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【注目度1位御礼!】『セレンティア・サ・ガ』~ゲーム世界のモブに転生したはずなのにどうしてもキャラと本編が逃がしてくれません~  作者: 波 七海
第三章 血盟旅団の乱と波乱への序章

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第60話 レクスの告白、そして東部戦線へ

いつもお読み頂きありがとうございます!

「ちょっとちょっとぉ! 急にどうしたのぉ!? 真面目な顔してからにぃ……」



 レクスによって個室から強引に連れ出されたローリィが堪らず疑問の声を上げた。彼女が慌てて部屋から持ち出した超大剣を背中に背負い直すのを待って、レクスが話を切り出す。特に躊躇いなどはない。



「あのさ。ホーリィはカルディア公とは昔馴染みなんだよね?」


「ああ、昔馴染みと言うよりぃ……小さい頃に会って話したくらい? それがどうかしたのぉ?」



 意図が読めないとばかりに首を傾げた彼女は、レクスに再び問い質した。



「明日、東部戦線に向かおうと思うだけど、念のためカルディア公に話しておこうかと思うんだよね。あくまで念のためなんだけど」


「へぇ……ようやくアナタのことが知れると言う訳ねぇ? それで場をセッティングしろってことぉ?」



 とても古代神の従属神――亜神とは思えぬ、あくどい表情だが流石はホーリィ、話が速くて助かると言うものだ。

 取り敢えず頷いたレクスに、彼女の口角がますます吊り上がる。



「まさかぁ……そんな楽しそうなイベントにぃ……私ぃを参加させないなんて言わないわよねぇ……」



 あまりにも想定通りの質問に少しばかり呆れたレクスであったが、頼み事をしておいて仲間外れにする訳にもいかない。

 


「俺の方も2人連れてくるから、場所が決まったらなるべく早く教えてよ」


「ん、分かったわぁ!」



 今までで1番良い返事を聞いたような気がするが、気のでいではないはずだ。

 個室の方へ走って戻っていくホーリィの軽やかな足取りからは、何処となく嬉しそうな雰囲気が伝わってくる。


 徹底的に秘密主義を貫いてきたレクスの言葉がそれほど嬉しかったのだろうか?

 そんなことを思いながら、レクスは残りのメンバーに用件を伝えるために、参加してもらうつもりの2人の元へと足を速めた。




 ◆ ◆ ◆




「どうしてこうなった……マジか」



 レクスの口から無意識の内に小さな呟きが漏れた。

 竜前試合決勝の翌朝、カルディア公の邸宅に、予想だにしていなかった面々がズラリと顔を揃えていた。


 用意されたのは大広間。リラックスできる柔らかいソファに濃い面子が座っている状況だ。レクスの予想では、会議室のぴりぴりした空気の中で、話を切り出すことになると考えていたのだが……。


