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誕生日14-1

生徒会選挙から数日が経ち、新生徒会にもようやく慣れはじめていた。


「伊澤だけど開けていい?」


生徒会室のドアを軽くノックし、部屋に聞こえるように少し大きめの声で話しかける。


「はい、どうぞ。開いてますよ」


「あれ?今日は百瀬さんだけ?」


生徒会室に入ると生徒会の書記に就任した百瀬心が黙々と生徒会業務を行なっていた。


綺麗に切り揃えられた前髪、縛らなければ胸あたりまである長さの髪をサイドで束ねているのが特徴的で、絶対に本人には言わないがかなり可愛い。


「ええ、宮森は掃除。一ノ瀬さんは先程まで居ましたが書類を職員室に出しに行きましたね。私だけでは嫌ですか」


「嫌じゃないよ。からかわないで」


生徒会役員になってからは百瀬さんの言動は丸くなったが、息をするように僕のことをからかうのは変わっていない。


「すみません、でも男の子としては可愛い女の子がたくさんいた方が良いじゃないですか?」


「たまに誰かのファンが生徒会室の前で出待ちしているときもあるしそういうこと言わないで」


以前に一ノ瀬さんと話していた時も花宮さんに聞かれて男だとバレた。生徒会室という安全な空間にいても男バレは全力で警戒をしておくに越したことはない。


「確かにそうですね。ファンだけじゃなく宮森にバレても大変なことになりますからここではやめた方が良いですね」


百瀬さんの言う通りファンよりも宮森さんの方を警戒しなければいけない。生徒会の会計であり同じ寮に住んでいる宮森さんは男性が苦手だ。もし男だとバレでもすれば大変なことになる。


「うん、だから僕の秘密はここでもあまり言わないでね」


「分かりました。そういえば珈琲入れますけど飲みます?」


「ありがとう。貰うよ」


「じゃあ準備しますね。生徒会の仕事は麗さんが来てからにしましょうか。ちょっと待っていてください」


「うん、ありがと」


百瀬さんは戸棚からフィルターと珈琲粉を取り出し珈琲メーカーの方に向かう。


百瀬さんは口は悪いが、さらっと珈琲を入れてくれたり細かな気配りができるので可愛い後輩なのかもしれない。


全部任せるのも申し訳ないので百瀬さんが珈琲をいれてくれている間に机を拭き戸棚からお菓子を数個出してソファーの前にある机に置く。


「この部屋って職権乱用だよね」


生徒会室はソファー、珈琲メーカー、冷蔵庫など生活が出来そうなくらい電化製品や家具が充実している。


「ちょっとくらい優遇されていてもいいじゃないですか。ちゃんと生徒会業務はしていますし」


珈琲を机に置き、百瀬さんは僕の隣に座る。


「まあ、たしかにそれくらいのご褒美はあってもいいかも。珈琲ありがと」


「ええ、まだあるのでおかわりが欲しがったらいってください」


二人でソファーに座りながらまったりお菓子を食べていると百瀬さんが突然話を切り出した。


「そういえば生徒会室に入ってくるときに元気が無さように見えましたけど何かあったんですか?」


百瀬さんは何かをさぐるように僕の目をじっと見つめながら近づく。


「いや、別になんでもないよ。それにちょっと近い」


百瀬さんは相変わらず人の機微によく気が付く。確かに僕はこの数日間悩みごとがあった。


「再来週のテストが不安とかですか?」


「違うよ。百瀬さんでも外すことあるんだね」


いつもいいように当てられているので、百瀬さんが外すと少し嬉しくなってしまう。


「そうですね。流石に一発正解は難しいですよ。勉強じゃないなら十川さんと何かありましたか」


「いや、そういうのじゃないよ」


一瞬、神無の苗字が出てきて驚いたが先ほどと全く同じ返事をすることができた。

これならいくら百瀬さんでもわからないだろう。



「伊澤さんって本当に分かりやすいですね」


「えっ」


「顔に出すぎですよ。よくそれで今まで男だってバレませんでしたね」


「だからそれは言わないで」


「あ、ついつい。それで悩んでいる理由は何なんですか」


「はあ、引き下がってくれなさそうだから言うけど馬鹿にしないでね」


「どんなことでも馬鹿になんてしませんよ。そもそも伊澤さんを馬鹿にしたことなんて一回も無いです」


世界一信用できない宣言をされて言うのをやめようかとも思ったが、他の人が来る前に話したほうが良いだろう。


「神無の誕生日に何をしようかなって」


「ああ、のろけですか。ごちそうさまです」


途端に興味を失くし、呆れるような目で僕の方を見る。


「馬鹿にしないって言ったのに…本気で悩んでるんだけど」


「何を心配しているのか知りませんけど十川さんなら何でも喜んでくれますよ」


「そうかもしれないけど付き合ってからはじめての誕生日だから何かしたいんだよね。女の子ってサプライズとか好きって聞くし」


「そんなの人によりますよ。私はだいたい事前にわかってしまうので大嫌いですね。欲しくないものに喜ぶのも面倒なのでデートの時に一緒に選びたいですね」


言い方は悪いが下手なサプライズよりはそちらの方がよいかもしれない。


「そもそも十川さんにサプライズなんて不可能ですよね?」


神無は人の目を見ただけで考えていることがわかってしまう。

これ程サプライズをするのに向かない相手もいないだろう。


「そうなんだよね…昨日神無に適当で良いよって言われた」


「悩んでるのバレバレじゃないですか」


「うん…」


「まあサプライズで何か企画するのは無理ですけどプレゼントくらいは渡した方がいいと思いますよ」


「うん、でもプレゼントすら思いついてないんだよね。最初は化粧品がいいかなって思ってたんだけど」


「悪くないと思いますけど?普段自分では買えないちょっと高い化粧品とかはプレゼントの定番ですよ」



「でも神無のお母さんって世界中で仕事をしてて色んな化粧品とか送ってくるんだよね。しかも神無は全然興味なさそうだし」


「興味が無い物を贈っても意味がないので駄目ですね。十川さんが絶対に喜びそうな物ってなにか無いんですか?」


「チョコかな」


「友達ならそれでいいですけど、彼女の誕生日に消えものを渡すのはセンス無いですね」


的確にアドバイスをしてくれているようでただ単に僕のことを言葉でぼこぼこにしているだけなのかもしれない。


「いや、わかってるけどそれしか喜びそうな物が思い付かなかったんだ。神無って何かが欲しいとかって全然言わないんだよね。本当に必要な物は自分で買ってそうだし」


「はぁ、じゃあ十川さんの部屋に行ったことありますよね?」


「うん、何回も入ったことあるよ」


「ぬいぐるみがあるとか、家具にこだわってるとかそういうのは無いんですか?」


神無の部屋はパソコン周りにだけはこだわりを感じる部屋だがそれ以外はほとんど何も無い。


「全く無いんだよね。エンジニアみたいな部屋で僕よりも男っぽい」


「全然駄目ですね。彼女の好みも知らないなんて。じゃあ十川さんと仲が良い人に聞いてみるっていうのはどうですか?」


「それ、いいかもしれない。丁度明日行くから」


言葉にトゲはあるが的確なアドバイスはくれる。普段から占いで恋愛相談をされているだけはあるのかもしれない。



「誰と会うんですか?伊澤さんよりも十川さんと仲がよい人っているんですか」


「神無のお父さん」

お読み頂きありがとうございます!!


遅くなってすみませんでした。

やっとプライベートが落ち着いたので再開します!

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