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【注目度1位御礼!】『セレンティア・サ・ガ』~ゲーム世界のモブに転生したはずなのにどうしてもキャラと本編が逃がしてくれません~  作者: 波 七海
第三章 血盟旅団の乱と波乱への序章

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第58話 竜前試合が終わって

いつもお読み頂きありがとうございます!

 闘技場は大歓声に包まれ、中央に用意された表彰台に立つレクスの耳には、全方位から盛大な拍手や指笛などが聞こえてくる。


 いくら現実世界で大人として生きてきたとは言え、慣れないことには変わりはない。レクスは場違い感を覚えながらも、少し引きつった笑みを浮かべて観客席に向かって手を振っていた。


 そして一段低い位置に並び立つガイネル、そして3位決定戦を圧倒的な強さで制したマルグリットも同様に喜び表情を見せて、称賛の声に応えている。


 満を持して表彰式に姿を見せたのは、学園長のヒナノ・プロキオンその人であった。


 不敵な笑みを浮かべて近づいて来るが、いつもとは違う格好をしている。

 全く宮廷魔導士らしい風貌ではなく、赤い軍服に白いマントを纏っているが案外似合っていると感じてしまうレクスである。



「ふふふ……3人共! よく戦ったし! でもキミたちちょっと強過ぎぃ!!」



 ヒナノは思いきり砕けた口調で賛辞の言葉を送ると、マルグリット、ガイネルの順番にメダルを首に掛けていく。

 最後にレクスの前に立ったヒナノがニヤリと邪悪そうな笑みを浮かべ、大口開けて叫ぶように言い放つ。

 と言うかもう叫んでいると言った方が正しいかも知れない。



「やはりあーしの目に狂いはなかったようだね。あの圧倒的な強さよ。くぅー!! キミがいてくれて良かったーーー!!」


「ちょっとちょっと俺ばっかり褒めてどーすんですか!! 皆強かったでしょ!?」


「やだもー! それはそーだけどさーキミがいれば世界は安泰だと確信したよー! これで王国は護られるーーー!!」


「こらッ!! 学園長! 失言ですよ! 失言!」



 延々と、そして淡々と賛辞を送り続けるヒナノに突っ込み続けるレクス。

 彼女が本当に鬼才なのかと設定を疑ってしまうほどだ。



「やだなーヒナノっちって呼びなって言ってんのに、度々戻っちゃうよねー! こんな場所だから流石のレクスっちも緊張しちゃったかな?」


「しちゃったかな?じゃないですよ! こんな場所だから普通に呼ぶんでしょーが!!」


双龍戦争ドラグニク・ウォーにも早期に片が付くと言うものだよー!」


「おいちょっと黙れぇ!!」



 相変わらずの超マイペースなヒナノには調子が狂わされっぱなしである。

 レクスがヒナノとわきゃわきゃと言い合っている隣では、残されたガイネルとマルグリットが近づいて囁き合っていた。



「世界が安泰ってどう言うことなんだ? 王国が護られる……?」


「ガイネル先輩、そりゃこんな強さを見せ付けられたら、誰も王国に手を出そうとは思わないッスよ。身を持って味わったッスからよく分かったッスよね?」


「まぁ確かに……まさか『封剣』が悉く防がれるとは思ってもみなかったからね」



 そう言いながらも本心を言葉に出すことはしないガイネル。

 彼としては決勝戦の直接対決で、レクスの存在の異常性を正確に理解したつもりだ。


 今までの概念が全て吹っ飛ばされた。

 そんな戦い。



「あー最後の一撃って何なんッスかねぇ……あれは世界の理から完全に外れてますッス」



 一方、絶対神ガトゥのことを知るマルグリットからしてみれば、世界の理すら捻じ曲げて見せたレクスこそ神なのではないかと勘繰ってしまうほど。

 流石に本気にはしないが、神に並び立ち得る存在であることは確かだろうと、ますますレクスに興味を惹かれていた。



「ド、ドラゴニク戦争……? 何のことだ……?」



 ガイネルはヒナノが意味不明な言葉を連発していることをしっかりと聞いている。彼女の発言だけを考えても分からないが、レクスの今までの言動と照らし合わせると、何となく意味を見い出せるような気がしていた。


 2人の表情は両極端なもので、ガイネルは神妙な顔付きを崩さず、マルグリットに至っては、自身の悲願が達成されるかもと喜色満面であった。


 ―――


 ようやく表彰式が終わり控室に戻った3人を出迎えたのは、大会を戦った者たちや、応援していたクラスメイトたちであった。彼らが口々に自分を褒め称えて、祝福してくれたことに素直にレクスは感動して瞳が潤んでいたほどである。


 こんな経験など未だかつてしたことがない

 今までの努力が認められたような気がして嬉しさが込み上げてくる。


 また護りたい者が増えてしまった。


 嬉しい反面、重圧が圧し掛かるが、レクスとしてはより強い覚悟を決められたような気がしている。敵対するでろう者にどんな事情があったとしても、親しい者を護るためならば排除すると言う覚悟を。



「おめでとう! でもレクスが強くなり過ぎて私、悔しい!」


「ありがとう、セリア。大丈夫。これからもずっと一緒だからさ」



 セリアが頬を染めて俯きながらも、少しばかり膨れっ面をしている。

 協力して堕ちた聖者ジャンヌを倒し、いつも一緒に剣の鍛錬に励んできた大切な仲間。

 そんな彼女がお冠なようなのでレクスは何とか宥めていた。

 色々な感情が複雑に入り乱れて混乱しているのだろう。



「へ……? ずっと一緒……?」


「ああ、ずっと一緒に剣の鍛錬に励もうな!」



 一瞬で茹蛸のように真っ赤になったかと思ったら、レクスの一言を聞いたセリアが思いきり腹を殴りつけてきた。

 解せぬ。


 ローラヴィズも微笑みを見せつつも呆れたようなジト目でジーッとレクスを睨んでいる。興味なさげに見えながらも、しっかり見守っていてくれるのがローラヴィズと言う少女だ。



