第7話 リリスのお祝い
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本日は12時10分、18時10分の2回更新です。
結果として狩りの首尾は上々であった。
ワイルドボア2匹と大きなデシディアとアルバレプスが捕れたのだ。
見た目としてはワイルドボアは猪、デシディアは鹿、アルバレプスは兎である。
テッドとリリアナが捌くところを見学していたが、聞いていた通り魔核は存在しなかった。
リンクスの魔核はレクスが初めて魔物を倒した記念としてもらっておいた。
魔物と違って獣はそこまで好戦的ではない。
捕まえるのも剣では結構難易度が高いと言えよう。
ここではレクスの魔法が非常に役に立った。もちろん悪い気はしない。
王立学園魔導科に在籍している意義を強く感じる。
リリスの聖騎士就職記念パーティーはレクスの幼馴染で、家同士仲の良いミレアの家族と豹族の獣人のカインも呼んで行われた。
村の顔役なだけあってガルヴィッシュ家はそれなりの広さを誇る。
レクスの家族とミレア、その弟のロラン、父親のダイセル、母親のミュゼ、そしてカインの9人がテーブルを囲んでも十分なのだ。
「いよぉー来たぜ、テッド」
スキンヘッドで強面のダイゼルが手を挙げてテッドに挨拶しながら玄関から広間に入ってきた。後ろにはミュゼとミレア、ロランがついてきている。カインも一緒だ。ダイゼルは持ってきた酒をリリアナに手渡しつつ豪華な料理が並んだテーブルを見て歓喜の声を上げた。
「うおッ……こいつは豪勢な食事だな」
「ああ、レクスが仕留めたんだぜ」
テッドが嬉しそうに顔を綻ばせながら自慢げに話す。
すると、それを聞いておったまげたロランが驚愕して声を上げた。
「すげぇ~! 兄ちゃん、すげぇ~! マジパね~!」
「ロラン、言葉使い!」
「確かにたいしたモンだ」
すかさずミュゼの叱責とダイゼルの感嘆の声が飛ぶ。
「大したことはありません。父さんに助けてもらって何とか狩れましたよ」
「まったくレクスは大人びた話し方をするなぁ……。それにどこか変わった感じがする。でも子供らしくないぞ! もっと気軽にしゃべってもいいんだぞ?」
「レクスすご~い! 私も狩りに連れてってくれたらよかったのに!」
ミレアも目を丸くして感心したように同調している。
「お前にはまだ早い。剣も使えるレクスだから狩りが出来るんだぞ?」
「は~い……」
ダイゼルにそう言われて一転、ミレアがしゅんとした表情になる。
幼馴染だけあってレクスのくっつき虫なミレアとしては寂しいのだ。
「テッドさん、俺まで呼んでもらってありがとうございます」
丁寧に感謝の言葉を述べたのはカインであった。
森で怪我をしていたところを保護したのはテッドだ。
人間至上主義のグラエキア王国は獣人が住むには優しくない。
しかし不憫に思ったテッドはこっそりとカインを村に留まらせた。
そんなカインであるから就職の儀は受けておらず、職業は不明だ。
ステータスだけは見られるらしいが文字が読めないらしい。
「気にするな、カイン。お前も村の一員なんだからな!」
「はい!」
初めこそ村に馴染めなかったカインだが、最近は大分打ち解けられるようになっている。テッドのとりなしもあって村人たちから差別を受けることもなかったため屈折することなく成長している。見られなかった笑顔を見せるようにもなっていた。
「では、リリスの聖騎士就職のお祝いを始める! 皆、存分に食べて飲んでくれ!」
「遠慮は不要よ?」
宴会が始まった。
リリスへのお祝いの言葉もそこそこに、大人たちは早速、料理を肴に酒を飲み始める。子供たちは育ちざかりなだけあって料理にのびる手が止まらない。
「レクスはいつ王都へ戻るんだ?」
「あー明日か明後日には村を発つ予定だよ」
「私も~」
王立学園の春休みももう終わりだ。
レクスとしては村の守護者であるテッドのように将来は村を守るべく帰郷するものと考えていたが、この世界に転生する時に聞いた付喪神の声、
『この世界には貴方の力が必要です……』
が気になっていた。
ゲームのモブに生まれたとは言え、もしも巻き込まれるなら王立学園の中等部に進学することも考えなくてはいけないし、魔法一辺倒でもいけない。
昨日、テッドが言っていたように王都で剣王レイリアに稽古をつけてもらうことは非常に有意義なはずである。
「リリス、ちゃんと剣の稽古をするんだぞ? 魔力操作もな」