 ホーリィがどう伝えたのかは知らないが、肩肘張ってする話ではないと思ったのか。いや、恐らく緊張感を解そうとしてくれたのだろう。そうに違いない。



「いやはや、昨日の今日で重大事とはね。ホーリィ聖下から聞いた時は何かと思ったんだが……」



 その口ぶりとは裏腹にカルディア公の表情はいつもより真剣に見える。

 彼の隣にはニヤニヤして意地悪そうな笑みを浮かべるホーリィの姿が……。

 一体何をどうやって説明したのか問い詰めたい気分のレクスであった。



「急に申し訳ございません。私からお誘いすると言う訳にもいかなかったので……」



 たかが中等部1年の男子生徒が、大貴族で使徒たるカルディア公に直接を声を掛けて誘えるはずがない。

 本来であれば、話をすることすら有り得ないレベルだろう。


 大物貴族が居並ぶ中で、ぷるぷると産まれたての子ヤギのように声を震わせるのは、レクスが声を掛けた2人。

 レクスとしても申し訳なさ過ぎて、居たたまれない。



「それでレクスっち……これは、あーしとしてもちょーっとばかし聞いてないかなーって……」


「デスヨネー」


「死んだー! 僕は今日死ぬんだー! 何て面子なんだー! 粗相できないじゃないかー!」



 ソファは四面になっているのだが、レクスの両隣には、事情を知っているヒナノとテレジアが。


 正面にはカルディア公とホーリィ、その背後には戦闘執事のクロノス、カルディア公爵家の影〈狼牙デファンス〉隊長のイリアスが厳しい顔付きで立っている。


 そして何故か、もう一面にはサリオン・ド・バルバストル侯爵とヴァハル・ド・イフェド侯爵、ディオン・ド・ロードス子爵まで座っていた。



「レクス殿、久しぶりですな。ローラは迷惑を掛けておりませんか? 何でもこの世界に関する大切なお話があるとか……?」


「いやぁ……私も急にカルディア公から話を伺ってね。レクス君が来ると言うものだから興味をそそられたよ」


「おお、レクス殿、セリアと仲良くしてくれてありがとうね。何事かと驚いたが、このような場とは思わなかったな」



 ロードス子爵の言った通り、レクスもこんな場とは夢にも思わなかった。

 ローラヴィズの父親のバルバストス侯爵と、古代神信仰者でありながら、漆黒竜の血脈を継ぐ者であるイフェド侯爵。

 どちらもお茶会以来、久しぶりの再会である。

 全員と社交辞令染みた挨拶を終えると、いよいよホーリィの悪い笑みが濃くなった。



「それでぇ……? 今日はレクスから重要な話が聞けるそうだしぃ……」


「(こんにゃろ! 俺の交友関係を把握してやがったな! 悪魔のような亜神だよ)」


「そうだね。昨日の場では話しにくいことだったのだな? もっと和らいだ雰囲気にしたかったんだが……」



 すまなさそうに切り出したカルディア公だが、悪いのはホーリィの悪ノリだろう。

 そう思い掛けたレクスであったが、直ぐに考え直す。

 しっかりと伝えなかった自分の迂闊さが招いたミスなのだと。

 彼女はレクスと言う存在を見誤っているだけなのだから仕方のない話。



「そうですね……いえ、いきなりお集まり頂くようなことになり申し訳ございません。実は話と言うのは私の出自に関することなんです」



 決意が鈍らない内に、レクスはすぐに話を始めることにした。

 レクスの言葉の中に感じるものがあったのか、ヒナノとテレジアもすぐに察したようでその顔を見つめてくる。

 


「出自……? スターナ村の騎士のご子息と聞いているが……」



 当然、訝しげな顔になるのはカルディア公だが、やはりその程度の情報は知っていたようだ。ヒナノとテレジア以外の者も、レクスの言おうとしていることに理解が及ばずに、何処か困惑顔を見せている。