「まぁね。ちょっとレベルが違ったわね……。私も剣を習おうかしら」


「ありがと、ローラ。剣のことならいくらでも付き合うよ」



 レクスは素直に御礼の言葉を述べると、ローラヴィズの表情が、微笑みから満面の笑みへと一転した。

 機嫌が良さそうに、とことことレクスの傍に近づいて来る。


 彼女は賢者なので第5位階までの暗黒魔法と光魔法、付与魔法を操ることができる。

 代表的な能力ファクタスは『賢者魔法』だが物理攻撃力、防御力の成長率や補正値は少ない。要領の良い彼女であれば、剣も良いレベルまで扱えるような気がするので、今度誘ってみようかと考えるレクスであった。



「さっすがレクスだね! ボクが見込んだ男だけある! 尊敬しちゃうよ! でもこれでレクスのファンが増えるかと思うと……」



 流石のリスティル。毎度の如く圧が強い。

 今も前のめりになって、捲し立ててきたのだが、最後の方は不穏なことを言っているような気がする。

 彼女の体から発せられる地獄の業火を幻視してしまうほどだ。



「リスティルの応援はよーーーく聞こえてたよ。何処にいるか一発で分かるレベル。ありがとう!」


「いやいやそんな。まぁボクはレクスのファン1号だからね!」



 何故か大威張りで胸を張るリスティルだが、純粋に応援してくれるのは嬉しいものである。

 感謝せねばなるまい。

 レクスは自然と顔が綻ぶのを感じていた。


 攻略――世界と大切な者たちを護るためにも、様々な人々から力を借りる必要があるのかも知れない。

 転生前後に関係なく、レクスの生きる指針は『自力で道を切り開く』と言うものだったが、他者に頼ると言う選択肢も頭に入れておく必要があると気付かされる。



「わたくしが全力で放った魔法は全て防がれました。レクス君に弟子入りしようかしら」



 大魔導士のディアドラが本当に全力で殺しにきていたことが分かってレクスに戦慄が走る。名家のお嬢様であるが故に、やはり誇りがあったのだろう。



「弟子入りなんて大層なものを取るほどじゃないけど、一緒に魔法の研究とかしよっか?」


「よろしいのですか? わたくしとしては非常に有り難いのですが」


「別に問題ないでしょ。ディアドラにはもっと強くなって欲しいしな」



 レクスの言葉にディアドラの嬉しそうに笑うが、これまで見たことのないほどに破顔している。


 そこへ割り込んできた者がいた。



「ゴルァ!! レクス、テメーちょっと優勝したからっていい気になってんじゃねーぞ!!」


 こいつ、いつも噛みついてくんなと思いつつ、苦笑いになるレクス。

 毎度のことなので、レクスとしてもあしらい方は学んでいる。


「シュナイドかよ……分かった分かった。早く闇魔法の魔法陣を教えてもらおうな?」


「んぐ……!!」



 言葉に詰まるシュナイドだが、闇魔法の魔法陣は本当に少ないようだ。

 古代人が関係しているはずなので、職業クラス『魔人』に職業変更クラスチェンジできるようになりたいレクスも非常に興味を持っていることなのだ。

 また強力でもあるため、そう簡単には教えない方針を取っているように思える。

 特に彼は素行が悪いので、そこは自業自得な気もするが……。


 ボーッとそんなことを考えていたレクスが、ふと我に返るが、シュナイドが噛みついて来る気配はない。

 不思議に思って視線を戻すと、納得がいかないシュナイドにフィーネが蹴りを叩き込み、説教を始めていた。



「ははははッ!」



 自然と口から笑い声が漏れるが、こんなことは現実世界で経験したことがなかった。

 ちやほやされて嬉しいのではない。

 皆が自分のことをちゃんと考えていてくれていて、レクス自身も皆と共に在りたいと思えた。人の死がとても近いこの世界で、一瞬の出会いと出会いを大切にしていきたいと思えた。


 恐らく、誰もがレクスの異常性に気付きつつあるだろうに、誰も聞いてくる様子もないことから、配慮されているのだろうと思う。

 東部戦線に赴くためにも、ガイネル戦で圧倒的な力を見せ付ける必要があったのに。



「これはヒナノたち以外にも正直に話す人を作っておいた方が良いかも知れないな……少なくとも俺よりは頭も回るだろうし」



 周囲が騒めく中、レクスはこれからのことを考えながら小声で呟いた。


 その時、レクスの正面の壁に寄りかかっていた男から気配を向けられていることに気付く。

 


「あの、ちょっと用事があるから待ってて。すぐ終わらせてくるよ」



 隣にいたセリアとローラヴィズにそう伝えると、レクスは人の輪から抜け出そうとする。


 まだ話し足りないが、戻ってからまた話せばいいだけだ。

 その内、家族も駆けつけるだろう。

 先に別件を片付けるべく、男を追ってレクスは控室から走り去っていった。


 入れ違いでカルディア公の第2公女シルヴィが控室に入って来たが、レクスが少し場を外したと知って残念そうな表情を作る。



「お父様もいらしたし……何かあったのかな?」



 心配そうな表情になりながらも、何も知らないシルヴィは、セリアたちに話し掛けるのであった。

ありがとうございました!

次回、今回はほのぼの回になってしまいました。

王家の影が集めた情報を共有。そしてレクスは東部戦線へ。

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