第12話 ドレスデン連合王国、動く!
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ドレスデン連合王国の賢王と呼ばれたリューディガーが死んだ。
突然死――急に吐血して倒れたかと思うと、そのまま意識が戻ることなくたった1日で逝ってしまった。
原因は不明。
後継者となったのは第1王子のセドリック・ダルグ・ドレスデンだ。
彼は父親の1ヵ月の喪が明けるのも待たずに、グラエキア王国侵攻の大号令を発した。
その決断に各王家の過半数がセドリック新王の支持を表明。
侵攻に反対する者もいたが、支持者の多さに誰も動けずにいた。
ガリオン王家のジークハルトもその1人であったが――
各王家が軍備を始める中、既に攻め込む準備を整えていたフェリア王家のヘアーツは、一二○○○の軍を率いて先行しロンメル男爵領メノッサへと迫った。
―――
「まさかリューディガー王陛下が身罷られるとは……何とか新王陛下にはご再考頂かねばならん」
何とかこの無益な戦争を止めさせるべく、ジークハルトは王都ドレスデンへの出立の準備を急いでいた。
とにかく思い留まらせなければならない。
軍備が完了するまで1ヵ月……いや侵攻賛成派は既に準備を始めていたかも知れない。
そう考えると説得のための猶予は数週間しかないだろう。
そこへ側近のレイクがノックもせずに部屋へと飛び込んできた。
余程のことがあったのか、凄い形相をしている。
「ジークハルト陛下! 申し上げます!」
「何事だッ!?」
「は、フェリア王家軍、約一二○○○がロンメル領へ攻め込んだとのこと!」
「何ッ……!?」
流石に速過ぎる!
このまま王都へ向かえば、ロンメル領が蹂躙されるのは確実であった。
下手をすればファドラの地まで侵攻されてしまうだろう。
ロストス王国へ攻め込んでいるユベール軍は南北で挟まれて身動きができなくなってしまう。
使徒の血が強いユベールなので早々死ぬことはないかも知れないが、他王家の軍がロンメル領に雪崩れ込めば苦境に立たされる。
万が一決戦になれば、ユベール軍の壊滅は必至。
「ジークハルト様……」
「フォセットか……心配することはない。俺が……俺が何とかする……!」
心配そうに縋るような目を向けるのは、ファドラ公爵家第1公女――ユベールの姉である。
その真っ黒な瞳が不安で揺れている。
ジークハルトはそう言いながらも、どう動くべきか悩んでいた。
ドレスデン王家には大昔に助けてもらってから、代々恩を受けて来た。
忘恩の徒にだけはなりたくないと言う信念がある。
新王セドリックを盛り立てていかねばならないと言う思いをジークハルトは持っていた。
それでもファドラ公爵家を見捨てることなどできようはずもない。
そこへ高く凛とした声が室内に響いた。
「お兄様! 何を迷っておられるのです! すぐにフェリア王家の後を追うべきですわ!」
声の主へ視線を向けると、そこにはジークハルトに似た金髪で意志の強そうな瞳を持った女性が佇んでいた。
「ファナールか、俺に王国を割れと言うのか? 内乱になるのだぞ!」
ファナールの考えは単純だろう。
義姉、つまりフォセットの実家であるファドラ公爵家を護りたい。
ただそれだけだ。
「民のことも考えず、我欲のためのみに動く者たちなどどうでも良いではありませんか!」
「そうは言うがな……いや、そう……そうだ。俺にはユベールを見捨てることはできん」
確かにファナールの言う通りなのだ。
妻のフォセットにも顔向けが出来ないだろう。
ジークハルトの脳裏にはロストス王国へ攻め込む前に会ったユベールとの会話が過っていた
―――
――
―
ロンメル男爵領のメリッサにユベール軍が集結していた。
1度は蹂躙された地を奪還した後、ロストス王国領へ逆侵攻しようとしていたのである。
そんな中、ジークハルトはユベールに会いにメノッサの街を訪れた。
「これは! 義兄上ではございませんか!」
応接室にジークハルトを招き入れて歓迎の意を示すユベール。
久しぶりの再会にその表情は、喜びに満ち溢れていた。
ユベールはワインを開けて、ジークハルトとの再会を喜び合った。
「態々お越しとはどうなされたのです?」
「久しぶりだな、ユベール。ロストス軍を駆逐したようで俺もホッとしている。援軍を出せずに申し訳ない……だがメノッサに軍を集結させているとはどうしたことだ?」
「それは当然、ロストス王国を攻めるためです。我が国の地を踏みにじったのです。目に物を見せてやらねばならぬでしょう」
ユベールの回答は予想通りのものであった。
短期間で失地回復した辺り問題はないのだろうが、ジークハルトとしては心配にもなる。
何せロストス王国から攻め寄せたのは五○○○○以上と聞く。
「見たところ、大した軍勢でもないようだが大丈夫なのか?」
「何を申されるのです、義兄上。ゴブリンなど使徒の力を持ってすれば容易く滅ぼせましょう」
ユベールの口調は明るく、微塵も不安はない様子だ。
使徒の力を十分に理解しているジークハルトとしても、容易かは別として決して負ける戦ではないと考えていた。
気になるのは他の点だ。
「それは理解している。だが他の公爵家の援軍はないのか? 領土が侵されたのだぞ?」
「それが良く分からないのです……カルディア公にしばらくの間、領都へ戻れと言われたくらいで……父上にも会えませんでしたし」
「……? ファドラ公爵閣下に会えなかった? ジャグラート討伐で何かあったのか?」
「存じませぬ。雷光騎士団も未帰還ですし訳が分かりません……」
「確かに謎だな……」
もしかしてファドラ公爵の身に何かあったのでは?