「今からお話するのは、恐らく信じられないことだと思いますが、これが大前提になるので聞いて頂きたい」



 前置きをしたのはそれほどの重大事だと暗に伝えるため。

 不特定多数に教えるのは誤算だったが、不幸中の幸いなのは信頼できる貴族ばかりであると言うことか。

 もちろん懸念点はあるのだが……。



「実は私は異世界人です。それに気が付いたのは11歳の時で、近い将来にこの世界に降りかかる波乱の出来事とその成り行きについて全て知っています」



 居住まいを正して一息に話し切ったレクスは俯いて小さく息を吐き出すと、不安を胸に抱きながらも思い切って顔を上げて皆の表情を窺う。

 この場にいる2人を除いた全員から困惑の視線がレクスに集中していたが、誰からも反応がない。我ながら当然のことだと思う。後は証明の問題だ。



「えーと、あーしたちは知っておりました。こちらのテレジアっちが最初に異変に気付いたんです」


「え? あッ……ぼ、僕の技能スキルである【位相感知】に彼が引っ掛かりまして……その彼の言う11歳の頃に魔力の波形が全くの別物になっていたのです。はい」



 口を開こうとしたレクスに先んじて話し始めたのはヒナノ。

 そして急に話を振られて、わたわたと挙動不審になりながらも説明するテレジア。レクスは話すつもりだったことを述べるべく、視線をホーリィに送りながら口を開く。



「そう言う訳で、私はこれからグラエキア王国が内乱状態になる上に、東部からファドラ公爵家の軍が他国へと攻め入って世界的な大戦になることを知っているんです」



 ホーリィも全くの予想外の出来事に柄にもなく混乱しているようで、ソファに体を沈めたまま固まっているのだが、考えていることは何となく理解できるような気がした。


 「あれ? ひょっとして私、やらかした?」と言ったところだろう。

 そう考えるとやけに彼女の態度が滑稽に思えて、思わずニヤケそうになるのを必死に堪えるレクス。


 最初に混乱から立ち直ったのはカルディア公。

 突如、もたらされた意味不明な言葉を何とか咀嚼しようとしているように見える。



「……あー異世界人? と言うのは? つまり何か? 君はこの世界の人間ではないと言うことなのか?」


「その通りです。ただ11歳までは普通の子供だったんだと思います。私が気が付いたのがその時期と言うことで、それまでの人格がどうなったのかまでは分かりません」


「……なるほど。それで君はあの時に……となるとあれは全て本当に起こることなのかね?」



 すぐに気が付いたのも、王都にロイナス王太子の訃報が届いた後の会談の内容に行き当ったからだと思われる。カルディア公からの問い掛けに、硬直していた者たちが呪縛から解かれて、その視線をレクスに集中させた。



「必ず起こります」



 胸を張って堂々と断言したレクスの様子を見て、ようやく貴族たちの口から言葉が飛び出した。



「カ、カルディア卿はご存じだったのですか!? ……!? で、では神の想い出(ロギア・メメント)の件も……?」


「落ち着きたまえ、ロードス卿。あれは私も知らなかったことだ」


「なるほど……茶会で感じたあの違和感の正体はこれだったのか……しかし異世界人? 本当にそのような存在がいると言うのか……?」


「……それでか……理解したよ。だからスラムの教会で私に声を掛けたのだね?」



 一喝したカルディア公とレクスに交互に目を向けて、狼狽するロードス子爵。

 バルバストス侯爵は俯いてぶつぶつと小声で呟きだし、イフェド侯爵も声を上ずらせてレクスへと尋ねてくる。

 貴族と言えど、やはり人の子だと言うことだ。



「ふぅん……私ぃはてっきり魂に宿る物についての話だと思ったんだけどぉ……私としたことが抜かったわねぇ。悪かったわレクスぅ……呼ぶ人を間違えたみたい」


「別に構わないよ。釘を差さなかった俺のせいですしね」



 珍しいものもあるものだと、レクスが目を見開いてホーリィを見つめた。

 ついでに耳も疑ったが、彼女が素直に謝るとはレクスも思わなかったことだ。

 済んだことは仕方ないので、レクスは咳払いを1つして気を取り直すと、今日の話し合いの意味を皆に伝えた。



「それでご相談なのですが、私の想定より混乱しそうなんです。本当は私が1つずつ危険因子を潰していこうと考えていました。しかし手が回らなくなりそうで、今回は閣下の知恵をお借りしたくお呼びしたと言う訳です。それで――」



 レクスはこれから起こる出来事をつらつらと語った。


 第3王女リーゼと、これから誕生する第4王子の後継者問題が、ダイダロス公とローグ公の争いに発展し内乱になる上に、アングレス教会も後継者を担ぎ出して介入してくること。


