学校生活4-3
五條さんが去った後に三木さんとバスケ部の谷村さんが僕に近寄って来た。
「本当は本気でやったら運動部に勧誘されるからちゃんとやらなかったんでしょ。それを言わないなんて優しいね」
「え、そうなの?バスケ部に勧誘しようと思ってたのに~」
ウィッグのほうはばれてないだろうけど三木さんはかなり鋭いな。
苦笑いで肯定すると、三木さんは笑って僕の肩を叩いた。
「やっぱり伊澤さんは優しいね。私の思ってた通りだよ。またあとでね」
また後で?谷村さんと何か約束とかしてたかな。話をするのすら初めてのはずだけど。何か予定があったかどうか聞こうと思ったらウィンクをして三木さんと一緒にいなくなってしまった。
体育が終わり、また着替えに手間取るのは嫌なので、急いで教室に向かう。
今日だけは廊下を全力疾走するのを許してほしい。
何とか誰かが来る前に着替えることはできた。寮に帰ったら着替える練習をしておかないとまずいな。
そのあとの授業は問題なくこなすことができたが、まだ問題は残っている。
それは朝のラブレターらしきものの呼び出しだ。
明らかにイタズラなら行かないで手紙を捨ててしまうのだが、どうしようかな。
便箋や封筒はすごくかわいいくて、物だけを見ると、冗談ではないと思う。
しかし、名前が書かれていないのだ。他の物は全部名前が書いてあるが今日の呼び出しのものだけどこにも書かれていなかった。
でも内容をみると昨日会ったときに一目惚れしたというもので便箋2枚分にぎっしりと文字が書いてあってやはりイタズラとは思えなかった。
これを無視して呼び出しの場所に行かないのは、人として駄目だろう。
断るにしてもちゃんと目を見て返事をしなければいけない。
憂鬱な気分になりながらも放課後校舎裏に行くことにした。
こんなところ告白かカツアゲくらいでしか、来ないよな。
日当たりも悪くジメジメしてはいるが誰も来ないだろうし秘密の話をするにはもってこいの場所だろう。
校舎裏の呼び出された場所に行くと同じクラスの女の子がすでにいた。というか、さっきのバスケの敵チームにいた、バスケ部の谷村さんだった。
谷村さんは亜麻色の髪をしており、バスケをやっているときは機敏な動きをしていたが、普段は雰囲気が柔らかくややおっとりしている印象を受ける。
彼女は僕を見つけると、笑顔を僕に向けてこちらに走ってきた。
「来てくれてありがとう」
「あの手紙をもらって来ない人はいないよ。名前が書いていなかったから一瞬イタズラかと思ったけど」
「ありゃ~ごめんね。文章のほうに力入れすぎて名前書き忘れちゃった。そういえば、今日のバスケ凄かったね。バスケ部に入ってほしいくらいだよ」
「ありがとう。でもさっきも言ったけど高校では運動部に入らないって決めてるから」
「そっか、あんなに上手いのに勿体無いな~。バスケ部入ってくれたらもっと一緒にいれると思ったのに~。まあバスケ部の話はとりあえずいいや」
何かを決心したような顔をして彼女は話し続ける。
「昨日、教室で見たときに一目惚れして、今日の体育で更に惚れたの。私と付き合ってください」
初めて女の子に告白された。
半信半疑だったがやはり告白だったのか。
嬉しくないかというと嘘にはなるが、やはり告白を受けることはできないだろう。
そもそも彼女は男の僕ではなく、女の姿の僕を好きになってくれたのだから。
「ごめんなさい。昨日会ったばかりであなたの事を全然知らないので付き合うことはできない」
なるべく傷つけないように言葉を選んだつもりだったが彼女は下を向いて顔を真っ赤にしてぶつぶつ独り言を唱えていた。
もしかして怒らせてしまったのだろうか。
しばらくして彼女が顔をあげると見たことがないくらいの笑顔で僕の肩を掴み顔を見上げた。
「じゃあ、私の事を知ってくれたら付き合ってくれるってことだよね?」
あれ?付き合えないって言ったはずなのに、上手く伝わってない気がする。
早く誤解を解かなければいけないな。
「いや、そうじゃなくて…」
「え?」
谷村さんの目から一瞬でハイライトが消えて、無言で僕の肩に力を込める。
命の危機を感じるんだけど告白ってこんな怖いイベントだっけ。
とりあえずもう一度断ってみよう。
「ごめんなさい、あなたとは付き合えない」
目のハイライトが戻らない彼女は凄い勢いで話しかけてくる。
「それは、私の事を知らないからだよね。まずは友達からってことにしようよ。これからは優ちゃんって呼ぶから私のことは伊織って呼んでね」
ものすごい圧を感じるし、取り敢えず彼女に合わせておこう。
「じゃあ、とりあえず友達ってことでいいかな」
「うん、今はそれでいいよ」
徐々に締め付けがゆるくなり、なんとか命の危機は回避するとこができた気がする。
読んでくださりありがとうございます。
投稿が遅れてしまい大変申し訳ありません。
いよいよ次の話しから長編に入るので期待して見ていただけると嬉しいです。
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