「分かってるってば、お兄」
現在の暦は聖グローリア暦1328年4月と思われる。
恐らくこの1年の間には歴史が動き出すはずだ。
となれば、聖騎士であるリリスもその波に飲み込まれる可能性は十分にある。
いや、リリスのみならずミレアやカイン、ロランもその可能性に漏れない。
「僕は来年、就職の儀なんだ~。楽しみ楽しみ! 早く来年にならないかな~」
「ロランは何になりたいの~?」
「僕はね~忍者になりたい! ニンニン!」
「(やっぱり忍者はニンニンなんだな……拙者はこれにて~ドロン!ってか)」
料理を食べながらも皆の会話に耳を傾けるレクス。
大人たちの会話も自然と耳に入ってくる。
カインは食べるのに夢中で、リリスたちはお喋りが止まらないので誰も聞いていない。
「へぇ……最近は魔物が増えてんのか」
「ああ、低ランクだから今は大丈夫だが……いざとなればロードス子爵に頼る必要があるだろうな」
「まぁ村に騎士はいねぇが狩人や戦士はいる。困ったら皆に頼れよ?」
「分かっている。その時は頼む。だが気になるのは魔物の活性化の原因だ。もしかしたら伝説の漆黒神が……」
「あれはお伽噺だろ?」
「それを言ったら古代神だってそうかも知れんだろ」
「まぁな……」
レクスは黙々と料理に手をのばしながら大人たちの言うことに考えを巡らせていた。ゲームに漆黒神の名は登場すれど、主人公たちが実際に戦うのは漆黒天使や漆黒竜である。
ローグ公爵家に仕える貴族、イヴェール伯爵家の四男ガイネルが仲間と共に裏で暗躍する貴族や宗教勢力を打倒する。
所謂、裏の歴史と言うヤツである。
そもそものストーリーは古代に存在したガーレ帝國の皇帝ヴァハが虚界から現れた漆黒竜ガルムフィーネと血の盟約を結び、その身に宝珠を宿らせた。
皇帝自身の力と帝國の武力の前に世界は次々と屈し、人々は聖地リベラに追い詰められた。彼らは絶対神と伝えられるロギアジークに祈りを捧げたがその願いは受け入れられなかった。
代わりに後に聖人と崇められる聖イドラは虚界から黄金竜アウラナーガと古代竜たちを召喚した。古代竜はその血を宝珠に変えて英雄たちに宿り、その身を聖なる武器へと変えて彼らに与えた。
彼らは皇帝ヴァハを倒してガーレ帝國を打倒し、後に12使徒と呼ばれるようになった。目的を果たした12使徒は各地に散り、国家を建設し現在の世界の元となったとされている。
現在のグラエキア王国のカルナック王家や公爵家は、その子孫とされ宝珠をその身に宿し古代竜の力を持っており、他の国家にもその力を宿す者が存在している。
「(一応、動乱前に予兆はあったんだな。だけど魔物の活性化の原因が分からない。まぁ注意はしておくか)」
「――クス! ――ねぇレクスったら!」
これからのことについて考え込んでいたレクスにその声にハッと我に返った。
ふと顔を上げると隣に座っていたミレアが心配そうにレクスの顔を覗きこんでいる。
「なんか変な顔してたよ~。何かあったの~?」
「なんだよ変な顔って……。少し考え事をしてただけだ」
「む~なんかレクス、感じ変わった気がする~」
「ええ……そんなことないやろ……」
そうは言いつつもレクスとしては中々自分自身を客観視できない。
変わったと言われてもどこが?としか言いようがなかった。
「やっぱり倒れたせいじゃないの~」
「うーん。じゃあ、そのせいかも知れないな」
ミレアの言葉だけではよく分からないのでごまかしつつ話題を変える。
「それより、学校始まるぞ。早く色んな魔法を覚えないとな」
「そう言われると憂鬱になるよ~」
テーブルに突っ伏すと青みがかったふわふわの銀髪がさらりと垂れる。
「魔法と言えば、俺にも光魔法の魔法陣教えてくれないか?」
「え~光魔法? なんで~?」
「ああ、覚えておいて損はないだろ?」
今後のことを考えれば光魔導士にも職業変更する必要がある。
様々な職業になる条件を満たすためにも。
村でのんびり暮らすにせよ、ストーリーに巻き込まれるにせよ強くなることは必須条件だ。
いざとなればミレアの強化も視野に入れようと思うレクスであった。
もし職業変更を目指すにしてもそれには転職士が必要なのだが。
そして夜は更けてゆく。
ありがとうございました!
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明日も2話更新します。




