第30話 探求者昇級試験・対特別変異個体戦
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とうとう探求者昇級試験の日がやってきた。
ブラマダンテの顔は先日よりも何処か精悍で気合がみなぎっているように見える。そして出会い頭に一言かましてくる。
「逃げ出さずに来たようね。褒めてあげるわ!」
「それはこっちのセリフなんですが……ま、昇級試験頑張りましょう」
「今日は昇級試験に合格するために来たんじゃない。私は勝利しに来たの!」
先日レクスが話した時とは雰囲気も口調も違っている。
こちらが地だと言うことだろう。
可憐で清楚なモントーバン家の後継者の本当の姿は好戦的で自由闊達な性格であるようだ。とは言え、それは知っていたことなので驚きはない。
「では行きましょう」
昇級試験は絶対魔力障壁の魔導具が設置された戦闘部屋で行われる。
目的を伝えるとその部屋へと誘導される。
重厚な両開きの扉を開けて中に入ると、そでに何人もの探求者たちが試験を今や遅しと待っていた。
部屋の中央には四角い結界に封印されたナニカ。
つまりあれが特別変異個体(思念体兵器)である。
今は結界の中で球体の形状になっており、まるで解放される瞬間を静かに待っているようだ。あれと相対するとその相手を倒すべき敵と認識して形状が変わり、相手の実力以上の力を持った個体となる。
特別変異個体は本当は強力な者をコピーしてその姿を維持させてたまま、古代人たちの戦力として敵と戦わせるなどに使われていたらしい。
実力以上とは言っても、実際にどこまで実力がコピーされるかだが……。
ブラダマンテの潜在能力まで入れた場合、恐らく相当な強さを持つ個体ができるはずだ。
それに気になるのは魔神化した個体に殺されると言うことである。
取り込まれて殺人マシーンと化すらしいので、それだけは阻止しなければならない。もちろんレクスは彼女を死なせるつもりなど毛頭ない。
室内には既に試験官のギルド職員――腕利きの元探求者の姿も見える。
それに結界士も複数待機している状況だ。
やがて所定の時刻になったようで試験官たちが動き出した。
受験者たちは集合させられて試験の内容が説明される。
等級アップには任務達成などの貢献度だけではく、相応の強さが求められる。
其れ故の今日の試験なのだ。
そして1人目の挑戦者が緊張気味に闘技場の中央に進み、特別変異個体の封印が解かれる。すると見る見る内にその姿を変え、相対する探求者と同じ様な形状になった。
他の挑戦者たちは闘技場を囲む塀の外で思い思いに試合の様子を眺めている。
「(あんな感じで変化するのか。武器まで模倣してるぞ?)」
「ふぅん……ああなるのね。まさに自分との戦いって感じね」
知らないのはゴールド級になってから、探求者に失望して昇級試験を受けずに来たから。
彼女にとって初めての試験なのだ。
ちなみにレクスはアイアン級――もうすぐシルバー級に昇級できそう――なので挑戦権はない。
ただの付添と見学と言う理由で入れてもらった。
それだけ探求者ギルドには特別変異個体を制御していると言う自信と絶対魔力障壁への信頼があるのだ。レクスに言わせれば、それらについての解析・研究があまり進んでいないことを意味するのだが。
戦いは中々に伯仲していた。
よくよく観察してみるとやはり個体の方が押しているようなので設定に偽りなしと言うことだ。探求者も負けじと不意打ちで『剣技』を出したり攻撃に緩急を付けたりと工夫しているが、それに何とかと言ったところ。
結局、スタミナ切れで探求者は負けを宣言して試験は終わった。
「どうでした? 多分、貴女が相手だと敵さんはかなり強くなりますけど」
「愚問ね。相手にとって不足なしだわ」
落ち着いたのか表情こそ読みにくいが、何処か覇気のようなものが感じられる。
幼少期からずっと渇望していたものが得られるかも知れないと言う期待がそこにはあった。
そしてブラダマンテの順番がやってきた。
彼女はこの世に生を受けて初めてと言っていいほどのワクワクと興奮を味わっていた。胸は高鳴り、後継者になった時などとは比べものにならないほど。
後はレクスの言葉が真実であるかだけ。
彼女は場の雰囲気さえも味わうように闘技場の中央へゆっくりと足を運ぶ。
大丈夫だ。
私は負けない。
そう言い聞かせる。
当然勝つつもりだが、強敵と戦えるのならばここで散っても後悔はない。
むしろ、期待が裏切られることこそが彼女が尤も恐れること。
しばしの刻、瞑目した彼女は意を決したかのように彼女が愛刀――風雅風月を抜き放つ。
特別変異個体が脈動を始めた。
どくどくと波を打ち鼓動のように増々それは強くなっていく。
それはブラダマンテのような形に収束する――はずだった。
気付いたのは試験官の1人だった。
形状変化がいつもより遅い。
それに明らかに巨大化している。
