個体はふらりとふらつくとバタリとその場に倒れ伏した。
「あと3体ッ! 囲んで倒せッ!」
一気に3体を倒したことに士気が上がった傭兵たちが仕返しとばかりに残ったフォレストウルフに殺到する。馬車の中から様子を窺っていたレクスであったがいらぬ心配だったかと見守ることに決めた。
そこからは速かった。
傭兵たちが傷を負ってはいるものの、多勢に無勢では流石のフォレストウルフも勝ち目はなく2体が倒され残りの1体が逃走を図る。手負いながらもあっと言う間に森の方角へ向かい逃げ去っていった。
場を支配していた緊張感が解ける。
しかしその弛緩した空気も一瞬の事であった。
ガルガンダの大音声が辺りに響き渡る。
「気を抜くんじゃねェ!! 光魔導士はすぐに怪我人を回復させろッ! 周囲の警戒を怠るなッ!」
傭兵たちが慌ただしく動き出す中、レクスは馬車から降りて未だ抜き身の剣をぶら下げたままのレスタに話しかけた。
「レスタさんの職業は騎士だったんですね。すごく強かったです」
「ん? 私なんてまだまださ。騎士と言っても大した者でもないし、団長の方が強いから精進しないとね」
ようやく表情が緩み剣を鞘に収めるレスタ。
レクスは従騎士レベル2まで熟練度が上がっているので戦士と剣士に職業変更できるようになっている。
騎士になるには戦士レベル2まで上げる必要があるので早く熟練度を稼いで条件を満たしたいところだ。そうすればレクスも騎士の能力である『騎士剣技』を覚えることが可能になる。
そこへガルガンダが不満そうな顔をしながら歩いてきた。
「やれやれ……新兵ばかりにしてもちとお粗末な戦いだったんだぜ」
「あ、団長お疲れ様です。確かに褒められたものではありませんでしたね……」
2人が真面目な顔をして話し始めた時、周囲を窺っていた傭兵が大声を上げた。
「ほ、北東方面から何か近づいてきます! 恐らく魔物です! 魔物1体!」
一斉に視線が動いた。
レクスも釣られて目をやると、そこには翼を持った巨体の獅子が近づいてくるのが見えた。
「チッ……なんで気付かなかった……」
「あれは……メラルガンド?」
当然の如く心当たりのあったレクスがその魔物の名を口にするとガルガンダの顔付きが一変した。
「グルァァァァァァ!!」
空気を震わせる程の咆哮が明確な敵意を持って叩きつけられる。
たった一鳴きで商人や御者たちが恐慌状態に陥っている。
傭兵の中にも腰が抜けている者がいるようだ。
「何故、Cランクの魔物がこんな所にいるッ……」
メラルガンドは2枚の悪魔のような翼を持つ獅子のような魔物で、たてがみが蛇のようになっている。額には大きな魔核があり、顔から大蛇が生えているようなものを想像してもらえればよいだろう。
性格は非常に好戦的かつ獰猛。とてもじゃないがEランクに苦戦していた傭兵たちには荷が重すぎる相手だ。
「覚悟を決めろ野郎共ッ! 弓兵、矢を放てェッ!」
指示通りメラルガンドに向かって矢が雨のように降り注ぐ。
しかしそれはほんの少しの痛痒も与えていないようだ。
「ミレアは馬車に隠れてろッ!」
「レ、レクスはどうするのッ!?」
「決まってるだろ? 戦うんだよ!」
有無を言わせない言葉とその迫力にミレアはそれ以上の言葉を飲み込んだ。
レクスは自分が戦闘に加わらないとマズいことになると判断し、心に念じて従騎士から戦士へと職業変更を果たす。
得物のバスタードソードを抜き放ち、精神統一するように目を閉じると大きく息を吐き出した。
「よし」
覚悟は決まった。
「レクス、オメェは下がってろ」
「そうですよ。護衛するのが我々の任務です」
そう言われてはいそうですか、と簡単に引き下がる訳にはいかない。
恐らく傭兵たちでは手も足も出ないと思われ、待っているのは一方的な蹂躙だけだろう。メラルガンドは完全に戦闘態勢に入っており、いつ襲い掛かって来てもおかしくない状況である。
「全員でかからないと勝てませんよ」
レクスの判断は正しいとも言えるが間違っている。
自身もよく理解していた。全員で力を合わせても勝てないだろうと言うことを。
しかし足掻くしかない。足掻くしかないのだ。
「ガルァァァァァァ!!」
メラルガンドの大気を震わす咆哮が戦闘開始の狼煙となった。
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