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【注目度1位御礼!】『セレンティア・サ・ガ』~ゲーム世界のモブに転生したはずなのにどうしてもキャラと本編が逃がしてくれません~  作者: 波 七海
第四章 双龍戦争と世界大乱

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第4話 巨星堕つ

いつもお読み頂きありがとうございます!

 ――聖グローリア暦1329年5月22日。


 『ロイナス王太子、討ち死に』の衝撃の傷がようやく癒えてきた頃。


 王都に再び災いが降り掛かった。

 僅か1カ月も経たない内の訃報は国内に瞬く間に広がることになる。



 グラエキア王国国王ヘルヴォル・アウラ・カルナック。



 使徒を束ねる黄金竜アウラナーガの血脈に連なる者にして、漆黒竜に抗う者。


 それが死んだ。


 享年72。


 死因は現時点では不明と発表されたが、貴族のみならず国民たちの脳裏に、『あの人物』の顔を過ったのは想像に難くない。

 恐らくは老衰と、ロイナス王太子の死のショックから来る心労が祟っての衰弱死ではないかとの噂が瞬く間に王都内に広がった。


 相次ぐ訃報に、特に国民からは王国の未来を憂い嘆く声が漏れ出していた。


 この報せはすぐに世界中を駆け巡るだろう。


 となればグラエキア王国を取り巻く情勢は、今以上に不安定なものになるのは必定。


 王位継承問題が起きていることを知っている世界各国から、獲物を狙うかのような視線を向けられるのは疑い様がない。とは言え、腐っても古代竜の血に連なる使徒――6公爵家が存在する以上、武力侵攻の線は薄い。



 となれば――




 ―――




 カルナック王家の者たちがヘイヴォルの国葬の準備に追われる中、カルディア公爵邸でも使用人たちが慌ただしく走り回っている。


 とは言え、貴族街全体としては、総じてお通夜のような静寂に包みこまれていた。ただ国王の死をいたんでいるだけなのか、それとも大人しく今後の動向を探っているのか。



「本当にお亡くなりになるとはな。やはりレクス殿の言った通りか……」



 ソファに腰を沈めて、カルディア公が遠い目になりながら呟いた。

 そこは大貴族の邸宅らしい広々とした開放感のあるリビング。



「ヘイヴォル陛下のご様子は誰の目から見ても尋常ではありませんでした。特段、レクス殿が……と言う訳でもないのではありませんか?」


「そんな訳がないだろう? 陛下のご容体など殆どの者が知らぬ。国民の前に出たのもジャグラートの閲兵式が最後なのだ。あの時はそれほど症状が悪い訳でもなかったからな」



 カルディア公爵家でレクスの件を知っているのは、戦闘執事のクロノスと〈狼牙デファンス〉隊長のイリアスのみ。

 言葉に詰まり、馬鹿さ加減を現してしまったのはイリアスだ。

 彼としてはどうしても信じられないのだろうが、カルディア公としてもまだまだ実感に乏しい状態ではあった。



「信じられんのは理解できるがね。あのホーリィ聖下や教会の連中……他にも多くの密偵が彼の動向を注視している事実くらいは認めるのだな」



 イリアスはそれでも納得できないようで物言いたげな表情を作るが、何とか言葉を飲み込むと何とか了承の返事を絞り出す。

 カルディア公の言ったことは、イリアス自身が1番よく分かっているはずなのだ。


 少しばかり空気が重くなった中でもカルディア公は、一切気にする素振りを見せずに思考の波に身を委ねていた。イリアスも若いのに頭が固いなとは思ったが。


 そこへ丁寧に扉を開けて入ってくる者がいた。

 クロノスとカルディア公爵家が第1公子シリル、そして第2公女シルヴィだ。



「閣下、葬儀の準備は恙なく進んでおります。それとは別件ですが、貴族の方々がお出でですが如何なさいますか?」



 微かな扉と靴の音に気が付いたカルディア公が、頭を上げた目の前には礼をするクロノスの姿。

 相変わらず洗練された振る舞いと立ち姿で、所作だけで見る者を引き付ける。



「ご苦労、クロノス。会っておこうか。モロア卿とブルレーク卿だったか?」


「はい。応接室の方へお通ししております」



 おもむろに席を立ったカルディア公の元にシルヴィが駆け寄ってくる。

 レクスからもたらされた神の想い出(ロギア・メメント)によって救われた愛しの娘だ。



「お父様! レクス様が東へ旅立たれたとお聞きしました! 何かあったのでしょうか?」


「こらこら……陛下の崩御の件より先にレクス殿の心配とは……」


「あっ失礼致しました! 国王陛下がお亡くなりになってどうなってしまうのでしょう……」



 シルヴィは慌てた様子で口に手をやり口を噤んだ。

 優先順位はレクスの方が上のようだが、流石にこの国の状況を思い出して急に不安が押し寄せてきたのだろう。愛娘の可愛らしい表情がコロコロと変化するのを見て、思わずカルディア公の表情が緩み、温かい目で彼女を見つめている。