彼が異変を伝えようとする頃には、特異な現象に気付き始めた者たちの騒めきが大きくなり始めていた。
試験官が結界士に結界を張るよう指示を出すと大声で叫ぶ。
「特別変異個体に異常あり! 試験は中止! 中止だ! すぐに部屋から出るんだッ!!」
「なんてヤツ? 殺意の波動が伝わってくるわね……何よあいつの言う通りじゃない!」
言葉から緊張が伝わる反面、彼女の表情からは歓喜が。
彼女は笑っていた。
最早、目の前にあったナニカは天使の如き黒い2枚の翼を持った魔神の形態に変態していた。
「ほら、あなたも避難しなさい!」
「いやですよ」
「は……?」
断られるとは思ってもいなかった試験官の口から間の抜けた声が漏れる。
既に試験参加者でさえ、その力を感じ取って恐怖に怯えている中でこの娘は何と言ったのか。
「こんなのと戦える機会なんてない。今戦わずしていつ戦うと言うの? 逃げるなら死んだ方がマシ!」
魔神が微動だにせずに攻撃を仕掛けてこないのを舐められていると感じたブラダマンテが動く。
ゆらりと揺らめいたと思うと次の瞬間、魔神の背後に回っていた。
そして刀を上段から一閃しその体を大きく傷つける。
速い――速過ぎる――
初撃でその実力の片鱗を見せつけてくる。
それで終わらないのが彼女の受け継ぎし残夢疾風流の本質。
連撃。連撃。連撃。
終わらない。止まらない。留まるところを知らない。
小さな体に一体どれだけの力を秘めているのか推し測ることもできない流麗な動作。
実力の片鱗?
それは嘘だ。
一端すら見えない。
想像していた上の更に遥か彼方に本質がある。
レクスはここまでのものかと驚愕を通り越して呆気に取られていた。
「いずれ剣王超えるだろ……これ」
助けに入るのは確定事項だと思っていたが何とかなるのでは?
そう思わせられるほど。
「URYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYY!!」
魔神の叫びが闘技場に木霊するが、彼女はまるで気にしない。
ダメージが入っているかなど分からない相手に手を緩めると言う選択肢などないのだ。
「【落花流水】」
剣豪の『奥義』が流れるように決まる。
その動き1つ1つに意味がある。
それが良く理解できるお手本のような動作だ。
「剣でここまで至れるのか……レイリアもまだまだ底が見えないってことだな。まだまだ俺は強くなれる!」
しかし魔神もやられる一方ではなかったようだ。
全身から全方位に向けて衝撃波が放たれる。
それは彼女の動きすら一瞬止めるものだった。
「GURUUUUUUUUUUUUU!!」
「ハッ!!」
魔力の乗った神速の右拳が彼女に迫るが気合一閃それを弾き返す。
空中で受けたため流石に相殺できずに後方へと飛ばされる。
魔神は空中で身動きが取れない彼女へ向けて、強大な闇の奔流を放った。
「【天駆】」
まともに喰らうかに見えた魔力の塊を空中を蹴って躱すと地面に着地。
一瞬で身を翻して魔神の懐へ飛び込んだ。
まさに計算され尽くしている。
どんな攻撃が来たらどのように対処するのか全てがその身に叩き込まれているのだ。
「【牙突】」
更に加速された刺突攻撃は放たれた光の矢の如し。
一筋の牙となって敵の奥深くまで潜り込む。
「URAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」
人間で言う心臓付近をまともに貫かれ絶叫を上げる魔神。
まぁ魔神は心臓を壊しても死なないんだけどね。
手応えがなかったのか、すぐに距離を取ろうとしたブラダマンテだったが、一瞬の差で捕まってしまう。
思いきり抱き締められる格好だ。
「ぐぎぎぎぎぎ……」
魔神がどんどん力を強めて締め上げていっているのだろう。
彼女の口からは必死に耐える声が漏れ出していた。
あのままでは口が開けない。
と言うことは太古の言語により発動する『奥義』が封じられることを意味する。
「この辺が限界か……プラダマンテッ! 介入するぞ!」
「シッ! パァッ!!」
短い呼気を一気に吐き出し、瞬間的に爆発的な力を生み出したことで魔神の腕が緩んだ。彼女はその体を蹴りつけ大きく距離を取る。
「はぁはぁ…ふぅ……残夢疾風流の奥義を舐めないことね」
太古の言語と言う神の力とも言うべきものに頼らず磨き抜いた技で困難を跳ね除ける。
これが神のなせる業と言わずしてどう言えばいいのか。
レクスの顔が自然に笑むが、冷や汗が止まらない。
しかしレクスが準備を怠ることはない。
結界士たちに話を持ち掛けると自身は魔力を練成しつつ、剣にも魔力を貯め始めた。
一度は追い込まれたものの相変わらず戦況はプラダマンテが優勢。
これが剣を極めし者が行く道。
修羅の道を行かんとする者の本質。
ありがとうございました。
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