危うくそう言い掛けてジークハルトは、慌てて言葉を飲み込んだ。
この状況で態々ユベールを動揺させる訳にもいくまい。
「とにかくこのようなことになったのです。父に代わり報復するしかないでしょう。問題があれば中央が何か言ってくるはず……」
「そうだな。それに他国者の俺が口出しする問題でもあるまい。すまんな」
「い、いえ! ご心配をお掛け致しまして申し訳ございません! 義兄上!」
すまなさそうな表情のジークハルトを見て、ユベールは慌てて恐縮し始めた。
個人的には手を貸してやりたいジークハルトだったが、幾ら婚姻関係を結ぶ同盟国とは言え、勝手は許されない。
だが――ないとは思うがグラエキア王国東部ががら空きの状態なのに、指を咥えて見ているだけの王家ばかりではないのがドレスデン連合王国と言う国家だ。
「気にしないでくれ。だが、そうだな……ドレスデン連合王国のフェリア王家が変な欲目を出すかも知れん。背後は俺が護ろう」
「そんなまさか……ドレスデン連合王国とは同盟国です。心配には及ばないのでは?」
「愚か者はな、そんなまさかと思うことを突然やってくるから注意が必要なのだ」
「なるほど……ではお言葉に甘えさせて頂きましょう」
ジークハルトが神妙な表情で告げたことで、ユベールにも深刻さが伝わったのだろう。
彼も真面目な顔で頷いた。
「ではまたな。武運を祈っている!」
「ありがとうございます、義兄上。姉上とガリオン王家の方々によろしくお伝え下さい」
―――
――
―
「よし……すぐにフェリア王家の軍を追う」
ジークハルトの決断の言葉を聞いた面々の表情が明るいものに変わった。
普段から優しくて穏やかなフォセットも、ファドラとガリオンの血を引くだけあっていざとなれば勇敢に戦う女性だ。
ファドラの血もガリオンの血も弱いとは言え、古代竜の血脈に連なる者と言うだけで、十分な強さを持っている。
「ファナール! レイクたちを残していく。留守は頼むぞ!」
「は、命に代えましても!」
「お兄様、わたくしもガリオン王家の娘……お任せ下さい」
2人がら頼もしい返事が返ってくる。
ジークハルト自身にもフェリア王家軍などには負けないと言う自負がある。
「銀鱗騎士団、六○○○で追撃する。残りは任せる」
ジークハルトは次々と命令を伝えていく。
「侵攻反対派へ使者を出す。連携して侵攻派を牽制せよ」
白銀の全身鎧を纏ったジークハルトは、最後に聖剣ガリスディーヴァを腰に佩いた。
「俺はフェリア王家を撃破し次第、セドリック陛下の説得に向かうつもりだ」
「そ、それは反対です! 兄上の言葉に耳を貸すような方ではないでしょう!」
聞きづてならないとばかりに、ファナールは素っ頓狂な声を上げた。
心配してくれているのだろうが、問題はないと思っている。
ジークハルトは新王セドリックを懇々と諭せば聞き入れてもらえると考えていた。
「ジークハルト様、行けば殺されてしまうかも知れません……ご自重下さいませ」
どうやらフォセットも同感の様子だ。
その表情からは悲壮感が漂っている。
それほど信頼されていないのかと考えると思わずため息が出そうになるが、セドリックはあの賢王リューディガーの嫡男なのだ。
必ずやジークハルトの言葉は彼の心に届くだろう。
「取り敢えず出撃する。では行ってくるぞ!」
こうしてジークハルトは銀鱗騎士団、六○○○を率いて、ロンメル領メノッサに迫るフェリア王家軍の追撃に向かった。
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次回、ロストス王国領内深くに侵攻するユベール軍。
レクスは心配しつつも別行動を取り始める。