 その様子を窺っていたシリルが、皆が沈黙したタイミングを見計らったかのように口を開くと、弛緩した空気を切り裂いた。



「父上、お願いがございます! 私ももう17歳。貴族方との会談に立ち会わせて頂きたく!」



 シリルの方は貴族の来訪を聞きつけて、クロノスに付いて来たのだろう。

 何か思うところがあったのか、その表情からは本気度が伝わってくる。

 既に社交界デビューはとっくの昔に果たしているし、使徒の子女たち共も交流しているようだが……。


 顎に手を当てて考えるカルディア公の頭の内。

 これからの動乱を乗り切るためには、息子の職業クラス、『破戒騎士ルインナイト』の力が必要になる時が来る。


 何のために戦うのかは日頃から教え込んでいるので問題はなさそうだが、レクスの予言を考慮すると不安の芽は摘んでおいた方が良い。


 今は盤石なカルディア公爵家とは言えども、自分に何かあれば王国内外の海千山千の腹に一物も二物もある曲者と対峙することになる。

 それに貴族と相対するのは、必須スキルであることに変わりはない。



「よかろう。シリルの同席を許す」


「真ですか!! 父上ありがとうございます!」


「むぅ……もしかしてレクス様のお話も? 私も聞きたいです!」



 両手でガッツポーズを作り喜びを体全体で表現しているシリルを見て、シルヴィは不満の声を上げた。

 目を細めて睨んでくる彼女の蒼い瞳には落胆と不満の色が見て取れる。

 やれやれとばかりにため息をきながらも、カルディア公の顔は満更でもない。

 彼女がレクスと絡むのは問題などないし、むしろ仲が深まって欲しいとまで思っていた。


 だが、今回の面会にレクスは関係ない。

 カルディア公が、シルヴィの黒く艶やかな髪を優しく撫でながら諭すと、彼女は素直に引き下がった。しゅんとする彼女を見ると、その愛らしい仕草に胸に得も知れぬ"何か"が去来する。

 この場から離れるのは非常に名残惜しいが、それをぐっと堪えてシリルへと言葉を掛けるカルディア公。



「ではシリル、行こうか。シルヴィは自由にしていなさい」


「はい父上」


「分かりました……お父様」



 2人の態度は対照的だ。

 国王崩御の発表を受けて竜前試合は中止されており、撤退する出店も多くなって閑散とし始めている。自粛ムードで王都からは活気が消え失せているのでシルヴィも大人しくしているしかない。


 リビングから出たカルディア公は、シリルとクロノスを引き連れて応接室へと足を向ける。


 王都北にそびえ立つネフィリア山脈から吹き付けるマイア風が、廊下の窓と外壁に当たり軋み音を上げている。

 季節の移ろいを漠然と感じていたカルディア公に、シリルが突如話し掛ける。



「父上、此度の貴族方は何用で参られたのでしょうか?」


「ん……? そうだな……。シリル、カルナック王家が不穏な今、貴族たちが考えることは何だと思う?」



 質問に質問で返されるとは思わずに、シリルからは言葉が出て来ない。

 父親の期待を感じたシリルは、はたと考え込む姿勢を見せ黙り込んだ。


 短い沈黙が降り、聞こえてくるのは強風が窓を叩く音のみ。


 熟考していたシリルは、僅かな時間で答えにたどり着いたようで、自信ありげに口を開く。



「それは……やはり徒党を組み、少しでも自身の安全を確保しようとするのでないでしょうか」


「そうだな。思惑や利害が一致する者と組むのは当然だ。だが付け加えておこうか」



 ふむ……と頷きながらもカルディア公は、まだまだ最適解に至っていない息子に対して噛んで含めるように言い聞かせる。

 シリルなりに見つけた答えなのだろうが、本質を見極めるには程遠い。



「王家が直面している1番の問題は何だ? それは後継者問題だ。ロイナス王太子が亡くなったとは言え、正統な後継者は存在する。王家の中で色濃く血を受け継いでいる方は1人ではないのだ。そこに貴族たちの思惑が絡んでくる。特に我が国は使徒たる公爵家の力が強い。いくら王位後継者順位が決まっているからと言って、それを素直に受け入れる必要などないと言うことだ」



 一息に話したカルディア公が言葉を切って、シリルの様子をチラリと横目で見やると、首を縦に振りながらも、いまいち理解できていないようだ。

 カルディア公は視線を戻して歩を進めつつ更に言葉を続ける。



「然も正当であるかのような理由をでっち上げれば、継承順など容易く捻じ曲げることができる。理由など後付けでどうとでもなることを覚えておくように。……これから都合の良い後継者を担ぎ上げた国を割る使徒同士の対立が始まる。場合によっては国外からの介入もあると言うことも忘れるな。貴族諸侯は何処に付けば御家おいえのためになるかを考えている。この局面を見極められるかどうかが、存続するか没落するかの分水嶺となる」


「……なるほど。承知致しました。」



 神妙な面持ちで頷いたシリルは、ぶつぶつと呟きながら教えられたことを咀嚼している。


 カルディア公の言ったことは、別にレクスの受け売りと言う訳ではない。

 シルヴィの病気の件で、自身を見失っていた彼は、ロイナス王太子が死ねばどうなるかなど理解していた。

 要はそれほどにまで深い恨みをカルナック王家に対して抱いたと言うこと。


 気が付けば、応接室は目の前に迫っている。


 カルディア公は、「はてさて此度はどんな話が聞けるやら」と思いながら、クロノスが開いた開いた扉を潜り部屋の中へと足を踏み入れた。

ありがとうございました!

次回、王都内で貴族たちが水面下で動き始める。

レクスとセリアはそのまま東部への道中。

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