 ロストス王国に攻め込まれて、援軍として駆けつけたファドラ公爵家のユベール公子が、逆にロストス王国を占領し、更に他国へ攻め入ること。


 ガルダーム率いる漆黒教団が、イフェド侯爵に漆黒の宝珠(ジェット・サフィラス)を与えて漆黒竜を蘇らせること。


 漆黒竜ガルムフィーネの使徒となったイフェド侯爵によって、王国の使徒たちが敗北すること。


 黄金竜アウラナーガの宝珠サフィラスの行方。


 その裏では、アングレス教会、神殿騎士団、他の宗教勢力、大長老衆、外国勢力、魔王率いる魔族勢力、古代人こだいびとの末裔など多数の勢力が暗躍すること。


 それを防ぐために、自ら動き始める者が現れることなどだ。


 全てを白状はしない。

 迂闊で決してキレ者ではないと自覚しているレクスだが、ちゃんと考えてはいるのだ。

 だからこそ、内乱を余計にややこしくさせるようなことは言わなかった。

 特に刺激したくなかったメイン格の主人公ガイネルの名前や、彼と行動を共にする者についても伏せておいた。



 後は主人公格だが――



「大きな力になりそうな者ですが、アキレス、ラーハル・フェア、マサカド、ルイーズ・ベルグラン、リナ・アウローラ――」



 ―――

 ――

 ―



 レクスが話し終わったのは、お昼を過ぎた頃。

 説明中は、誰もが聞き入って口を挟むことはなく、あまりのスケールの大きさにまるで刻が止まったかのように身じろぎ1つする者はいなかった。

 誰の顔にも「とんでもないことになった」と書いてある。


 驚きを通り越して茫然としている者や、怪訝な表情を見せる者、ヒナノやテレジアも初耳のことが多かったので唖然としている。


 イフェド侯爵に至っては自分が、災厄の中心にいることの重大さに気付いたようで、普段の優しい表情からは想像もつかないほどに眉間に皺を寄せて険しい顔をしている。よくよく見るとその拳が固く握られて震えていた。


 そんな中、最初に口を開いたのはやはり、カルディア公であった。



「ふむ……到底信じられんような話だが、他でもない君の言うことだ。最悪の事態を想定して動くように考えるとしようか」


「閣下……信じられるのですか……? このクロノス……とてもとても……」


「その通りです、閣下。我々の〈狼牙デファンス〉はそのような情報などほとんど掴んでおりません。レクス殿は()()()想像力が豊かなようだ」



 クロノスが呆気に取られた顔で問い質し、それにイリアスも馬鹿にしたような口調で同調する。そりゃそうだろうなとレクスも思うが、最悪を想定して動いておけば、何も起こらなかった時に「良かったね」の一言で済む話。

 大きな損失は出るだろうが。 



「このような荒唐無稽な話を信じて頂きありがとうございます。特にイフェド侯爵閣下をガルダームに近づけてはいけません。よろしくお願いします」



 レクスは立ち上がると、クロノスたちに応えることもなく、静かに考え事を始めたカルディア公に向かって深々と頭を下げた。



「レクスっち……」


「レクス君……」



 大切な者たちを護るためには行動しない訳にはいかない。

 ヒナノとテレジアから不安げな言葉が漏れるが、レクスは両隣の彼女たちを見て微笑みを返す。ただ安心して欲しかった。

 彼女たちも今や護るべき者に含まれているから。

 世界に混乱が広がれば、レクスの縁者が巻き込まれることは必至。

 自らが利用される者になったとしても最悪の事態を回避することが最優先事項だ。


 大切な者を護りたいなら、世界を護れ。

 つまりはそう言うことなのだ。



「では東部戦線へ赴きます。よろしければファドラ公爵家への通達を頂ければ助かります」


「もちろんだ。すぐに用意するとしよう」



 レクスの要請に、カルディア公がすぐに立ち上がると部屋から出て行くと、クロノスたちも慌てて後を追いかけていく。


 他公爵家が父親の頭越しに指示など出せば、ユベールも反発するかも知れないが、レクスがわざわざ現地へ赴くのに何もできないとなると意味がない。

 最低限の自由と、ある程度の裁量は保障してもらわねば困る。



「レクス、こっちは私ぃに任せなさい!」



 自信に満ちた表情でサムズアップして断言したホーリィとレクスの視線が交差し、お互いにニヤリと歯を見せ笑い会う。

 それに応えてレクスも右手を上げて親指を立て、はっきりと言った。



「任せた! ホーリィ! ちょっくら行ってきます!」



 〈義國旅団ユリスティオ〉と〈血盟旅団ブラッディソウル〉との戦闘などまだ序盤に過ぎない。


 本格的な戦いに臨む第1歩をレクスは力強く踏み出す刻が来たのだ。

ありがとうございました!

次回、東部戦線への旅路で……。

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